律家会弁護士学者合同部会
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インボイス制度(適格請求書等保存方式)導入に反対する決議
1 はじめに
 2023(令和5)年10月1日より、いわゆるインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入される予定である。
 このインボイス制度は、現行の請求書に登録番号や税率・税額を追加した「適格請求書(インボイス)」を導入するものであり、項目別の消費税率を明確にするものであるとされている。
 このインボイス制度の導入後は、消費税の仕入税額控除を受けるためには、一定の要件を満たした適格請求書(インボイス)の発行・保存が必要となる。つまり、一定の要件を満たした適格請求書(インボイス)を売り手が買い手に交付し、双方が適格請求書を保存し、買主が課税仕入れの税額の控除に係る帳簿を保存することで、消費税の仕入税額控除が適用されるようになる。すなわち、インボイス制度導入後は、この適格請求書がなければ、仕入税額控除が適用されないことになる。
 この適格請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者のみであり、この適格請求書発行事業者になるためには、適格請求書発行事業者の登録申請を行う必要がある。そして、適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、消費税の課税事業者とならなければならず、もし免税事業者が適格請求書発行事業者になる場合には、年間の課税売上が1000万円以下でも消費税の課税事業者となる必要がある。
 当部会においては、このインボイス制度は、そもそも逆進性による貧富の格差を広げる消費税がもともと有している根源的な問題をさらに広げるものであり、下記で述べる具体的な弊害が大きいものであるから、この制度の導入には強く反対するものである。

2 消費税の逆進性の問題点と免税事業者
 そもそも消費税というものは、所得税や法人税のように所得や利潤を課税ベースとした租税と比較して、景気の変動の影響を受けにくく、徴税を行う政府の立場からすれば、安定した税収入であるという特徴がある。その反面として、消費税には、税負担率(所得に対する消費税額の比率)が、高所得者よりも低所得者の方が高くなるという、いわゆる逆進性の問題がある。
 しかもこれまで、消費税の1989(平成元)年の導入以来、3%、5%、8%、10%と順次税率が引き続き上げられてきた。そして、この消費税の導入及び税率拡大が、実質的には、これまで国の財政において、所得税や法人税の減税分の穴埋めに使われてきたという側面がある。そうしたこともあり、消費税は我が国における貧富の格差拡大の大きな要因の1つとなってきた。
 したがって、これまでにおいても、消費税は、その税率の引き上げが議論されるたびに、大きな政治的課題として取り上げられ、多くの国民から反対され、世論の反発も非常に大きいものであった。
 そうしたこともあり、年間の課税売上高が1000万円以下の小規模事業者については、消費税の納税義務を免除するという「免税事業者」の制度を設けてきた(この免税事業者の制度も、2003(平成15)年にそれまでの3000万円から1000万円に引き下げられるという経緯があった。)
 そのため、消費税そのものには、上記のような根源的な問題があるものの、経済的に立場の弱い小規模事業者にとっては、この「免税事業者」の制度によって、消費税納税によるさらなる経済的困窮を免れる効果があったことは事実である。

3 インボイス制度の問題点
(1)免税事業者が経済取引から排除される可能性
 上記で見たように、インボイス制度が始まると、適格請求書発行事業者からの課税仕入れでなければ、仕入税額控除ができなくなる。しかも、適格請求書発行事業者の登録ができるのは、消費税を納税している課税事業者のみである。つまり、免税事業者は適格請求書発行事業者になることができず、インボイスを発行できないため、免税事業者からの課税仕入れについては、仕入税額控除ができなくなる。
 すなわち、インボイス制度の導入後は、免税事業者と取引をする買い手は、自身が消費税を納税する際の仕入税額控除ができなくなり、その分コストアップとなる。そのため、買い手は、免税事業者に対して、負担が増えた分の値下げを求めるか、取引先の変更を検討する可能性が高い。
 このように、インボイス制度が導入されると、小規模・零細事業者である免税事業者が、経済取引から排除される可能性が高く、排除されない場合でも、取引先から事実上消費税相当額の値下げを強いられることになる。

(2)小規模事業者が経済的苦境に陥る
 この点、これまでの免税事業者であっても、消費税を納税する課税事業者となり、適格請求書発行事業者となれば、インボイスを発行することができる。
 しかしながら、年間の課税売上が1000万円以下であり、これまで免税事業者であった小規模な事業者が、消費税の課税事業者となることは、経済的に過酷な状況を強いることになる。
 大まかな試算ではあるが、仮に年収300万円のフリーランスが、インボイス制度で課税事業者となった場合、激変緩和措置が終わると約14万円の消費税の納税が発生する。
 現在、小規模事業者の中でも、フリーランスや個人事業主は約1600万人に達し、働く人の4分の1はフリーランスという状況である。フリーランスの職種は、現場作業員、美容師、翻訳家、ITエンジニアなど多岐にわたるが、年間に1000万円超を売り上げる事業者は一握りで、9割が免税事業者と言われている。
 これに関連して、インボイス制度導入に反対する声優有志グループ「VOICTION」は、声優の収入実態調査(回答数260件)とインボイスに関するアンケート(183件)の途中集計結果を発表した。
 それによると、声優は事務所に所属していてもほとんどが個人事業主であり、インボイス制度導入で2割以上が「廃業するかもしれない」と答えている。回答者の72%は声優としての年収が300万円以下、とりわけ20代、30代の約半数が100万円以下と答えており、全体の95%が免税事業者に該当する。「来年10月にインボイス制度が導入された場合、声優としての仕事はどうなるか」との問いに「廃業を検討」が23%で、「収入が減るのでは」という人を合わせて76%という結果であった。
 これ以外の業界アンケートでも、例えば、漫画業界は「廃業の可能性がある」「廃業を決めている」を合わせて21.2%、同じく演劇業では19.6%、アニメ制作業界では25%であった。さらに、建設業(一人親方)では、「事業をやめることを検討する」が9.5%、中小商工業者では、「廃業せざるを得ない」が21.1%という結果であった。
 このように、インボイス制度によって、経済的基盤が脆弱な免税事業者を課税事業者とすることは、こうした我が国の小規模事業者、フリーランスをさらなる経済的苦境に立たせることになる。
 もともと、上記で指摘したとおり、消費税の課税制度そのものが逆進性の問題点があり、貧富の格差拡大の大きな要因になっている。その点、免税事業者の制度は、ただでさえ経済的に困窮した立場にある小規模・零細事業者やフリーランスに対する数少ない救済措置であったと言える。
  しかし、インボイス制度の導入により、こうした数少ない救済策すら失われてしまうことになるのである。実実的に免税制度を廃止して、本来免税されていた脆弱な零細規模の事業者に対して増税を強いることになる。
  この点、インボイス制度導入賛成論者からは、インボイス制度の導入は、いわゆる益税解消によって、課税の公平性が保たれるとの意見がある。
  しかしながら、元々「益税」というのは、消費税を消費者から預かっている、という誤解に基づいている。消費税の本質は売上税であり、仕入れ控除によって付加価値税となるので、そもそも益税という考え方自体が間違っている。さらに、年間の課税売上が1000万円以下の中小零細の免税事業者にとっては、その経済的な立場の弱さもあり、消費税分を価格に転嫁できないケースは少なくない。一例を挙げれば、本来消費税込みで1100円の商品であるにも関わらず、厳しい価格競争を強いられている小規模事業者は、1000円税込とせざるを得ない実態がある。要するに、これらの事業者にとっては、「益税」と言われている部分も価格の一部を構成しているものであり、実質的な「益税」にはなっていないのが実態である。

(3)事業者にさらなる事務負担を強いること
 さらに、インボイス制度が導入されると、インボイスの登録手続や適格請求書の発行・保存事務など、そのための過重な事務負担を課すことになる。それにより、全事業者が負担するコストが重くなり、非効率である。これは、単に費用負担の問題だけではなく、経理事務作業量の増加による人的負担も増大する。
 そして、これらの負担増は、特に経済的・人的リソースが乏しい中小零細の事業者やフリーランスほど、その負担が過重になるという問題がある。

4 まとめ
 以上のとおり、インボイス制度の導入は、免税事業者である中小零細の事業者やフリーランスが、事実上経済取引から排除される可能性が高いこと、また、課税事業者となることで、経済的基盤の脆弱な中小零細事業者やフリーランスがさらなる経済的苦境に陥ること、そして、事業者に新たに過重な事務負担を課すこと、という大きな問題点がある。
 そもそも、上記で見たとおり、消費税の課税制度そのものが、逆進性の問題を有しており、我が国の貧困と格差拡大の大きな要因となってきたものであるが、経済的基盤の脆弱な中小零細事業者やフリーランスをさらなる経済的苦境に追い込むこのインボイス制度は、こうした貧困と格差を拡大する消費税制度の根源的問題を一層拡大強化するものに他ならない。
 ひいては、これは健康で文化的な生活を保障した日本国憲法第25条の精神にも大きく反するものであると言わざるを得ない。
 以上の理由から、当部会としては、インボイス制度の導入に強く反対する。そして、この制度の導入自体を直ちにやめるべきことを求めるとともに、そのための立法措置等を早急に行うことを求めるものである。
2023年9月2日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 2 回  常 任 委 員 会
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