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原発の新増設および福島第一原発事故の最大の教訓である
原発の40年運転制限を撤廃することに強く反対する決議
1 原発の新増設及び40年運転制限撤廃へ向けた政府・規制委の動き
 岸田政権は、2022年8月、原子力を最大限活用すると表明し、これまでの方針を転換し原発の新増設という方針を打ち出した。また、報道によれば、経済産業省は、原子力発電所の運転期間を最長60年とする規制を撤廃する案の検討に入ったとのことであり、素案では運転期間に上限を設けず、規制委の審査を経て何度でも延長できるようにするということである。
 このような政府の方針について、原子力規制委員会の山中伸介委員長は、本年10月5日の記者会見で、「原則40年、最長20年延長できる」という規定(40年ルール)が原子炉等規制法から削除されることを容認したと報道され、原子力規制委員会は、11月2日、運転期間の上限を設けない新たな規制案を示した。

2 原発がそもそも有する問題点
 大飯原発3、4号機運転差止請求事件において、2014(平成26)年5月21日福井地裁判決(判例時報2228号72頁)は、関西電力が運営する大飯原発の安全性に関わって、原子力発電所の安全性について次のように判示した。
 「被告は,大飯の周辺の活断層の調査結果に基づき活断層の状況等を勘案した場合の地震学の理論上導かれるガル数の最大数値が700であり,そもそも,700ガルを超える地震が到来することはまず考えられないと主張する。しかし,この理論上の数値計算の正当性,正確性について論じるより,現に,……全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの間に到来しているという事実を重視すべきは当然である。」「この地震大国日本において,基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しである。」「基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じうるというのであれば,そこでの危険は,万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。」
 本年12月2日、本常任委員会は、この判決をくだした福井地裁の当時の裁判長樋口英明氏に講演をして頂いたが、この点にかかる原子力発電所の脆弱性について改めて確認した。我が国の原子力発電所は、我が国で発生する地震動に耐えられるように設計されていない。この一事をもってしても、我が国の原子力発電所が運転することは、国民の生命、生活の安全にとって重大な危険を内包するものであって、許されるべきものではない。

3 福島第一原発事故の教訓の忘却
 また、原発の新増設は、未曾有の被害を発生させた福島第一原発事故の教訓を全く活かさないものであり、断じて許されない。
 福島第一原発事故により、極めて広範囲の土地が放射性物質で汚染され、避難を余儀なくされた被害者は十数万人にも及び、住民の故郷、生業、地域コミュニティなどの有形無形の財産は根こそぎ破壊された。
 原子力発電所は、万が一事故が起きれば広範な地域が根こそぎ失われるという壊滅的な被害があり、その被害が福島で現在もなお継続している現状で、さらに原子力発電所を新設するなどということは、福島第一原発事故の教訓を忘却するものであり許し難いものである。

4 老朽原発の問題点 
 40年ルールは、福島第一原発事故において、2011年の事故時に1号機が運転開始から40年を迎える月にあり、設計の旧(ふる)さなどが事故の進展に影響したこと等を踏まえ、運転期間の上限を設けることで老朽原発による事故を未然に防ぐという観点から、事故後、当時の民主党と野党だった自民党と公明党と3党の合意により定められた。
 このように、福島第一原発事故の最大の教訓として、国民の代表である国会で、しかも超党派の合意で法改正され法制化された原発の運転期間制限撤廃の方針を、国民の意見を十分聞くこともなく打ち出すことは極めて問題である。
 老朽原発は、経年劣化の問題だけでなく、設計の旧(ふる)さや、施工技術等の旧(ふる)さが指摘されている。実際、福島第一原発でも、非常用配電盤の設置場所が、すべて同じフロアに設置されるという旧(ふる)い設計だったことが、津波でいっせいに機能を失う原因となったことが指摘されている。
 原発1基当たり1000〜2000qに及んで設置されているとされるケーブルも、旧(ふる)い原発は難燃性のものになっていない。本来は火災のリスクから全て難燃性ケーブルに取り替えなければならないはずだが、実際にはそれが困難であることから、現実の老朽原発では、複数のケーブルを防火シートでくるむだけの対策でよしとされてしまっている部分もある。
 金属や、コンクリートの経年劣化による安全性低下も懸念されている。特に長期の運転による核燃料からの中性子照射に伴う原子炉容器の脆化問題は深刻である。原子炉容器は基本的に取り換えることが困難であるが、脆化が進行すると緊急炉心冷却装置の作動など原子炉を冷却する事態が生じた場合に、原子炉容器自体が破損し大量の放射性物質が漏出する極めて重大な事故につながるおそれがある。
 この中性子照射脆化に関する審査基準については、専門家からは脆化進行に関する予測式が理論的におかしいとか、例えば高浜原発1号機に関しては、運転後30年目に行った予測の結果と40年目に行った予測の結果に大きな違いが生じるなどの重大な問題点が指摘されている。
 現在の知見では長期の運転に対する十分な審査基準が確立されているとは言い難く、実際の規制委員会による運転延長認可審査においても、徹底的に安全を確保しようとするのではなく、事業者の申請を鵜呑みにしてしまうような姿勢もみられることから、40年ルールを撤廃することには安全性に重大な懸念がある。

5 原発新増設の問題点
 新増設については、エネルギー基本計画における「可能な限り原発依存度を低減する」という基本方針に明らかに矛盾するものである。
 この点、福島第一原発事故後に原発廃止を決定したドイツが、2022年末までに現在稼働中の3基の原発の運転を停止する予定であったものを2023年4月まで稼働可能な状態を維持するとしたが、これはロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機を受けての一時的なものであり、非常用の予備電源として停止時期を数か月延長したに過ぎない。ドイツの経済・気候相は、「原子力はリスクの高い技術であり、放射性廃棄物は世代を超えて負担になる」と指摘している。

6 原子力規制委員会の姿勢の問題点
 原子力規制委員会は、福島第一原発事故の反省を踏まえ、「一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消する」ために、「中立公正な立場で独立して職権を行使する」委員会として設置されたものである。それにもかかわらず、原発を積極的に推進する現政権および経済産業省の新たな方針に意見はしないとの消極的な姿勢を示しており、その職責を果たしているとは言い難い。

7 原発の新増設及び40年運転制限撤廃は許されない
 今般、岸田政権が表明した原発の新増設および40年運転制限の上限撤廃は、原発に依存するエネルギー政策を追従するもので、自然エネルギー増設の足かせとなるものであり「東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国としては、安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再生可能エネルギーの拡大を図る」というエネルギー基本計画の基本方針に明らかに矛盾するものである。同事故、そしてその教訓を踏まえた法改正からわずか10年程度しか経過していないにも関わらず、その最大の教訓を覆そうとするものであり、到底受け入れられるものではない。しかも、国民の命や健康、生活そのもの、ふるさとすら喪失させるほどの危険性を有する原発の中でもさらに危険性の高い老朽原発について、運転期間の上限を撤廃しようとすることは、到底国民の理解を得られるものではない。
 青年法律家協会弁護士学者合同部会は、原発の新増設および40年運転制限の上限撤廃について、重大な懸念を表明するとともに、強く反対する。
2022年12月3日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 3 回 常 任 委 員 会
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