青法協会員に対する殺害予告に抗議するとともに、 性的マイノリティに対する差別及びヘイトクライムのない社会を目指す議長声明

１　青年法律家協会に所属し、自らがトランスジェンダーであることを公表している仲岡しゅん会員に対し、２０２３年６月３日未明から６月５日未明にかけて、 「男のクセに女のフリをしているオカマ野郎をメッタ刺しにして殺害する、必ず決行する」「チャンスあったらその時メッタ刺しにするわ、楽しみにしとけなキモカマ野郎。男だから怖くないかもしれないけどな（笑）」などの、殺害を予告するメッセージが送付された。同メッセージは、非常に残虐かつ猟奇的な内容となっており、「オカマ野郎」や「キモカマ野郎」などといった差別的な表現を用いていることからすれば、トランスジェンダー当事者に対する差別意識に基づいた殺害予告にほかならず、ヘイトクライム（差別犯罪）そのものであって、断じて許されない。 ２　２０２１年春、いわゆるＬＧＢＴ理解増進法案の制定に向けて与野党の議連において合意形成がなされたが、その後の自民党内の反対意見により、法案は同党内で了承されずに、国会提出されなかった。 こうした動きに対して、差別禁止を求める声が多数挙げられ、差別を許さず、性的マイノリティの尊厳を守ろうとする世論が広汎に形成されつつある。 　しかし、その一方で、「トランスジェンダーへの差別を禁止すると、女性への性加害目的の女装男性が女性トイレに入ってくるようになる」などの言説がインターネット上で盛んになった。こういった言説は、あたかもトランスジェンダーへの差別禁止と性犯罪に因果関係があり、かつ、トランスジェンダー当事者と犯罪とを結びつけるように表現するものであり、トランスジェンダーに対する偏見、恐怖、不安、憎悪感情を煽るもので、不当である。このような言説も含め、トランスジェンダーの実態や現実の社会システムとはかけ離れた机上の空論とデマを根拠に、トランスジェンダーに対する排除的・差別的・憎悪的発信が繰り返しなされ、それがヘイトクライムの温床ともなっている。 ３　世界的には、トランスジェンダー当事者への差別意識に基づく身体的な暴力が直接的に死亡という結果をもたらす事件も存在している。トランスジェンダー当事者は、まさに日々こうした恐怖と隣り合わせで生活することを強いられ、個人の尊厳を脅かされている。それゆえに、近年、特にインターネット上でみられるトランスジェンダーへの排除的言説は、単に異なる属性の構成員同士の対立の問題ではなく、トランスジェンダー当事者の人権にかかわる問題なのである。 　今回の件は、仲岡会員個人に対するものだけではなく、トランスジェンダーという属性そのものに対する攻撃である。トランスジェンダー当事者の人権と個人の尊厳を守るため、差別及びヘイトクライムに対しては、断固とした態度をもってたたかう必要がある。 ４　青年法律家協会は、１９５４年、憲法を擁護し平和と民主主義および基本的人権を守ることを目的に設立されて以降、基本的人権の擁護を使命として、そのときどきの人権課題に積極的に取り組んできた。２０２２年３月４日付「トランスジェンダーに対する排除的言説に反対し、性的マイノリティの尊厳を守るよう求める決議」はその一環であり、青年法律家協会は、トランスジェンダーへの排除的言説や差別の煽動に対抗し、トランスジェンダーを含む性的マイノリティの尊厳を守るために力を尽くしていく。 　青年法律家協会弁護士学者合同部会は、仲岡会員に対する卑劣な殺害予告に断固として抗議するとともに、トランスジェンダーを含む性的マイノリティに対する差別やヘイトクライムは断じて許さず、差別のない社会を目指し、たたかっていくことをここに表明する。

２０２３年６月１５日

青年法律家協会弁護士学者合同部会 議　長　　笹　山　尚　人