律家会弁護士学者合同部会
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特措法等改正案の罰則規定の削除を求める法律家団体の緊急声明
2021年2月1日
 改憲問題対策法律家6団体連絡会                                
社会文化法律センター 共同代表理事 宮 里 邦 雄
自 由 法 曹 団 団  長 吉 田 健 一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議  長 上 野  格
日本国際法律家協会 会  長 大 熊 政 一
日本反核法律家協会 会  長 大 久 保 賢 一
日本民主法律家協会 理 事 長 新 倉  修
1 はじめに
  「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という。)及び「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)の改正案(以下単に「改正案」という。)につき、前者については過料の金額を引き下げる、後者については刑事罰を行政罰とする等の修正を行ったうえ、2月3日にも成立の見通しと、報道されている。  
 しかし、これらの修正では、今回の改正案のもつ本質的な問題は解決しておらず、罰則規定を設けることについては、強く反対する。

2 感染症法改正案の本質的問題−患者に罰則を科すことは、たとえ行政罰であっても許されない
(1)感染症法の理念に反する
 感染症法は、ハンセン病や後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め(前文)、国及び地方自治体の講じる施策は「感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進される」(2条)ことを基本理念としている。このため現行法上、入院等の措置は「感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要な最小限度のものでなければならない」(22条の2)とされており、罰則による強制は予定されていない。
 入院を拒否したり、積極的疫学調査に応じない患者に罰則を科す措置は、上記感染症法の理念に反する。そのことは、刑事罰から行政罰になっても同様である。過料は、裁判所が本人と検察官の意見を聞いて現金の納付を命じる手続き(非訟事件手続法120条2項)によって科され、その本質は、罰則の威嚇による入院等の強制にほかならない。

(2)罰則の必要性(立法事実)が存在しない
 そもそも、入院拒否や入院先から逃げた患者が一定程度存在し、そのことによって感染が拡大した事実は存在しない。つまり罰則が必要とされるだけの立法事実は存在しない。

(3)感染症対策にとっての弊害
 また、罰則を科すことによって、検査を受け控えることを誘発し、その結果、かえって感染状況の把握自体が困難になり、感染を拡大することになりかねない。さらに罰則を伴う強制は国民に恐怖や不安、差別を惹起することに繋がり、感染症対策として不可欠な国民の主体的で積極的な参加と協力を得ることを著しく妨げる恐れがあるなど、感染症対策としても弊害をもたらすものといわざるを得ない。
 今回の改正案については、日本医学連合会をはじめ関係学会・団体等多くの医療関係者から罰則そのもののについて反対の意見が表明され、厚生科学審議会感染症部会においても多数の専門家から罰則に対する反対や懸念が表明されていたものである。全国保健所長会が、罰則を振りかざした脅しで住民の私権を制限することになり、住民目線の支援に支障を来すおそれがあるとして、罰則導入について慎重な検討を求めている。このような医療関係者や現場の声、専門家の意見を無視することは到底許されるものではない。

(4)小括
 以上のとおり、患者に行政罰を科すことは、その必要性がなく、患者の人権制限の必要最小限度の原則にも反し、かえって感染症対策にとって弊害が大きいことから、罰則規定はすべて削除すべきである。

3 「特措法」改正案の本質的問題−事業者に罰則を科すことは金額の多寡にかかわらず許されない。
(1)営業の自由(憲法22条1項)、財産権の保障(憲法29条)等に違反
 「特措法」改正案は、緊急事態宣言下、あるいは「まん延防止等重点措置をとった場合に、都道府県知事の営業時間の短縮や休業の命令に違反した事業者に対し、罰則(過料)を科し、このことにより時短や休業を強制するものである。しかし、現在の時短要請に応じられていない事業者は、倒産や廃業の危機に直面しており、要請に従いたくても従えないというのが大半である。この中で求められるのは、時短あるいは休業に伴う減収分を行政が適切に支援、補償し、安心して要請に従うことのできる環境を整備することである。これらの必要な対応を抜きに、罰則で有無をいわさず強制することは憲法13条、22条1項、25条、29条に反するものといわなければならない。
 また罰則を設けることにより、市民相互の密告や監視を招き、差別や偏見分断を助長しかねず、自由な市民生活に対する重大な阻害要因となる恐れがある。
 問題の本質は、政府等が十分な補償等を行わないまま、罰則で時短や休業を強制することそのものであり、過料の金額の多寡では全くない。

(2)行政権力の市民生活への広範かつ過度の介入と濫用の危険
 さらに重大な問題は、違反者に罰則を科すことによって不可避的に生じる違反者の摘発、取り締まりの問題である。

ア 特措法改正によって新設される罰則は、緊急事態宣言の下、あるいはまん延防止等重点措置下で発せられる都道府県知事の発する時短、休業等の措置命令に違反した事業者等が対象となっている(79条、80条)。この対象となる事業者の範囲は、学校、社会福祉施設、興行場、その他政令で定められており(特措法45条2項)、特措法施行令11条は、飲食店、喫茶店その他設備を設けて客に飲食をさせる営業が行われる施設のほか、劇場、観覧場、映画館又は演芸場、集会場又は公会堂、展示場、百貨店、マーケットその他食品等を除く物品販売業を営む店舗、ホテル又は旅館、体育館、水泳場、ボーリング場その他の運動施設又は遊技場、博物館、美術館又は図書館、キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他遊興施設、理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗、自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設と極めて広範囲に及んでおり、小規模店舗・施設であっても必要であれば対象とされる。このように、法令上都道府県知事の措置命令の対象、したがって罰則の対象は、きわめて広範囲の事業者等に及ぶことになる。

イ また、改正案では、都道府県知事は、その職員に、当該営業所、事業所等に立ち入り、業務の状況や帳簿、書類等の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができるとされている(特措法改定案72条1項、2項)。さらに、「都道府県知事は、当該都道府県警察に対し、新型インフルエンザ等対策を実施するため必要な限度において、必要な措置を講ずるよう求めることができる」(同案24条7項)のであるから、立ち入り検査等に際し、トラブル防止等の名目で警察の同行を求めることなどの運用の危険がある。
 実際にも、「立入り等の行使は、法の施行に必要な限度で行いうるものであり、行政上の指導、監督のために必要な場合に、法の目的や他の行政目的のために使うことはできない。例えば、経営状況の把握のために会計帳簿や経理書類等の提出を求めたり、保健衛生上の見地から調理場等の検査を行うこと等は、認められない」(警視庁生活安全局長「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」2019年12月22日付88頁)とされているにもかかわらず、昨年7月9日、菅内閣官房長官(当時)は、テレビで「風営法(風俗営業法)で立入検査ができる。そういうことを思い切ってやっていく必要がある」と発言、その後7月16日、警視庁は風営法に基づいて新宿歌舞伎町や池袋のキャバクラやホストクラブに都職員と立入調査をした。菅内閣官房長官、西村経済再生担当大臣、小池百合子東京都知事は、行政調査に於ける「他目的利用の禁止原則」や「比例原則」に反し、コロナ感染対策ためとして風営法を根拠に警察に立ち入り調査をさせ、さらには「行政指導」までさせた。警察にこうした違法・越権行為、威嚇をさせたことに飲食業界等からは抗議の声が上がっている。
 とりわけ「まん延防止等重点措置」発動の要件は、「政令」で定めることとされており、対象となる事業者等は前述のとおり、極めて広範囲に及んでいることから、警察を含む公権力による市民生活への過度で広範な介入を許す危険があり、上記の例にみるとおり濫用の危険が極めて高い。
 これは罰則を導入することによって不可避的に生じる問題であり、過料の金額の多寡とは全く関係がない。

(3)小括
 以上のとおり、補償もなく事業者に対して罰則を科して休業、時間短縮等を強制することは、憲法22条1項、29条等に違反し、また市民生活への行政権力の過度の介入や濫用による人権侵害の怖れもあることから、罰則規定はすべて削除すべきである。

4 結語
 以上のとおり、罰則による強権的な手段を用いて私権を制限することは、そもそも立法事実を欠き違憲の疑いがあるうえ、行政権力の市民生活への過度の介入をもたらすなど、憲法上重大な問題をはらむ。行政罰(過料)にしても、過料の金額を修正しても、問題の本質は変わらない。
 以上より、罰則規定はすべて削除することを強く求める。
 なお、改正法案は、罰則規定の問題のほかにも、「まん延防止等重点措置」の発動要件を政令で定めるとしていること、国会による統制が規定されていないことなど問題が多く、十分な審議と修正が必要であって、附帯決議等で拙速に法案を成立させることは絶対にあってはならないことを付言する。 
 以上
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