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安保三文書の具体化の動きとなる法律に反対し、
平和と人権、民主主義の発展を求める決議 |
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2023年1月23日から開会された第211回通常国会において、6月7日、「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」(以下「軍事産業支援法」という。)が、6月16日には、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法案」(以下「軍拡財源法」という。)が、可決・成立した。
これらは、昨年12月16日に閣議決定された安保関連3文書を具体化し、軍備の拡大強化を進めるための軍拡法といえるものである。
これに先立ち、3月28日、2023(令和5年度)予算案は、自民・公明両党などの賛成多数で成立したが、その内容には、総額114兆円規模の一般会計歳出のうち、防衛力の抜本的な強化のため「防衛費」が6兆7880億円(前年度より1兆4192億円上回って過去最大)、これとは別に将来の防衛力強化にあてる「防衛力強化資金」に3兆3806億円を計上している。その内訳として、「反撃能力」を行使するために敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」としてアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の取得に2113億円、国産のミサイル「12式地対艦誘導弾」の改良開発・量産に1277億円が計上されるなどしている。
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昨年12月の安保関連3文書の閣議決定は、相手国の領域を攻撃できる能力(以下「敵地攻撃能力」)を保有し、防衛費(軍事費)をGDP比で2%とするなどの内容を持つ。
当部会は、2023年3月11日、「国民生活の破綻を招き、平和主義に反する、安保関連三文書改定に基づく軍拡政策に反対する決議」を決議した。ここでは、@「敵基地攻撃能力の保有は、憲法9条2項が禁ずる「戦力」や憲法9条1項が禁じる「武力の行使」に該当し同項に違反する上、政府がとってきた「専守防衛」政策を放棄するものであること、赤字国債を財源とする軍拡は、第二次大戦の反省から赤字国債の発行を禁じ、財政面から平和主義を保障した財政法4条の理念にも正面から反していること、A歯止めのない軍拡は、軍拡のための増税が物価高騰で苦しむ国民生活をさらに圧迫し、社会的弱者の支援等の国民生活に直結する政策の予算が、実質的に削減されることが容易に予想されることから、国民生活の破綻を招くこと、以上の理由から、安保関連3文書の改定に基づく軍拡政策に対して強く反対する旨を表明した。
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今般成立した2023年度予算や、軍事産業支援法、軍拡財源法は、安保3文書の内容の具体化のためのものである。
(1)軍拡財源法は、5年間で43兆円もの軍事費の財源を確保する特別措置を定めるものである。
また、軍事費財源を確保するために、本来一般会計に組入れることができない財政投融資の一定額(今年度2000億円)や外国為替資金の一定額(今年度1兆2004億円余り)をそれぞれの特別会計から一般会計に繰り入れるとともに、独立行政法人国立病院機構及び独立行政法人地域医療機能推進機構の積立金の一部(今年度744億円)を国庫に納付させ、それらを防衛力強化資金としてプールし、軍備強化拡大のため財源にすることを定める。しかも、防衛力強化資金の受け払いは、歳出歳入外で国会の議決を不要とする。
軍拡財源法は、毎年の予算を国会審議で決定する単年度主義を逸脱し、財政国会中心主義・財政民主主義(憲法83条)に反し、軍事のための予算を聖域化するものである。また、特別の目的のために独立の収支を確保するために例外的に設けられた特別会計等の規制をないがしろにする内容を含む。そして、医療や年金に回すべき医療関係機構の積立金をも財源に流用することが規定されており、国民生活を圧迫する内容が盛り込まれている。今後更なる福祉予算・教育予算等の削減により軍事費に充てることも予定されている。まさに、当部会が3月11日の決議で懸念した内容が現実化しているものといえる。
(2)軍事産業支援法は、自衛隊の任務に不可欠な装備品等を製造する企業に対し、兵器製造の基盤強化に関して、@原材料・部品などの供給網(サプライチェーン)の強靭化、A製造工程の効率化のための設備導入、Bサイバー・セキュリティーの強化、C事業承継等を実施する経費を国が援助し、「武器輸出」の円滑化に関して、装備移転を行う企業が防衛大臣の求めに応じて、装備品の仕様・性能等を変更する場合、その費用に対する助成金を交付し、また製造・移転に必要な資金を貸付け、さらに事業の継続が難しくなった場合には国が製造施設を国有化し、他企業への管理・運営委託を可能にする内容である。まさに「軍事産業丸がかえ支援法」に他ならない。
安保関連3文書では、防衛生産・技術基盤を防衛力そのものとして位置づけ、「新たな戦い方に必要な力強く持続可能な防衛産業の構築」とともに、官民一体となって防衛装備移転、すなわち武器輸出を進めることを明らかにしているが、これらを具体化する法でもある。
加えて、軍事産業支援法には、国が提供した装備品等の秘密を漏洩した行為に対する刑事罰(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が盛り込まれており、契約企業の従業員ら関係者も処罰の対象とされる。軍事や平和にかかわる情報を国家権力が刑罰をもって統制・管理するものであって、軍需産業関係者のみならず一般市民を監視し、自由を抑圧する内容を含んでいる。
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安保関連3文書とその具体化の進行は、憲法の平和主義、憲法9条に反し、近隣諸国との緊張を高め、戦争のリスクを増大を高めている。
加えて、国民生活の圧迫を現実のものとし、軍事産業丸がかえを進め、これに反対する市民に対する監視、市民の自由の抑圧を行っていくものといえる。こうした体制が具体化して進行すればするほど、わが国の社会に暮らす市民の自由と人権、民主主義は抑圧され奪われていくことにつながっていくことが現実的危険となっている。それは、大日本帝国憲法下での自由と民主主義が抑圧された社会の再来というべき事態である。
青年法律家協会は、1954年に、日本の再軍備の動きを契機として、「これと関連して思想、言論、集会、結社の自由や団体行動の自由がふたたび否定しさられようとしています。もしもこのまま自由と人権が否定されていくならば、またあの暗い時代がくることはだれがみてもあきらかでありましょう。」と宣言して設立された。
当部会は、この設立の精神に則り、わが国から自由と人権、民主主義が否定されることに強く反対し、この観点から、安保3文書とその具体化に強く反対し、今般成立した軍需産業支援法、軍拡財源法の撤廃を求める。そして、憲法の定める自由と人権、民主主義を発展強化させることを求め、そのために活動することを、総会の機会に改めて表明する。 |
2023年6月25日 |
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 5 4 回 定 時 総 会 |
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