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日本の敵基地攻撃能力の保有に反対する決議 |
1 安倍政権及び自民党による敵基地攻撃能力保有論
2020年6月18日、安倍晋三首相は、通常国会の閉幕を受け記者会見を行った。会見で安倍首相は、同月15日に決定した陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入計画停止を踏まえ、今夏に国家安全保障会議で安全保障戦略を練り直す方針を表明し、ミサイル攻撃に対する対抗措置としてその発射前に相手基地を攻撃する、いわゆる「敵基地攻撃能力」の保有についても検討対象とする考えを示した。
その後、自民党内の検討チームがとりまとめ、8月4日に検討チーム座長小野寺五典元防衛相らが安倍首相に対して行った「国民を守るための抑止力向上に関する提言」は、敵基地攻撃能力という文言こそ盛り込まれなかったものの、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有」を求め、実質的に敵基地攻撃能力の保有を求めている。
2 敵基地攻撃能力の保有は憲法に違反すること
しかしながら、敵基地攻撃能力の保有は、憲法9条2項が保持を禁ずる「戦力」そのものと解するのが自然であり、憲法違反である。また、憲法解釈における現在の政府見解上保有が認められる、「自衛のための必要最小限度の範囲」を超える攻撃的兵器の保有となりかねない。また、敵基地攻撃は、憲法9条2項が認めない「武力の行使」そのものである。さらに、武力の保持をもって他国を威嚇し、これにより自国の安全を確保しようとするその姿勢自体が、平和主義を定めた日本国憲法前文及び9条の理念に反するものである。
3 専守防衛という防衛政策が破棄されること
これまで政府は、「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない」(1956年 鳩山一郎首相の答弁)として、敵基地攻撃能力の保持が憲法上許されるとしつつも、防御上の便宜から攻撃的兵器を持つことは憲法の趣旨に反するとしてきた。
他方、現実的な政策として敵基地攻撃能力を保有することは、日本に対する急迫不正の侵害が行われるという事態が「現実の問題として起こりがたい」(1959年 岸信介首相の答弁)として、これを頑として採用してこなかった。以上のような考えは、のちに旧「3要件」を内容とする「専守防衛」を本旨とする防衛政策へと続くものである。
しかしながら、日本が実際に敵基地攻撃能力を保有し、これを実際に行使する事態となれば、このような「専守防衛」の立場を根底から覆すことになりかねない。1999年、野呂田芳成防衛庁長官(当時)は、「わが国に現実の被害が発生していない時点でも、侵略国がわが国への武力行使に着手していれば、わが国への武力攻撃が発生したと考えられる」と述べた。しかし、武力行使への着手とはどのような事態を指すのかについて明らかではないことに加え、敵基地攻撃が防衛手段として奏功するのは、必然的に敵基地からミサイルが発射される前であることなどからすれば、ミサイル発射前に敵基地を攻撃することにより、日本が先制攻撃を行ったとの国際的評価を受ける可能性や、これに対する報復攻撃が行われる事態を招来する可能性も大いに危惧される。
さらに、鳩山答弁では、あくまでも急迫不正の侵害が現に行われた場合の防衛手段として敵基地攻撃を想定していた一方、近年は「武力行使の着手」などとして敵基地攻撃が許容される場合についてその時点が前倒しされている傾向にある。このような、憲法解釈のなし崩し的な変更がなされる可能性も否定できない。
4 周辺諸国との間で、外交上の緊張が高まること
また、他国の基地を直接攻撃することができる軍事力を保有すれば、北東アジア諸国をはじめとする周辺諸国に対する大きな威嚇的効果を持つことになる。
そうすれば、周辺諸国の反発を招き、外交上の緊張が高まり、軍拡競争ともなりかねず、日本の安全保障上の危険性も高まるので、憲法の趣旨にも反するものである。
5 結論
安倍首相は、2015年の戦争法成立を契機として、日米安全保障条約体制の下における「盾」としての日本の役割を変容させつつある。敵基地攻撃能力の保有が決定されれば、日米関係にさらなる大きな変容をきたすことになる。また、安倍政権発足以降、軍事費は過去最大の更新を繰り返し、その結果、日本は世界でも有数の軍事力を有する国となっている。
しかしながら、武力を武力によって制することでは、「正義と秩序を基調とする国際平和」は決してもたらされない。あくまでも平和的な外交を積み重ねることにより、国際的秩序の獲得を目指すべきである。
当部会は、ここに改めて、日本の敵基地攻撃能力の保有に強く反対するものである。 |
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2020年9月5日 |
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第2回常任委員会 |
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