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自民党改憲案(4項目改憲案)に反対し、
改憲ありきの憲法審査会の始動には反対する法律家団体の声明
2022年2月24日
 改憲問題対策法律家6団体連絡会                                
社会文化法律センター 共同代表理事 海 渡 雄 一
自 由 法 曹 団 団  長 吉 田 健 一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議  長 上 野  格
日本国際法律家協会 会  長 大 熊 政 一
日本反核法律家協会 会  長 大 久 保 賢 一
日本民主法律家協会 理 事 長 新 倉  修
はじめに

 岸田首相は、昨年12月6日の所信表明演説でも憲法改正に触れ、同21日に開催された自民党の憲法改正実現本部では、憲法9条改憲をはじめとする自民党の改憲4項目について、「きわめて現代的な課題であり、国民にとって早急に実現しなければならない」「自民党の総力を結集して憲法改正を実現する」と強い意欲を示している。
 維新や国民民主も、今、改憲の議論をすることが国会議員の責務であるなどと述べて、予算審議の最中であるにもかかわらず憲法審査会の毎週開催を、野党筆頭の立憲民主に強く迫っている。自民、公明、維新、国民民主らに見られるコロナ禍に乗じた改憲議論ありきの姿勢は、主権者国民の意思を完全に無視するものであり、国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法99条)にも違反する。
 私たち改憲問題対策法律家6団体連絡会は、改憲ありきの憲法審査会の始動と運営には強く反対するものである。

1 国民は今、改憲論議など求めていないこと
(1)世論調査では憲法改正議論を望む声は圧倒的に少数

 国民が、憲法改正を必要とは考えていないことは、安倍元首相が2020年と期限を区切って憲法改正を宣言した2017年5月以降のいずれの世論調査からも明らかである。
 直近の例でみても、昨年の衆議院選挙で最も重視する政策課題は何かの問いに対し「憲法改正」と答えた人の割合は、3%に過ぎない(NHK2021年10月18日報道)。また、2022年1月22-23日 FNN・産経合同世論調査「岸田内閣に、とり組んでほしい政策は何か。(2つを選択)」では、1.新型コロナウイルス対策45.4%、2.景気・雇用34.5%、3.年金・医療・介護36.8%であり、憲法改正は、産経新聞の調査によっても8番目の8.6%と、「それ以外」0.2%、「わからない・言えない」0.5%を除き項目中最下位である。2022年1月28-30日 日経新聞・テレビ東京世論調査「岸田首相に優先的に処理してほしい政策課題は何ですか。次の12個の中からいくつでもお答え下さい。」では、新型コロナウイルス対策49%、景気回復38%、年金・医療・介護36%、子育て・少子化対策28%が上位を占め、憲法改正は複数回答であるにもかかわらず7%と、「その他」1%、「いえない・わからない」の5%を除きやはり項目中最下位である。
 継続的に調査をしている日経・テレ東調査においても憲法改正を積極的に進めるべき政策課題と考える有権者は、複数回答で概ね10%程度(直近では7%)であり、回答が1択であればその半分にも満たないものと思われる。同調査における自民党支持率は概ね40〜50%であるから、自民党支持層であっても75〜80%以上は改憲を必要とは考えていないのである。自民の候補者もそれを知っているため、昨年の衆議院選挙277名の自民党小選挙区候補者のうち、選挙公報が現在公開されていない模様のいくつかの県を除き、選挙公報で「憲法」に触れているのは1割強で、岸田内閣の閣僚では(参議院議員と選挙公報が公開されていない山口2区選出の岸田防衛大臣を除く)皆無である。選挙で「改憲」について触れていないか、ほとんど触れていないのは、維新、国民民主、公明についても全く同様である。

(2)今、国会で議論すべきは憲法改正ではない。

 オミクロン株による感染が急拡大し、死亡者数や救急搬送困難事例も増える中、国民が政治に望んでいるのは、何よりも医療・検査体制の拡充強化、ワクチンや経口薬の普及等々により国民の命を守るとともに、生活困窮者や事業者、学生、子ども、高齢者介護現場の支援を実効的に行うことである。生存権を保障(憲法25条)し、個人の尊厳を守る(憲法13条)憲法の定める価値や権利を全力で実現することを今国民は求めている。
 そもそも1980年11月17日政府統一見解(衆議院議運委理事会における宮澤内閣官房長官)においても、憲法改正の議論は「慎重のうえにも慎重な配慮を要するものであり、国民のなかから憲法を改正すべという世論が大きく高まってきて、国民的なコンセンサスがそういう方向で形成されることが必要」としている。主権者である国民の意思を無視し、「憲法尊重擁護義務」(憲法99条)を負う首相や国会議員が不要で無謀な改憲議論を強引に主導することは、明らかな越権行為であって憲法尊重擁護義務にも違反し許されない。

2 何故、憲法審査会の開催に固執するのか-自民党など改憲派の真の狙い
(1) 狙いは9条の改憲にある

 自民党の改憲案4項目は、@憲法9条に自衛隊を明記する、A緊急事態条項の新設、B合区解消、C教育充実、であるが、安倍元首相らが語るように、最大の目的は自衛隊を明記する9条の改憲にある。岸田首相は、歴代首相としては初めて所信表明演説の中で敵基地攻撃能力保有を選択肢にあげ、軍事力を根本的に強化するとしている。自民党は軍事費の対GDP比2%以上を公約にあげ、2022年度当初予算の防衛費(軍事費)は過去最大の5兆4千億円、昨年の臨時国会で成立した補正予算を合わせると6兆1千億円を超えている。南西諸島や九州、中国地方では自衛隊・米軍の配備・強化が進み、台湾有事を想定した日米共同軍事計画では、南西諸島が米軍の新たな攻撃拠点にされようとしている。9条明文改憲は、これら一連の9条実質改憲の延長線上にあり、戦争する国づくりの総仕上げを狙うものにほかならない。
 自民党などの狙う憲法9条の改憲を、コロナ禍のどさくさに紛れて数の力で一気呵成に進めるような暴挙が憲法審査会で繰り広げられることを認めるわけにはいかない。

(2) 緊急事態条項創設改憲のまやかし

 自民党など改憲派の議員は新型コロナの経験を経た以上、かかる緊急事態に備えて憲法に緊急事態条項を加えるべきと主張している。
 しかし、緊急事態条項は9条改憲とあいまって、戦争などの有事にあたり国権の最高機関である国会の立法権を奪い内閣が独裁的に国民の人権制限を行うことを可能にすることを本質とする。大地震などの自然災害、新型コロナ等の感染症への対応についてはすでに法律が整備されており、政府のコロナ対策がうまくいかないのは政府の政治責任であり憲法のせいではない。必要であれば感染症法などの法律改正で対応すべきであって憲法に緊急事態条項を置く必要性は全くない。

(3) 改憲派の挙げるその他の改憲項目

 その他の自民、維新、国民民主があげている改憲項目は、いずれも改憲の必要性(立法事実)を欠くものであり、真に必要があれば法律等を改正して対処するか政策により実現すべき事柄ばかりである。立憲主義原理のもと最高法規とされた憲法改正の発議が許されるのは、国民の自由や人権を保障する上で、既存の憲法規定が障害となっていて、憲法を改正しないと適切な国家権力の行使ができない場合で、かつ、国民のコンセンサスが憲法改正へ大きく高まっている場合に限られる。

3 憲法審査会の役割について  
(1) 改憲手続法に関する附則4条規定の措置等の議論

 国会法102条の6は「国民投票に関する法律案等を審査するため、各議院に憲法審査 会を設ける。」と規定しており、国民投票に関する法律案等の審査は、憲法審査会の役割とされている。
 昨年6月11日「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改憲手続法」)が、「施行後3年を目途に」、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの「検討と必要な法制上の措置その他の措置を講ずるものとする」附則 第4条が加えられて成立した。憲法改正国民投票は、主権者である国民の憲法改正権の具体的行使であり、最高法規としての憲法の国民意思による正当性を確保する手段であることから、できる限り多くの国民に平等に投票の機会を保障し、公平公正を確保する手続きであることが憲法上強く要求されている。CM規制などの改憲手続法の本質的な欠陥は、昨年の改正法でも先送りとされて違憲状態は解消されていない。
 上述の通り、現在は新型コロナに関わる対策に全力を集中すべきときであり、憲法審査会を開催する必然性は全くないと考えるが、仮に、憲法審査会を開催するならば、附則第4条規定の各措置並びに国民主権にかかわる憲法上の重大な問題点が解決されるまでは、国会議員による憲法改正原案の発議(国会法68条の2)、憲法審査会による憲法改正原案の提出(同法102条の7)、国会による憲法改正の発議(憲法96条)は、いずれも憲法上許されないことを与野党で確認した上で、附則第4条で定められた措置をはじめとする改憲手続法の欠陥の見直しの議論を行うべきである。

(2) 憲法に関する広範かつ総合的な調査

 また、憲法審査会は、「日本国憲法及び日本国憲法と密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行(う)」こともその役割と規定されている(国会法102条の6)。 
 与党や維新らがどうしても憲法審査会を開いて議論したいのであれば、まず現在の違憲状態、違憲立法に関する広範かつ総合的な調査を行うことが先決である。本年2月17日の 衆議院憲法審査会で、立憲民主の櫻井議員が「憲法審査会というのは、憲法違反を始めとする問題が生じていないかどうかを調査審議するための会議でもあると理解しておりますが、その理解でよいか」と質問したのに対し、橘法制局長も「広範かつ総合的な調査は、現行憲法がその趣旨どおりに履行されているか、また、足りないところはないかということですから、先生御指摘の点は、憲法審査会の所掌事務の中にまさしく入ると存じます。その中で、どのようなテーマを議論されるかについては、まさしく先生方がお決めになっていかれることというふうに存じます。」と明確に回答している。
 この点では、秘密保護法、集団的自衛権の一部行使容認の閣議決定、安保法制、盗聴 法の対象犯罪の拡大、共謀罪など国民の多くが反対し法曹関係者より憲法違反と指摘されている数々の立法についての検証、野党議員による臨時国会の召集要求権(憲法53条)の無視や解散権の濫用などの抑止、国会の行政監督機能の強化、沖縄県民の意思を無視して辺野古新基地建設を続ける権力行使の正当性、日米地位協定の問題、国際的な非難のあがる汚染水海洋投棄などの原発問題、入管法や入管行政の問題、森友加計、桜を見る会問題での公文書改ざんや虚偽答弁の数々、自衛隊の「日報」隠しや相次ぐ公的データ改ざんなどの公文書管理に関わる問題、学術会議会員任命拒否の違法状態等々、広範かつ総合的に調査して議論すべき憲法問題は山ほど存在する。

(3) オンライン審議についての議論を拙速に進めてはならない

 今国会では予算審議中であるにもかかわらず立憲民主党が一転開催に応じ、2月10日、17日と衆議院憲法審査会が開催された。マスコミ各社が、「異例の早期開催 改憲勢力論議促進狙う」(時事通信2022年2月11日)、「自民、慣例打破で一歩前進」(産経新聞2022年2月10日)などと報じる状況である。
 新型コロナ感染症などで多くの議員が国会議事堂に来られなくなっても国会機能を維持するためという理由で、憲法56条1項との関係でオンライン審議の導入が議論されている。この点については、憲法56条1項の定める「出席」は物理的な出席に限られないとし、国会法ないし各議院規則の改正でオンライン審議を導入することが可能という説もある一方で、「全国民の代表」(憲法43条1項)という議員の重い職責を考えて反対説も有力である。人が実際に参集して行う会議や集会とオンラインによるそれでは、価値的に全く同等であるとただちに言い切れないだろう。「国権の最高機関」(憲法41条)である国会の審議に関する問題である以上、慎重な議論が必要である。
 現在国会内での感染を防止するために、衆参議院運営委員会が入れ替え制などの措置を定めている。集団感染防止という点ではPCRの頻回検査(国民に対しても同様)など改善すべき余地はまだ多い。オンライン審議の問題は、感染防止対策の議論ではなく、総議員の3分の2(国民の3分の2)が、新型コロナ等感染症で入院又は外出禁止となり憲法の定める定足数である各議院の総議員の3分の1(憲法56条1項)を欠くような極限的な事態を想定しての議論である。不要とは言わないまでも拙速な議論は厳に慎むべきである。オンライン審議の是非については、議院運営委員会等で十分な検討を経てから議論しても遅くはない。今急いで憲法審査会の意見をとりまとめるべき事柄ではない。むしろ、自民党などが狙う緊急事態条項など改憲本体の議論の突破口にされることを警戒すべきである。

まとめ

 いま、国民の間では「9条改憲NO!全国市民アクション」が呼びかけた新しい「憲法改悪を許さない全国署名」が大きく広がっている。改憲議論は国会議員の責務などという乱暴な主張は、憲法を理解しない改憲派の質の悪いプロパガンダに過ぎない。改憲を優先課題と考えている有権者は先に見た通り数パーセントにすぎないのであって、残りの9割以上の多数が求めているのは、国民の命と生活を守る政治である。私たち 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、国会議員一人一人がコロナ禍で苦しむ 国民の命と暮らしを守るための活動にこそ全力で取り組むよう強く求めるものである。
 以上
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