律家会弁護士学者合同部会
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福島原発事故の被害者による損害賠償請求訴訟に連帯し、
原子力発電所の再稼働の即時停止、及び原子力発電所の新設に反対し、
東京電力のALPS処理汚染水海洋放出の中止を求める決議
1 名古屋高等裁判所判決
 2023年11月22日、名古屋高等裁判所は、福島県の県北・県中・県南・相双・いわき地域の各原告が、国と東京電力に対し、福島原発事故による損害の賠償請求をした事件(だまっちゃおれん!原発事故人権侵害訴訟・愛知岐阜)で、国の責任を否定する判決(以下、「名古屋高裁判決」という)を出した。
 判旨は、「経済産業大臣が規制権限を行使して技術基準適合命令を発令していたとしても、それによって講じられる措置の内容は、福島第一原発の敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐための防潮堤等の設置となった可能性が高く、仮にその設置が行われていたとしても、平成23年3月11日の津波の到来により大量の海水が敷地に浸入することは避けられなかった可能性が高い」(判決要旨から引用)として、国の賠償責任を否定した。
 名古屋高裁判決は、防潮堤等の設置があったとしても、原発事故を防ぐことはできなかった可能性は高いとして、国の責任を否定する2022年6月17日の最高裁判決(以下、「最高裁判決」という)にならったものである。
 最高裁判決の問題は当部会でも批判し、国の責任を認める判決が出されるべきである旨決議している(2022年6月26日決議)。
 最高裁判決(多数意見)は説得的ではなく、国の責任を追及する後続事件を担当する地方裁判所、高等裁判所の裁判官であれば、その良心に従って、国の責任を認める判決を出し、最高裁判決を覆すべきである。しかし、名古屋高裁判決は、漫然と最高裁判決に従う判決を出したものであり、説得力を持たない。
 今後も、2024年1月までの間に、国の責任に関する高裁、地裁の判決が予定されており、最高裁判決の誤りを端的に指摘し、誤りを正す判決が出されるべきであり、当部会は、国の責任を追及する各訴訟に連帯し、活動する。

2 原発の再稼働について
 最高裁判決は、想定外の事象により原発事故が起きたとしても、その責任を負う必要はないという論理により、国の責任を否定するものである。
 原子力発電所は、次のような性質を持つため、厳重な規制が課せられている。
 「原子炉が、原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を及ぼすおそれがあることに鑑み、その災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉の設置後の経済産業大臣において、科学的、専門技術的見地から、原子炉施設が適切に維持されるよう、適時に技術基準を定めるとともに、原子炉施設がこれに適合していないときは、できる限り速やかに、これに適合するように命ずることができることとしたものと解される(最高裁三浦守反対意見)」。
 このように、原発事故は、発生した際の重大な危害、深刻な災害を生じさせるような性質があるにもかかわらず、「想定外」が許されるのであれば、原発事故を防ぐことなどできない。
 2011年3月11日の原発事故後、原発の稼働の差止を認める判決・決定が出されたのは、福井地方裁判所(2014年5月21日、大飯原発3,4号機)、福井地方裁判所(2015年4月14日、高浜原発3,4号機)、大津地方裁判所(2016年3月9日、高浜原発3,4号機)、広島高等裁判所(2017年12月13日、伊方原発3号機)、広島高等裁判所(2020年1月17日、伊方原発3号機)などである。他方で、2023年3月24日、広島高等裁判所決定(伊方原発3号機)など、再稼働を認める裁判所の判断も出されている。同決定は、規制基準の不合理性及び適用の不合理性の立証、具体的危険性の立証を住民側に求めて、その立証ができていないとして四国電力を勝訴させたものであり、住民らの訴えを真摯に受け止めたものとは評価できない。
 再稼働を許す裁判所の判断が出されたことについても、最高裁判決の影響が指摘されている。
 しかし、地震大国である日本において、原子力発電所の安全性が確保されているとはいえず、原子力発電所の再稼働は即時停止されるべきであり、また、原子力発電所の新設も許されない。
 また、最高裁判決の後、国は原発の稼働期間の延長を決めており、2011年3月11日の原発事故はなかったもののように原発政策がすすめられており、到底許されない。

3 原発事故の影響は終わっていないこと
 原発事故による避難、賠償の不十分さ、原発事故後の原発近くで滞在せざるを得ないことの被害、廃炉の技術的問題、双葉町、大熊町、浪江町などで帰還困難区域が残っていることなど、原発事故による被害は今も残っている。
 また、2023年8月24日、東京電力は、ALPS処理汚染水の海洋放出を開始した。ALPS処理汚染水の海洋放出は、2015年に政府及び東京電力が「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と福島県漁連に文書で伝えた約束に反するものである。
 福島第一原発では、2011年3月の事故以降、地下水や雨水等が原子炉建屋内の放射性物質に触れることや燃料デブリを冷却した後の水が建屋に滞留することにより、汚染水が日々発生している。
 政府及び東京電力は、原発団研の提案する抜本的な止水対策を取ることなく、不十分な対策で汚染水を発生させ続けてきた結果、海洋放出に踏み切ることになったものであり、海洋放出によって生じる被害は政府及び東京電力の責任である。
 汚染水を処理した後の「ALPS処理水」には、放射性物質であるトリチウムが含まれているが、トリチウムの安全性については、現在のところ確立した知見が存するわけではなく、また 、「ALPS処理水」にはトリチウム以外の放射性物質が含まれていることも明らかになっている。そうである以上、放射性物質を含むALPS処理汚染水を安易に環境中に放出することは許されない。
 今後は、抜本的な止水対策を取ることにより新たな汚染水の発生を抑止しつつ、海洋放出以外の処分方法を検討し、実行に移すべきである。

4 市民連絡会の発足
 このように、原発事故による影響は、事故後12年半を経過してもなお残存しているものであり、原発事故被害の重大性は明らかである。
 だからこそ、二度と原発事故が起きないように、原発の廃止と2011年3月11日の原発事故による損害の完全な賠償、国及び東京電力の責任の追及がなされなければならない。
 これらの状況を背景として、2023年11月17日、ノーモア原発公害市民連絡会が発足した。原発公害を二度と起こさないことを目指すこの市民連絡会は、市民、学者、弁護士、ジャーナリストなどが様々な立場で参集しており、当部会の会員も多くかかわっている。
 当部会は、同市民連絡会の活動に連帯しながら、今後とも、原発事故を二度と起こさせないよう、引き続き活動する。
2023年12月2日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 3 回 常 任 委 員 会
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