律家会弁護士学者合同部会
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改憲ありきの憲法審査会の運営に抗議する法律家団体の声明
2022年6月7日
 改憲問題対策法律家6団体連絡会                                
社会文化法律センター 共同代表理事 海 渡 雄 一
自 由 法 曹 団 団  長 吉 田 健 一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議  長 上 野  格
日本国際法律家協会 会  長 大 熊 政 一
日本反核法律家協会 会  長 大 久 保 賢 一
日本民主法律家協会 理 事 長 新 倉  修
1 はじめに
 我々改憲問題対策法律家6団体連絡会は、本年2月24日、2022年1月17日に召集された第208回通常国会に際し、「自民党改憲案(4項目改憲案)に反対し、改憲ありきの憲法審査会の始動には反対する法律家団体の声明」を発表し、いま政治が行うべきは未だに収束を見ない新型コロナウィルス対策など国民の生命と暮らしを守ることであり、世論は改憲を求めていないこと、そして憲法審査会の開催に固執する改憲派の狙いは9条改憲にあり、緊急事態条項その他の改憲項目についても改憲は必要性がないことを明らかにした。その上で、憲法審査会でまず行うべきは、2021年に公選法並びの改正との理由だけで極めて不十分な内容のまま成立させられた「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改憲手続法」)の本質的な欠陥を附則4条に基づき是正することや、憲法違反が横行する現政権の横暴を調査是正することであり、自民党4項目改憲ありきの改憲論議を進めることは許されないことを指摘した。
 しかし、衆議院憲法審査会は、これまでの慣例を破り、予算審議期間中である同年2月10日を皮切りに、3月10日と祝日の5月5日を除いて毎週開催されたうえ、改憲手続法の本質的な欠陥を是正するための議論を行うこともなく、緊急事態条項、安全保障(憲法9条)、地方自治等、自由討議の名のもとに、自民党改憲4項目を中心とした改憲項目についての議論を行った。
 私たち改憲問題対策法律家6団体連絡会は、かかる改憲ありきの憲法審査会の運営に強く抗議し、直ちにかかる運営を見直し、いま求められている命と暮らしを守る政策を優先して議論することを求める。

2 憲法審査会における審議状況
(1)憲法軽視の乱暴な改憲議論
 自民党は、2021年11月、「衆参憲法審査会における議論の促進に努めるとともに、国民との対話集会や遊説などを活発化させ、憲法改正に向けた機運をこれまで以上に高めていく方針」を掲げ、憲法改正推進本部を憲法改正実現本部に改組し、岸田首相は第207回、第208回国会所信表明演説で憲法改正の議論を呼びかけるとともに予算審議期間中に憲法審査会が開催されたことを歓迎し、2022年5月3日の憲法記念日には自民党改憲4項目の早期実現が求められる等と改憲に向けた発言を繰り返している。
 また、日本維新の会は、2022年7月に予定される参議院議員選挙と同日での国民投票を呼びかけ、岸田首相に具体的な改憲日程を示すことを求め、2022年5月には憲法9条の改憲案を示すなど、拙速に改憲を進めようとしている。
 これら2党に加え、国民民主党、公明党も加わり、国会でのオンライン審議を呼び水とし、強硬に憲法審査会の開催が要求された結果、国の方針を左右する重要な予算審議期間中にもかかわらず衆議院では毎週憲法審査会が開催された。また、高橋和之参考人、只野雅人参考人がいずれも反対、もしくは慎重審議の意見を述べたにもかかわらず、緊急事態が発生した場合等においてはオンライン出席を認める解釈が大勢であったとする取りまとめを多数決により拙速に行った。
 とりまとめを多数決で行い、公選法並びの3項目の趣旨説明を強行するなど、与野党一致で運営を行うという慣例に反する運営が行われたことはきわめて問題である。

(2)コロナ禍やウクライナ侵攻に乗じた自民党4項目改憲ありきの議論
 改憲派は、緊急事態条項創設や安全保障については、コロナ化やロシアによるウクライナ侵攻、日本を取り巻く安全保障環境の変化等を理由に掲げている。しかし、ロシアによる侵攻を受けたウクライナでさえ議会の機能は失われていないし、わが国においても過去の戦争中も国会は開催されている。大規模自然災害によって国会機能が維持できなかったり、長期に亘って国政選挙ができなかった事態はこれまでになく、今後も想定し難いのであるから、改憲の立法事実を欠く。
 にもかかわらず、憲法を一時的に停止して国民の人権を制限する権限を内閣や内閣総理大臣に与えたり、選挙を延期して国会議員の任期を延長する等の緊急事態条項を創設することは、到底許容されるものではない。
 憲法9条に関しても、ウクライナと日本では全く状況が異なる上、9条を改憲し軍事力を強化することは、日本が周辺諸国に対して脅威となることをあからさまに示すことにほかならず、かえって日本の安全保障環境を悪化させるおそれがある。また、日本維新の会は、衆院憲法審査会の場でも「核共有」の議論を開始すべきなどと述べたが、唯一の戦争被爆国である日本が、核抑止論に依拠し、果ては核共有を行うことなど断じて許されるものではない。
 合区の問題や教育無償化についても、憲法を改正する必要性がないことは改憲派も認めるところであり、「改憲をする」こと自体を目的化しての議論といわざるを得ない。
 憲法は、主権者たる国民が制定権力を持ち、侵すことのできない基本的人権を定めることで政府による人権侵害を防ぐものである。上記のような自民、公明、維新、国民民主の各政党による立憲主義に反する乱暴な改憲ありきの姿勢は、主権者国民の意思を完全に無視し憲法を軽視するものというほかなく、国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法99条)にも違反するものであり、断じて許されない。

(3)改憲議論の前に行うべきこと
 2021年6月11日に成立した改憲手続法は、野党及び参考人からCM規制、資本規制等の根本的な欠陥を指摘されながらも、公選法並びの7項目の改正のみ拙速な審議で成立させたものである。そのため、附則4条により、「施行後3年を目途に」、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討と必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」とされている。
 改憲手続法は、国民の憲法改正権の具体的権利行使のための手段を定めた法律であり、憲法が国民の意思に基づき制定されたという正当性を根拠づける極めて重要な法律である。しかるに、現状の改憲手続法は、有料広告規制、資金規正、インターネット規制については極めて不十分である。強い影響力のあるテレビCMのみならず、SNS等が広く普及し、AIによるプロファイリングに基づくマイクロターゲティング広告等を用いた世論誘導等の危険性が大きな問題となっている現代社会において、現状の改憲手続法に基づく国民投票では、到底憲法の正当性を根拠づけることはできないといえ、根本的な見直しが不可欠である。それにもかかわらず、2022年4月28日に衆院憲法審査会で自民、公明、維新の会等が提案した改憲手続法改正案は、上記根本的な問題点には触れることなく、2019年5月8日及び2022年3月31日に成立した公職選挙法3項目改正に並べたものであり、全く改正を急ぐ必要のないものであった(法律家6団体2022年4月20日付声明参照)。かかる改憲派の態度は、憲法の正当性など意に介さず、自身の都合の良いように改憲手続を進めようとする意図が如実に表れたものであり、到底許されるものではない。
 憲法審査会は、その目的に「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行」うことが掲げられている(国会法102条の6)。すなわち、憲法審査会が行うべきは、改憲議論だけではなく、憲法にかなう政治が行われているかどうかの調査も含むものといえる。2022年5月25日には、最高裁において、最高裁判所裁判官の国民審査について在外投票ができない現行法制について、戦後11例目となる違憲判決が下されている。このように、国民の権利が制約され違憲状態であることが司法によって明確に断じられた事項について、早期に違憲状態を解消するために議論を行うことこそ、優先して行われるべきである。
 
3 いま行うべきは改憲議論ではない
 新型コロナウィルス感染症の蔓延も徐々に落ち着きつつあり、ようやく自粛も解除され経済が再開しつつあるものの、2年以上にわたるコロナ禍で疲弊しきっている上、ロシアによるウクライナ侵攻も相まって、世界的な半導体不足や経済制裁による貿易の減退などによる物価の高騰により、多くの人々の生活が更なる窮地に追い込まれている。そういう中でありながら、自民党は、防衛予算をGDP比2%にまで増大せよ(現在より約6兆円増)とする提言を発表している。一方、5月25日、熊本地裁は、生活保護費の引き下げを違法と判断し、政府による国民生活を支える生活保護給付の引き下げに待ったをかける判決を下している。
 「9条改憲NO!全国市民アクション」は、2022年5月19日に62万筆を超える「憲法改悪を許さない全国署名」を国会に提出した。また、現在の情勢に合わせて署名用紙をリニューアルし、さらなる拡大を見せている。
 今政治に求められているのは、緊急事態条項創設等のための憲法改正ではなく、経済を立て直し、あらゆる人々が健康で文化的な最低限度の生活が保障される社会を構築すること及び憲法9条の精神に基づき平和な国際社会を構築するために武力によらないあらゆる外交努力を尽くすことである。
 私たち 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、安易な改憲ありきの憲法審査会の運営に強く抗議するとともに、国会議員一人一人が、立憲主義の回復及び市民の命と暮らしを守るための活動にこそ全力で取り組むよう、改めて強く求めるものである。
 以上
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