律家会弁護士学者合同部会
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国の責任を認めなかった最高裁判決に抗議するとともに、
国と東京電力に対し、福島原発事故による被害者に謝罪し、
早期の適正な被害賠償をすること、及び被害者が求める政策要求を
実現するよう求める決議
1 最高裁決定及び最高裁判決
 最高裁判所(以下、「最高裁」という)は、2022年3月2日、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟、原子力損害賠償群馬訴訟及び、福島第一原発事故損害賠償千葉訴訟の3事件について、また、同年3月30日には原発事故被災者愛媛訴訟(以下、あわせて「本件4事件」という。いずれも被告は国及び東京電力ホールディングス株式会社)について、一審被告東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東京電力」という)との関係で、一審原告及び東京電力双方の上告棄却、上告受理申立を不受理とする決定をした。
 一方、同年3月7日、最高裁は、福島原発避難者訴訟第一陣、「小高に生きる」訴訟、中通り訴訟(いずれも、被告は東京電力。以下、本件4事件とこの3事件を合わせ、「本件7事件」という)について、一審原告及び東京電力双方の上告棄却、上告受理申立を不受理とする決定を行った。(以下、上記2つの最高裁決定を「本件最高裁決定」という)。
 さらに、同年6月17日、最高裁は、本件4事件につき一審被告国との事件について、福島第一原発事故につき、国の規制権限不行使の違法はないことを理由に、国の責任を認めた控訴審判決を破棄自判する判決を下した(以下、「本件最高裁判決」という)。
 これにより、本件7事件については、東京電力との関係では、高等裁判所における判決が確定し、国との関係では、本件4事件につき、国の責任がないことが確定した。

2 事件の概要
 本件7事件は、2011年3月11日に発生した福島第一原発事故(以下、「本件事故」という)により、避難指示が出された区域に居住し、避難せざるを得なかった住民、避難指示が出されていない区域に居住していたが避難せざるを得なかった住民、避難指示が出されておらず、従来の居住地又はその周辺に居住し続けざるをえず、それゆえに被害を受けた住民などが原告となり、その被害の回復(原状回復)、損害賠償請求などを求めた事件である。
 全国で同様の集団訴訟は30件程度係属しており、本件最高裁決定及び本件最高裁判決は、他の事件にも重大な影響を与えるものである。

3 本件最高裁決定の意義と課題、本件最高裁判決の問題点
(1) 本件最高裁決定の意義と課題
 ア 意義
 本件最高裁決定は、東京電力が原子力損害賠償紛争審査会(以下、「原賠審」という)の指針(以下、「原賠審指針」という)に従い、賠償をした額を超える損害があることを認めた、高等裁判所の各判決を維持するものであり、原賠審の指針が、被害者の損害を把握しきれておらず不十分であることが確定した。
 すなわち、本件最高裁決定により、原賠審指針では金額的に賠償額が不足していること、また、避難指示区域で「故郷が剥奪されたこと」について損害賠償義務を認める(福島原発避難者訴訟第一陣など)など、原賠審指針では明確には認められていない損害が認められた。
 さらに、また、本件7事件の判決には、原告の居住地などを理由として一律の損害が認められたものもあり、訴訟を提起していない多数の被害者にも、同様の損害があるということが事実上認められたと言っても過言ではない。さらに、原賠審指針では賠償が認められていない地域について、賠償が認められている。
 加えて、東京電力は、本件7事件及び現在係属中の各裁判で、原賠審指針に従って東京電力が行った賠償は、原告らの損害額よりも高額であり、支払いすぎであるなどと主張しており、近時は、裁判の中で、その主張を前提として、原告本人尋問に際し原告のプライバシーにわたるような苛烈な質問をしており、その訴訟遂行態度は許容しがたいものがある。このような東京電力の主張は、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟、福島原発避難者訴訟第一陣などで、最高裁の決定により排斥されており、今後は、このような訴訟態度は撤回されなければならない。

 イ 課題
 他方で、責任論に関しては、東京電力の民法709条における過失責任の有無を判断しなかった高等裁判所の各判断が維持された。とはいえ、各裁判で、損害論の関係で東京電力の過失に関し言及がある点が注目される。例えば、福島原発避難者訴訟第一陣の仙台高裁判決では、「平成20年津波試算が確立した知見に基づくものではないこと等を理由に、被告が具体的な対策工事の計画又は実施を先送りにしてきた中で、本件地震及び本件津波が発生し、本件事故に至ったという経緯を被害者の立場から率直に見れば、このような被告の対応の不十分さは、誠に痛恨の極みと言わざるを得ず、その意味で慰謝料の算定に当たっての重要な考慮要素とされるべきものである。(仙台高裁判決42頁)」などとして、事実上、東京電力の過失が認められている。
 また、各高等裁判所で認容された賠償金額については、必ずしも被害者の損害を回復するには足りないものであるし、また、最高裁において統一の判断はされず、各訴訟で異なる認容額が維持された。
 加えて、原告が原状回復請求を求めた訴訟でも、原状回復請求は認められておらず、被害者が事故前に比べ高い放射線量の中で生活し、被害を受けているという実態に目が向けられなかったという問題がある。

(2) 本件最高裁判決の問題点
 本件最高裁判決は、三浦守裁判官の反対意見のほか、菅野博之裁判長  裁判官、草野耕一裁判官、岡村和美裁判官の多数意見(以下、「多数意見」という)で、規制権限不行使に基づく、国の国家賠償責任を否定した。
 多数意見は、想定されていた津波に基づき、経済産業大臣が電気事業法40条の規制権限を行使していれば、東京電力が想定されていた最大の津波が原子力発電所に到達しても、敷地内に海水の浸入を防ぐことができる防潮堤、防波堤等の構造物(以下、「防潮堤等」という)を設置していた蓋然性が高く、他の浸水対策を行う蓋然性はないとした。その上で、多数意見は、本件原発事故を引き起こした津波は、想定されていた津波よりも高く、規制権限が行使されていたとしても、本件原発事故と同様の事故が発生した可能性が相当にあるとして、国の責任を否定した。(これが、国賠法上のどの要件を否定したのかについては、多数意見は明記していないが、草野耕一裁判官の補足意見では、同裁判官は因果関係を否定したと捉えている。)
 三浦守裁判官は、反対意見として、規制の趣旨、予見可能性、結果回避可能性等につき、詳細かつ丁寧に検討し、また、多数意見の不合理性を指摘しつつ、国の規制権限不行使があることを認定している。
 多数意見と三浦裁判官の根本的な違いは、ひとたび原発事故が発生すれば、「数多くの人の生命、身体等に重大な危害を及ぼす」もので、「取り返しのつかない深刻な災害を確実に防止するという法令の趣旨(反対意見)」に従い、国は、いかにまれな想定の津波でも(ただし、長期評価は、津波の発生が「まれ」と想定したものではない)、対策をしなければならないし、また、最新の科学技術水準に即応して、できる限り速やかに、適時かつ適切に規制権限を行使する必要があるという正しい認識を有しているか否かという点である。
 多数意見の考え方では、「想定外」の事象に対し、何ら対策を取らなくても国は責任を免れることができ、かつ、「想定外」の事象をできる限り少なくするという法令の趣旨も没却することになり、到底許容されない。
 さらに、多数意見は、国の法的責任を判断する上で必要不可欠な、予見可能性の有無や規制権限行使の義務の有無について判断しておらず、極めて不当である。これらが認定されなければ、将来の事故の抑止につながらず、
 本件4事件では、三浦裁判官の反対意見に従い、国の責任を認める判決が出されるべきであった。
 
4 本件最高裁決定を受け、被害者の救済が図られるべきであること
(1) 謝罪をするべきであること
 本件最高裁決定により、東京電力には、損害賠償の法的責任が存在することが確定した。
 東京電力は、本件事故により直接間接の被害を与えた被害者に真摯に謝罪するべきである。
 なお、2022年6月5日、東京電力は、福島原発避難者訴訟第一陣原告団に対し、謝罪を行っており、これを一つの前例として、各原告団や被害者に謝罪するべきである。
 国も、反対意見を尊重し、被害者に対し謝罪と賠償を行うべきである。

(2) 賠償するべきであること
 本件最高裁決定により、原告のみならず、本件原発事故の被害者は幅広く損害が発生したことが確定したと評価できる。
 そのため、国は原賠審の指針を改定するなどの方法により、裁判の原告以外にも賠償する仕組みを早急に確立するべきである。また、東京電力は、自主的に賠償を開始するべきである。
 また、国は、東京電力に賠償させるのみならず、自ら賠償を行うべきである。
 これに際し、追加の賠償額としては、本件7事件を参考にしつつも、改めて、被害者の声を聴き、本件7事件で認容された賠償の範囲や賠償額にとらわれず、適正な賠償額が認められるべきである。
 また、実際に賠償をする際には、本件7事件で相対的に低額な賠償額しか認定されなかった原告にも、既判力にとらわれず、相当額の賠償をすることにより、被害者間の不平等を解消するべきである。
 これに関し、本件最高裁決定を受け、福島県双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町は、東京電力に対し、裁判を起こしていない被害者に追加の賠償をすることを求めており、東京電力及び国は、この要請に真摯に対応するべきである。

(3) 裁判の早期解決を図るべきであること
 本件最高裁決定及び本件最高裁判決が出されるまで、本件事故から約11年が経過した。
 現在訴訟が継続している原告らの中には、10年近く裁判を続けている人もおり、裁判中に亡くなった方も多数に上る。
 裁判の早期解決は喫緊の課題である。
 東京電力の上記不当な訴訟態度により、原告らが対応を余儀なくされ、訴訟が遅延することは許されない。東京電力は、不当な訴訟態度を改めるべきである。

(4) 政策的な課題に対応するべきであること
 原発被害者訴訟原告団全国連絡会は、これまで、国と東京電力に対し、政策要求をしているし、各訴訟が東京電力や国に対し、政策要求をしている。
 本件事故から11年が経過し、被害者の被害救済は急務である。
 国と東京電力は、被害者の救済に全力を尽くす義務がある。

5 以上より、当部会は、国の責任を否定した本件最高裁判決に抗議する。
 また、国と東京電力に対し、福島原発事故による被害者に謝罪し、早期の適正な被害賠償をすることを求めるとともに、被害者が求める政策要求を実現するよう求める。
以上
2022年6月26日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 5 3 回  定  時 総 会
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