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安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に反対する議長声明
 2022年7月8日、安倍晋三元内閣総理大臣(以下、「安倍元首相」という。)が、奈良県において選挙運動で演説中に狙撃され、死亡する事件が発生した。
 2022年7月14日、岸田文雄内閣総理大臣(以下、「岸田首相」という。)は、安倍元首相について「憲政史上最長の8年8か月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって総理大臣の重責を担い、東日本大震災からの復興や日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開などさまざまな分野で実績を残すなど、その功績はすばらしいものがある」などとしたうえで、「この秋に『国葬儀』の形式で、安倍元総理大臣の葬儀を行うこととする」と表明した。その際の費用は全額国庫が負担するものとされている。

 安倍元首相が総理大臣として行った数々の「実績」は、岸田首相が言明したものとはむしろ全く逆のものであった。
 安倍元首相は、森友・加計問題、桜を見る会問題で政治の私物化を行った疑惑の渦中にある中心人物であり、これらの疑惑は未だその真相は解明されていない。我が国を戦争のできる国家にするための布石である集団的自衛権の政府解釈変更、特定秘密保護法や安保法制などでの強行採決も行った。安倍元首相は、その推進する政策や疑惑に対する答弁において、丁寧な説明と評価できる国会答弁や記者会見での言明を行わず、国民に対し正しい情報提供をしなかった。加計学園問題をめぐって憲法53条に基づいて野党側が臨時国会の召集を求めた際に、これに応じることもしなかった。
 このように、安倍元首相は、その在任中、我が国の民主主義を踏みにじる行動を続け、そのことに無反省な態度を取り続けた。
 当部会も、こうした観点から何度も安倍元首相の言動、あるいは安倍元首相の主導する政府の行動を批判してきたものであり、岸田首相の安倍元首相の「実績」にかかる上記言明は誤りである。

 安倍元首相について「国葬」を行うことは、安倍元首相が行ってきた上記行為を国として正当なものと評価し、国と国民をあげて安倍元首相を追悼することが正しいということを国が国民に押し付けることになる。死者をどう弔うかは個人の意思に委ねるべきことであり、「国葬」による押し付けは、思想良心の自由に反する。「国葬」に伴って学校や行政機関で半旗の掲揚や、黙祷などが強制される事態になれば、強制される者の内心の自由に対する侵害となることは明らかである。
 そもそも、国民主権の理念に基づく日本国憲法下においては、安倍元首相の行動は国民の代表者としてのそれであり、王権社会における国王のごとき特別な地位に基づくものではないから、「国葬」によって安倍元首相を弔う行為は、民主主義の理念や、平等原則にも反するものである。

 岸田首相は、国葬の法的根拠について、内閣府設置法に内閣府の所掌事務として定められている「国の儀式」として閣議決定をすれば実施可能との見解を示している。
 しかし、明治憲法下では「国葬令」が定められ、これに基づき「国葬」が行われていたが、「国葬令」は1947年に廃止された経緯がある。これに照らせば、「国葬」が内閣府設置法にいう「国の儀式」に当然に含まれると解することはできず、内閣の判断のみで議論もなく「国葬」に国費を支出することは、財政支出に国会の議決を要するとしている憲法83条に反する。

 このように、岸田首相が表明している安倍元首相について「国葬」を行うことは、憲法違反を含むものであって、かつ、憲法上の人権侵害をもたらすものである。
 以上により、当部会は安倍元首相について「国葬」を執り行うことに反対し、政府に対し、「国葬」の方針を撤回することを求める。
2022年7月21日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長  笹 山 尚 人
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