律家会弁護士学者合同部会
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「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」等に反対する決議
 法務省の「出入国管理政策懇談会」の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」(以下「本専門部会」という。)は、2020年6月19日、「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を公表した。また、入管作成の文書から提言の「収容代替措置」の具体策として「監理措置制度」が公表されている。
 これらの提言や制度は、「外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではな」いのであるから、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないもの」との考えを前提としている(最大判1978年10月4日「マクリーン判決」)。
 しかしながら、在留資格を有しないとしても「人」であることに何らの差異もなく、国籍や在留資格でその尊厳、人権は異ならない。まさに内外国人平等の原則の前提に立ち、当部会は、送還忌避罪、全件収容主義・無期限収容等その他監理措置制度、仮放免逃亡罪に断固反対する。

1 送還忌避罪(退去強制拒否罪)の新設に反対する
 本提言は「当該被退去強制者に対し,…(中略)…一定の期日までに退去するよう命ずることにより…(中略)…退去を義務付ける制度を創設するとともに,これらの義務の履行を確保するため,命令違反に対し罰則を定めることを検討する」とし(提言29頁)、送還忌避罪(退去強制拒否罪)の新設を提言する。
 まず、退去強制令書の発付は、在留特別許可を取得できなかったこと、難民認定を受けられなかったことによりなされるが、近年、在留特別許可の運用は極めて厳格化されていっており、難民認定制度の機能不全は難民鎖国と称されるとおり従前のとおりであるから、そもそもの退去強制令書の発付に至るその前提に重大な問題がある。
 なお、具体的な在留特別許可率、すなわち理由なし裁決(在留特別許可を含む)を分母とし、在留特別許可を分子とした比率は、2011年82%、2012年77%、2013年64%、2014年65%、2015年65%、2016年60%、2017年52%、2018年59%となっており、年々急落している。
 そのような状況において、退去強制令書の発付後に任意に出国しないことを処罰したところで、難民認定や在留特別許可を求める人々が任意に出国できるはずもなく、何の解決にもならない。
 むしろ、日本で使い捨てられた外国人労働者とその家族たち、日本で生まれた子ども、日本人と結婚した人、日本の地域社会で平穏公然と生活してきた人、彼らに在留特別許可を与えなかった、その制度と運用こそ見直されるべきなのである。
 こうした見直しが進められれば、難民認定制度そのものの機能不全が解消され、難民としての庇護が実現されることにつながり、送還を拒否するような人たちを減らすことができる。
 また別の問題として、送還忌避罪(退去強制拒否罪)の創設は、外国人・その子どもを支援する人々、市民団体、法律家などをも共犯として処罰する危険すらある。
 以上からすれば、送還忌避罪(退去強制拒否罪)の創設では問題が解決しないばかりか、かえって問題を生じさせるのであるから、まず行うべきは在留特別許可の要件の明確化・本邦生まれの子どもの場合など一定の類型での効果裁量の否定、機能不全を生じさせている難民認定制度の改善であって、送還忌避罪(退去強制拒否罪)の創設などでは断じてない。
 当部会は、この処罰の創設が市民社会に対する重大な挑戦であることから、送還忌避罪(退去強制拒否罪)の創設に断固反対する。

2 全件収容主義・無期限収容・無令状収容の温存に反対する
 提言は、「収容令書・退去強制令書の発付後から送還時まで収容することが原則とされる現在の制度を改め,仮放免とは別に,新たな収容代替措置,…(中略)…の導入を検討する」(提言51頁)とする一方で、「国際機関の勧告等を踏まえるならば,収容は,必要性,合理性及び比例性がある場合に限り行うものとするべきである旨の意見が示されているが,この点については,…(中略)…異論も多かったところである」とし(提言45頁)、国連から再三求められている恣意的拘禁を容認する全件収容主義を否定しなかった。
 また、提言は、「一定期間を超えて収容を継続する場合にはその要否を吟味する仕組みを設けることを検討する」としながらも(提言42頁)、国連から再三求められている収容期間の上限を設けないとした。
 最後に、提言は、「事前にかつ一律に司法審査を要するものとすることは問題が大きい」とし(提言42頁)、やはり国連から再三求められている司法審査を否定した。
 しかしながら、収容される人の多くが在留資格がない人であるからといって、人身の自由など人権は保障されなければならず、ひるがえって収容は必要最小限度のものでなければならず、最後の手段でなければならない。
 送還のために必要最小限度のものとして、逃亡の具体的危険がある場合に要件を限定すべきであり、収容の期限も送還準備に合理的に必要な期間を具体的に設定すべきである。送還がその収容期間内にできないのであればそれは現実的な送還可能性が当面ないのであるから解放(仮放免)することが人身の自由との関係で重要である。
 また、収容は国家権力による人身の自由など人権に対する重大な制約を伴うのであるから、行政の一存ではなく、司法審査が事前に必要とされるべきである。また収容が一定期間継続するのであればその必要性を再度、司法府の判断を仰ぐべきである。
 本提言は、これらのいずれも採用せず、収容代替措置(監理措置制度)も、無期限収容を前提に、事前にも事後にも司法審査も経ることのないものが想定されており、また収容の必要性を要件として具体的に明確に規定するものでもなく、いずれの意味においても、当部会は反対である。

3 仮放免逃亡罪及び収容代替措置(監理措置)逃亡罪に反対する
 提言は、「仮放免された者が定められた条件に違反して,逃亡し,又は正当な理由 なく出頭しない行為に対する罰則の創設を検討すること」、また「収容代替措置を導入する場合,罰則を含む実効的な逃亡防止措置等についても併せて検討すること」とし(提言54頁)、仮放免逃亡罪、収容代替措置(監理措置)逃亡罪の新設を提言する。
 そもそも、収容されていない在留資格のない人たちは、仮放免という状態で、在留特別許可が得られる日を待ちわびている人たちである。当局からすれば、退去強制令書が出ている以上、送還されるべき人たちということとなるが、仮にそれを前提としても、送還までの間、彼らの人権を保障すべきである。
 それにもかかわらず、短絡的に仮放免者が逃亡するという事象が生じていることをとらえて、仮放免中の逃亡を処罰(仮放免逃亡罪)すればよいというのでは問題の解決には遠く及ばない。
 いま、なされるべきは、まず現実にも送還できず、また長年にわたり送還してこなかったのであるから、その長期にわたる平穏公然と生活してきた仮放免者の事実状態を保護すべく、在留特別許可こそが検討されるべきである。そうすることで、不安定な仮放免状態に長期間置いておくという状況を根本から解消すべきある。
 また、在留資格のない人々が仮放免中に逃亡せざるを得ない原因に目を向け、仮放免中の就労禁止など人間の根源的な生存を脅かす現状が逃亡を招いているとの指摘もあるのであるから、就労の限定的解禁などにより彼らの自由権的生存権、労働権を保障することで、逃亡の根本的原因を解消すべきである。
 いうまでもなく、仮に日本に在留する法的地位がないとしても、送還までの間、彼らの生存、尊厳は人として保障されなければならないのである。
 以上のとおりであるから、当部会は、仮放免逃亡罪・監理措置逃亡罪の導入に反対する。

4 難民申請の判断待ちの間の送還の解禁(送還停止効の廃止)に反対する
 提言は「庇護を要する者を適切に保護しつつ,難民条約第33条等の規定に反映されているノン・ルフールマン原則の遵守を前提として,送還停止効に一定の例外を設けること」とし、難民申請の判断を待つ間に迫害国に送還できるという内容の改正を提言する(送還停止効の例外・一部廃止)。その例として複数回申請が挙げられている(提言34頁)。
 難民に対する保護については、難民条約及び難民認定法の適用場面であるため、外国人の人権は入国管理制度の枠内でのみ保障されるにすぎないとした前述のマクリーン判決の射程は及ばないものの、それでも提言には深刻な問題が存する。
 すなわち、広く「難民鎖国」と知られているように、日本の難民認定制度は機能しているとは到底言えない。このような状況において、入管当局が難民ではないと強弁したとしても、それで帰国した際の迫害の危険がなくなるわけでは当然ない。複数回申請したことのみをもって難民ではないと安易に決めつけることは手続き的に不当である。
 また、「庇護を要する者を適切に保護(する)」、「難民条約第33条等の規定に反映されているノン・ルフールマン原則の遵守を前提とする」などと謳ったところで、ほぼ100%の不認定率という実態のもとでは極めて実効性に乏しいと言わざるを得ない。
 以上のとおり、現状のように機能していない難民認定制度の下で、難民認定の判断待ちの間に送還できるとする制度改正は、難民の生命などを危険にさらすことにほかならないのであって、当部会は強く反対する。
 
5 最後に
 以上のとおり、そもそも事実かどうか疑わしい「送還の機能不全」を解消したいという前に、政府は、難民の保護制度を確立すること、日本社会を長期にわたって支えてきた外国人、日本で生まれ育つ子どもたちを保護しうる在留特別許可制度の確立こそ行うべきである。また、長期収容問題についても、政府は、国連から再三にわたって改善するよう勧告されているのであるから、自由権規約等国際人権条約に適合するよう、収容の要件を必要性・合理性がある場合に限定しつつ、収容期間に上限を設け、収容の事前の司法審査、一定期間ごとの司法審査を保障する制度を設けるべきである。
 当部会は、上記の政策に対していずれも断じて反対するとともに、政府・国会に対して、内外国人平等の原則の前提に立って、在留資格のない人たちに対しても、日本国民と同様に「人」であることを前提に議論を出発させ、制度の改善と保護のための立法措置を取るよう強く求める。
2020年12月5日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 3 回  常 任 委 員 会
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