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えん罪・袴田事件再審無罪判決に際し、袴田巖氏が
真の自由を享受するため、検察官は直ちに上訴権を放棄すること、
再審法制の抜本的改正の速やかな実現を求める議長声明 |
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元プロボクサーで死刑確定者の袴田巖さんが無実を訴えて再審を求めている「袴田事件」で、2024年9月26日、静岡地方裁判所は、再審無罪判決を言い渡した。死刑確定者に対する再審無罪判決は戦後5例目である。
袴田事件は、1966年6月30日未明、旧清水市(現静岡市清水区)の味噌製造会社専務宅で、一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件の犯人とされ死刑判決を受けた元プロボクサーの袴田巖さんが無実であることを訴えて再審、無罪判決を求めている事件である。
袴田さんは、1980年に死刑判決が確定して以来、再審請求を行ってきたが、2014年3月27日、静岡地裁は、再審開始を認めると同時に袴田巖さんの即日釈放を命じた。
ところが、検察官が同決定に対して即時抗告をした結果、2018年6月11日、東京高裁は、検察官の即時抗告を認容し再審開始決定を取消し、再審請求を棄却する決定を下したが、2020年12月22日、最高裁は、原決定を取り消して、本件審理を東京高裁に差し戻す決定をし、2023年3月13日、東京高裁は、静岡地裁再審開始決定の判断を是認、検察官の即時抗告を棄却し、検察官が特別抗告を断念したため再審開始決定は確定した。
静岡地裁において2023年10月27日以降、15回に及ぶ公判審理が行われた結果、裁判所は、事件発生から58年を経て初めて無罪判決を言い渡したのである。
静岡地裁無罪判決は、捜査段階で作成された自白調書が非人道的な取調べによって作成されたねつ造証拠であるとして証拠排除し、さらには有罪判決の決定的証拠とされた5点の衣類と端切れは捜査機関によるねつ造証拠であると断じ証拠から排除し、その余の証拠からは袴田さんの犯人性を推認することはできないとして「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則に照らし無罪の結論を導いた。
この無罪判決によって明らかにされたのは、袴田さんに対する予断と偏見をもった捜査機関による違法捜査のオンパレードであり、これらは憲法上保障されているはずの被疑者被告人の権利を著しく侵害するものであり許し難い蛮行というほかない。
しかしながら、検察官は、再審開始決定時点で明らかにされたこれらの過ちについて一切反省することなく再審公判では有罪立証、死刑求刑を平然と行い、さらには今回の無罪判決に対しても控訴の可能性を示唆しているとの報道もなされている状況にある。
無辜の救済という再審制度の基本理念に立ち返れば、本来、再審開始決定に対して検察官が上訴すること自体が重大な矛盾をはらんでおり、ましてや、再審無罪判決に対して検察官が控訴をするなど言語道断である。
袴田さんは、現在、88歳であり、姉のひで子さんは91歳である。もはや一刻の猶予もない。
当部会は、刑事司法に関しては、憲法上保障された被疑者被告人の権利保障を徹底する立場から一貫して事件活動、立法課題に取り組んできた法律家団体であり、多くの会員が袴田事件はじめその他の再審事件、冤罪事件の弁護活動に関与している。
当部会は、袴田事件再審無罪判決を受けて、まずもって、検察官に対しては直ちに上訴権を放棄し控訴をすることなく無罪判決を確定させ袴田さんに一日も早い無辜の救済を実現するよう求める。また、同時に、袴田事件無罪判決によって日本の再審法制が無辜の救済に十分に機能していないことが明らかにされたことを踏まえて、再審における証拠開示の規定整備、再審開始決定に対する検察官上訴の禁止などを含む再審法制の抜本的改正を速やかに実現するよう求める。 |
2024年10月3日 |
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長 笹 山 尚 人 |
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