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防衛省職員による裁判の秘密録音に厳重に抗議し、
事案の徹底解明と厳正な対処を行うことを求める議長声明 |
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一 民事訴訟手続きにおいて、一方当事者の国の指定代理人を務める防衛省職員が、裁判手続きを秘密録音していた事実が発覚した。
当該事件は、在日アメリカ軍基地での労災をめぐり元従業員の原告が国に対し損害賠償を求めて横浜地裁横須賀支部に提訴している訴訟で、2022年10月11日に弁論準備手続きが行われた。発表した当該事件の原告代理人弁護士によると、和解協議のため原告側と裁判所が協議をすることになり被告国側がいったん退席をした際、原告代理人弁護士が録音状態になっているICレコーダーを発見し、裁判官の立ち会いのもとで内容を確認したところ、同日の手続きでのやりとりや別の日に行われた手続きの内容が録音されていたことを確認した、とのことである。
原告側代理人弁護士の発表を受け、この無断録音行為について、被告国も、横浜地方裁判所も事実の存在を確認した旨発表している。
二 民事訴訟規則第77条は、「法廷における写真の撮影、速記、録音、録画又は放送は、裁判長の許可を得なければすることができない。」と定めており、このほかの各種規則もこの条項を準用しており、裁判においてその手続きを裁判長の許可なく録音することは禁じられている。
民事訴訟における弁論準備手続きや和解手続き等においては、紛争解決のために、非公開とすることで忌憚ない議論による協議を行う場面が少なくない。司法権が、憲法をはじめとする法を適用することによる紛争解決を行い、もって我が国社会の人権保障を図ろうとする制度であることに照らし、訴訟当事者には司法におけるルールを守って裁判手続きに臨むことが求められる。それが公正な裁判を実現し、我が国社会に法の支配を実現することにつながるのであり、民事訴訟規則もその一環として制定されている。
今般の国の無断録音行為は、こうした司法のルールを破る許されない行為であり、非公開として、また国が退席して聞くことができない他方当事者と裁判所の協議を録音して聞き出そうとする盗聴と呼ばれても仕方のない行為である。こともあろうに権力機関である国がそれを行ったというだけに、ことは極めて重大であり、絶対に許されない。
このような行為が防衛省職員によって行われたことからすると、防衛省は他人の秘密ないしプライバシー権についてこれを軽視して、国民に対する情報収集活動を行っているのではないかとの疑念を払拭できない。また、防衛省はもとより、ほかの省庁でも、国が一方当事者の事件においては、裁判において秘密録音が行われていたのではないかとの疑念も持たざるを得ない。
三 当部会は、日本国憲法下における司法制度を充実させ、もって人権保障を図る立場から、今回の防衛省職員による秘密録音行為について、国に対し、厳重に抗議し、当該事件の原告及び原告代理人、裁判所に対し真摯に陳謝すること、二度とこのような行為を行わないことを誓約するよう求める。そして当該事件でなにがどこまで録音され、その情報がどこに提供されたのか、なにゆえこのような問題が発生したのかを厳密に調査し、国が一方当事者であるほかの裁判事件でも同様の行為が行われたことがないか、行われていないかも厳密に調査し、その調査内容及び今後いかなる対処を行うのかについて発表するよう求める。そして、この調査と発表は、防衛省以外の第三者によって行われることが望ましい旨を付言する。
また、裁判所は、我が国の司法権の健全な実現のために、民事訴訟規則に違反した今般の国の行為に対して、厳正な対処を行うべきである。 |
2022年10月21日 |
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長 笹 山 尚 人 |
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