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「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」の採決に反対し、
改憲手続法の抜本的見直しの議論を求める要請書 |
2020年11月30日 |
戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
改憲問題対策法律家6団体連絡会 |
本年11月26日に開催された衆議院憲法審査会において、第196回国会で与党らが提出した「日本国憲法の改正手続きに関する法律の一部を改正する法律案」(いわゆる公選法並びの7項目)(以下「与党ら提出の改憲手続法改正案」あるいは単に「改正案」という。)の審議が行われ、自由民主党、公明党及び一部の野党の議員から、早期採決を要求する発言が相次いだことから、以下の通り緊急に要請する。 |
要請の趣旨 |
1.与党ら提出の改憲手続法改正案の採決には応じないこと
2.改憲手続法には重大な欠陥が多々あることから、改憲手続法の抜本的見直しを図る議論を与野党一致して静かな環境の下、
十分に行うこと |
要請の理由 |
第1 公選法改正並びの7項目改正法案は、究極の不要不急法案であること。公選法「並び」というだけで成立させることは、憲法96条の憲法改正国民投票の性質上許されないこと
1 与党ら提出の改憲手続法改正案は、2016年に累次にわたり改正された公職選挙法(名 簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰り延べ投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて改憲手続法を改正するという内容である。
与党ら議員からは、国民「投票環境を向上させる」ものであり、野党も内容には反対がないはずであり、提出からすでに7国会を経ている以上、急ぎ成立させるべきとする意見が出されている。
2 しかし、以下に述べるとおり、公選法並びの7項目のみについて法案の採決を急ぐべき理由は全く存在しないだけでなく、公選法「並び」というだけで成立させることは許されない。
(1)国民は今、憲法改正を必要とは考えていない。新型コロナ感染防止対策と経済対策に全力を注入しなければならない今、7項目改正案は、究極の不急法案である。
(2)今回の与党提出案が「並び」としているのは、2016年の公職選挙法の改正7項目だけであり、2019年の公職選挙法改正は反映しておらず、さらに、郵便投票の対象拡大についても、公選法が未改正だからという理由で、与党提出の改憲手続法では先送りとなっている。「公選法並び」で改正すべきというなら、2016年以降の7項目以外の公選法の改正や現在議論されている郵便投票の対象拡大などの公職選挙法改正にあわせて改正が必要となるのであり、成立させても使い物にならない法案である。今、7項目のみを急ぎ成立させなければならない理由は全くない。究極の不要不急法案である。
(3) これらの公職選挙法の改正案は、選挙を専門とする委員会で審議され、「憲法改正国民投票の投票環境はどうあるべきか」との観点での議論は全くなされていない。
「選挙があるから」という理由で、公選法の技術事項の改正は成立が急がれるのが常であり、たとえば2016年4月の改正は与野党が共同提案し、委員会審査を省略して全会一致で直ちに成立しており、国民投票との関係も含めて審査を経たとはまったくいえない。
(4)審査会での実質的な審議は始まったばかりであり、7項目の内容に限っても、審議が著しく不十分である。
例えば、法案提出者は、投票環境を改善するものと説明するが、7項目の中には、投票環境の後退を招くものも含まれている(期日前投票時間は2時間の短縮が認めらており、繰り延べ投票期日の告示期限が5日前から2日前までに短縮されている)。
憲法改正国民投票について、かかる投票環境の後退を是認することが許されるかについての議論が全くなされていない。
(5)そもそも、「公選法並び」としていること自体が根本的に誤りである。憲法改正国民投票と選挙では、投票の対象も、運動の期間も、運動期間の運動の自由も「水と油」ほど違う。選挙の投票とそろえて期日前投票の時間を短縮するようなことがあっては、国民から国民投票参加の機会を奪うことになり許されない。
また、選挙と憲法改正国民投票を同時に行うことは回避するという確認があるならば、投票環境を揃える必要性がそもそも存在しない。
根本的な問題は、憲法96条の憲法改正国民投票と憲法15条の選挙の投票の関係を同列に論じること、あるいは、前者を後者に従属させて論じることの誤りである。憲法改正権力の行使である国民投票は、憲法に保障されている参政権の行使である選挙に優越することはあっても劣後・従属してはならない。
ことは憲法の本質、憲法改正にかかわる問題であり、「公選法並び」などという本質を見誤った些末な議論で法案採決を急ぐことは、国民から付託された憲法審査会の任務を懈怠するものであり、その権威を自ら汚すものというべきである。
3 以上のとおり、与党提出の7項目改正案は、2016年の公選法の改正に揃える(並べる)というだけで、@不急の法案であるのみならず、A憲法改正国民投票の投票はどうあるべきかという観点での法案審査を欠いており、B国民投票環境後退を招くものも含まれていることから、このまま成立させるべきではない。
第2 改憲手続法の本質的問題点が全く議論されていない欠陥改正案であること
1 改憲手続法については、2007年5月の成立時において参議院で18項目にわたる附帯決議がなされ、2014年6月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されている。にもかかわらず、これらの本質的な問題の解決が、憲法審査会において6年以上あるいは13年間、放置され続けている。与党提出の改正案が7国会にわたり実質審議されていないというなら、13年間も放置している付帯決議項目を議論することが先決である。
2 日本弁護士連合会も、2009年11月18日付け「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」において、@投票方式及び発議方式、A公務員・教育者に対する運動規制、B組織的多数人買収・利害誘導罪の設置、C国民に対する情報提供(広報協議会・公費によるテレビ、ラジオ、新聞の利用・有料意見広告放送のあり方)、D発議後国民投票までの期間、E最低投票率と「過半数」、F国民投票無効訴訟、G国会法の改正部分という8項目の見直しを求めている。
3 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、とりわけ、(@)ラジオ・テレビと並びインタ―ネットの有料広告問題がきわめて今日的な問題で議論を避けては通れない問題であると考える。また、(A)運動の主体の問題もきわめて重要である。現在は、公務員・教育者に対する規制を除き(それ自体見直しの議論が必要)運動主体に制限はない。しかし、企業(外国企業を含む)や外国政府などが、費用の規制もなく完全に自由に国民投票運動ができるとする法制に問題がないか、金で改憲を買う問題がないかについての議論が必要である。
また、(B)最低投票率の問題は、立憲主義・民主主義の根本に関わる問題であり、慎重かつ抜本的な議論と見直しが不可欠と考える。(C)さらに、憲法審査会では、欧州調査を行い、イギリスのEU離脱に関する国民投票の問題その他の経験を調査しており、また、この間2回にわたり実施された大阪都構想に関する住民投票の経験もある。これの問題点についても十分に調査検討のうえで、改憲手続法改正に生かす議論が必要である。(D)加えて、新型コロナ感染拡大という経験をした以上、投票環境の改善をいうならば、郵便投票の拡大の議論は不可欠といえる。
4 与党提出の改憲手続法改正案は、以上述べたテレビ、ラジオ、SNS等による国民投票運動の有料広告の問題、運動主体の問題 −「国民投票をカネで買う」危険について、全く考慮されていない欠陥改正法案である。そのほかにも極めて多数の問題が残されており、これらの問題点の抜本的な議論と見直しのないまま、与党提出の欠陥法案を成立させることは許されない。
第3 憲法審査会における審査の在り方
1 11月26日の審査会において、日本維新の会の委員から、「質疑打ち切り、討論省略、直ちに採択」との動議が提出された。重大な問題をはらむ改正案をまともな審議なしに採決させようとするもので根本的な誤りであるばかりか、審査会のあり方にも重大な破壊と変容をもたらすものである。
審査会はこの間、与野党の一致による開会と運営を確立した原則として定着させてきている。この原則は与野党共同で準備されてきた改憲手続法の立法趣旨であり、国民の意思を尊重し、慎重なうえにも慎重な検討を要する憲法改正手続が求める当然の要請である。
動議によってこの原則を破壊することは、審査会と憲法改正手続を「数の力」による強行採決の世界に追いやることを意味している。
2007年5月、強行採決によって改憲手続法を成立させた安倍晋三政権(第一次)は、国民的な批判を受けて同年8月の参議院選挙で惨敗し、安倍首相(当時)の「投げ出し」によって政権は崩壊した。これが2009年に実現した政権交代への序曲であり、改憲手続法が欠陥法として長い凍結を余儀なくされたのも、強行採決の結果である。
審査会と憲法改正手続を再び「数の力」による強行採決の世界に追いやる改憲派と与党の暴挙は、断じて許されてはならない。
2 そもそも、与党ら提出の改憲手続法改正案は、特定の改憲を強行するための「道具」として生み出されたものである。2017年5月に、安倍首相(当時)が「2020年までに改憲を成し遂げる」と宣言し、2018年3月に自民党4項目の改憲案(素案 以下、「安倍改憲」という。)を取りまとめ、同年6月に提出されたのが改正案である。この改正案が、「安倍改憲」のために急ぎ間に合わせで作られたものであることは経過から明らかであり、メディアが「呼び水」と報道しているのもそのためである。
それから2年半、 安倍前首相自らが「国民の世論は十分に盛り上がらなかった」(8月26日退陣記者会見)と認めているにもかかわらず、「安倍改憲」4項目は撤回されず、自民党は憲法改正原案の策定を急ごうとしている。『手続法は具体的な改正案と切り離して超党派で検討する」というのが改憲手続の理念であり、「安倍改憲」の「匕首」を突きつけたまま手続法改正を行おうとすること自体この理念を踏みにじるものである。
安倍政権は、これまで数の力を恃んで憲法違反が指摘される多くの問題法案の強行採決を繰り返してきた。野党が、改正案の議論に応じても、与党が抜本的な手続法改正の議論に真摯に応じる保障はなく、欠陥改正法案を多少の手直しで成立させて、自民党改憲案の実質議論に突き進む危険性は、安倍首相が辞任し、これを継承した菅政権下においても依然として払拭されていない。欠陥改正改憲手続法を成立させることは、自民党改憲案が憲法審査会に提示される道を開く環境を整えるだけというべきである。そのこと自体、何度も強調するが、国民の意思ではない。 |
以上 |
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