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自衛隊中東派遣の閣議決定に強く反対する法律家団体の緊急声明
2019年12月19日
 改憲問題対策法律家6団体連絡会                                
社会文化法律センター 共同代表理事 宮 里 邦 雄
自 由 法 曹 団 団  長 吉 田 健 一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議  長 北 村  栄
日本国際法律家協会 会  長 大 熊 政 一
日本反核法律家協会 会  長 佐々木 猛也
日本民主法律家協会 理 事 長 右 崎 正 博
はじめに
 政府は、自衛隊のヘリコプター搭載可能な護衛艦1隻を新たに中東海域に派遣することを閣議決定する方針を固めた。
 中東派遣の根拠については、防衛省設置法の「調査・研究」とし、派遣地域は、オマーン湾、アラビア海北部、イエメン沖のバベルマンデブ海峡で、ホルムズ海峡やペルシャ湾を外したとしている。また、護衛艦の派遣に先立ち、海上自衛隊の幹部を連絡要員として派遣することを検討しているとされ、さらに、現在、ジブチで海賊対処の任務に当たっているP3C哨戒機2機のうち1機を活用するとしている。
 しかし、海外に自衛隊を派遣すること、とりわけ、今回のように軍事的緊張状態にある中東地域に自衛隊を派遣することは、以下に述べるように、自衛隊が紛争に巻き込まれ、武力行使の危険を招くものであり、憲法9条の平和主義に反するものである。
 私たちは、今回の自衛隊の中東派遣の閣議決定をすることに強く反対する。

1 自衛隊の中東派遣の目的・影響
 今回の自衛隊の中東派遣決定については、米国主導の「有志連合」への参加は見送るものの、護衛艦を中東へ派遣することで米国の顔を立てる一方、長年友好関係を続けるイランとの関係悪化を避けるための苦肉の策だとの指摘がある。確かに、政府は、今年6月に安倍首相がイランを訪問してロウハニ大統領、ハメネイ最高指導者と首脳会談を行い、9月の国連総会でも米国、イランとの首脳会談を行うなど仲介外交を続けてきており、これは憲法の国際協調主義に沿ったものとして支持されるべきものである。
 しかし、自衛隊を危険な海域に派遣する必要性があるのかという根本問題について、菅官房長官も日本の船舶護衛について「直ちに実施を要する状況にはない」としており、そうした中で、自衛隊を危険な海域に派遣する唯一最大の理由は、米国から要請されたからと言わざるを得ない。しかも、菅官房長官は記者会見で、自衛隊が派遣された場合「米国とは緊密に連携していく」とし、河野防衛大臣も同様の発言をしており、中東地域を管轄する米中央軍のマッケンジー司令官も、自衛隊が派遣された場合には「我々は日本と連携していくだろう」と日本側と情報共有していく意向を示していることからすれば、イランは、自衛隊の派遣を、日米一体となった軍事行動とみなす可能性があり、イランばかりでなく、これまで日本が信頼関係を築いてきた他の中東諸国との関係を悪化させる恐れがある。
 また、自衛隊が収集した情報は、米国をはじめ「有志連合」に参加する他国の軍隊とも共有することになるため、緊張の高まるホルムズ海峡周辺海域で、軍事衝突が起こるような事態になれば、憲法9条が禁止する「他国の武力行使との一体化」となる恐れがある。

2 必要なのは米国のイラン核合意復帰と中東の緊張緩和を促す外交努力
 自衛隊の中東派遣の発端となったホルムズ海峡周辺海域では、今年5月以降、民間船舶への襲撃や拿捕、イラン軍による米軍の無人偵察機の撃墜とそれへの米国の報復攻撃の危機、サウジアラビアの石油施設への攻撃などの事件が発生しており、米国は、こうした事態に対応するためとして、空母打撃群を展開したり、ペルシャ湾周辺国の米軍兵力を増強するなどイランに対する軍事的圧力を強めており、軍事的緊張の高い状態が続いている。
 しかし、そもそも、こうした緊張の発端となったのは、米国が、イランの核開発を制限する多国間合意(イラン核合意)から一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を強化したことにあり、こうした緊張状態を打開するためには、米国がイラン核合意に復帰し、中東の非核化を進めることこそが必要であり、日本政府には、米国との親密な関係と中東における「中立性」を生かした仲介外交が期待されているのであり、今回の自衛隊の中東派遣は、それに逆行するものである。

3 法的根拠を防衛省設置法「調査・研究」に求める問題
 また、政府は、今回の自衛隊派遣の目的を情報収集体制の強化だとし、その根拠を防衛省設置法第4条1項18号の「調査・研究」としているが、ここにも大きな問題がある。防衛省設置法第4条1項18号は「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」を規定しているが、この規定は防衛大臣の判断のみで実施できる。しかも、条文は抽象的で、適用の例示もないことから拡大解釈の危険が指摘されており、過去には、2001年の同時多発テロ直後に、護衛艦が米空母を護衛した際や、テロ対策特別措置法に基づく活動開始前に護衛艦をインド洋に派遣した際にも根拠とされており、海上自衛隊幹部からは「使い勝手の良い規定」との発言も出ている。
 自衛隊が憲法9条の禁止する「戦力」に該当し、違憲であるとの強い批判にさらされる中で制定された自衛隊法では、自衛隊の行動及び権限を第6章と第7章で個別に限定列挙しており、こうした自衛隊の行動については一定の民主的コントロールの下に置いている。これに対して、今回の自衛隊派遣の根拠とする「調査・研究」の規定は、自衛隊の「所掌事務」を定めた組織規程であって、どのような状況で調査・研究を行うかなど、その行動及び権限を何ら具体的に定めていない。そのため、派遣される自衛隊の活動の内容、方法、期間、地理的制約、装備等については、いずれも白紙で防衛大臣に委ねることになる。すでに政府が派遣目的を他国との武力行使の一体化につながりかねない情報収集にあることを認めていることは、白紙委任の問題性を端的に示すものといえる。このことは、閣議決定で派遣を決定したとしても、本質的に変わらない。
 また、国会の関与もチェックも一切ないままで、法的に野放し状態のまま自衛隊を海外に派遣することは、国民的な批判を受けている海上警備行動・海賊対処行動・国際連携平和安全活動などの規定すら潛脱するもので、憲法9条の平和主義及び民主主義の観点から許されない。しかも、今回の閣議決定は、臨時国会閉会後のタイミングを狙ったもので、国民の代表で構成される国会を蔑ろにするものである。
 さらに、「調査・研究」を根拠に派遣された場合の武器使用権限は、自衛隊法第95条の「武器等防護のための武器使用」となるが、その場合の武器使用は、厳格な4要件で限定されており、危険な船が接近した場合の停船射撃ができないことから、防衛省内からも「法的に丸腰に近い状態」との声が出ており、派遣される自衛隊員の生命・身体を危険に晒すことになる。

4 自衛隊の海外での武力行使・戦争の現実的危険性
 政府が、自衛隊を派遣するオマーン湾を含むホルムズ海峡周辺海域、イエメン沖のバベルマンデブ海峡は、前述のように軍事的緊張状態が続いており、米軍を主体とする「有志連合」の艦艇が展開している。しかも、日米ともに「緊密な連携」と「情報共有」を明言していることから、派遣される自衛隊が形式的に「有志連合」に参加しなくても、実質的には近隣に展開する米軍などの他国軍と共同した活動は避けられなくなる。
 私たちは、2015年に成立した安保法制が憲法9条に違反するものであることから、その廃止を求めるとともに、安保法制の適用・運用にも反対してきた。それは、安保法制のもとで、日本が紛争に巻き込まれたり、日本が武力を行使するおそれがあるからであるが、今回の自衛隊派遣により米軍など他国軍と共同活動を行うことは、以下のとおり、72年以上にわたって憲法上許されないとされてきた自衛隊の海外における武力行使を現実化させる恐れがある。
 先ず、行動中に、日本の民間船舶に対して外国船舶(国籍不明船)の襲撃があった場合、電話等による閣議決定で防衛大臣は海上警備行動(自衛隊法82条)を発令でき、その場合、任務遂行のための武器使用(警察官職務執行法第7条)や強制的な船舶検査が認められていることから(海上保安庁法第16条、同第17条1項、同18条)、武力衝突に発展する危険性が高い。
 また、軍事的緊張状態の続くホルムズ海域周辺海域に展開する米軍に対する攻撃があった場合、自衛隊は、米軍の武器等防護を行うことが認められており、自衛隊が米軍と共同で反撃することで、米国の戦争と一体化する恐れがある。
 こうした事態が進展し、ホルムズ海峡が封鎖されるような状況になれば、集団的自衛権行使の要件である「存立危機事態」を満たすとして、日本の集団的自衛権行使につながる危険がある。
 さらに、政府は、ホルムズ海峡に機雷が敷設されて封鎖された場合、集団的自衛権の行使として機雷掃海ができるとしているが、戦闘中の機雷掃海自体が国際法では戦闘行為とされており、攻撃を誘発する恐れがある。

5 まとめ
  以上述べてきたように、今回の自衛隊派遣は、その根拠自体が憲法9条の平和主義・民主主義に違反し、自衛隊を派遣することにより紛争に巻き込まれたり、武力行使の危険を招く点で、憲法9条の平和主義に違反する。
 したがって、私たちは、政府に対して、自衛隊の中東派遣の閣議決定を行わないことを強く求めるとともに、憲法の国際協調主義にしたがって、中東地域の平和的安定と紛争解決のために、関係国との協議など外交努力を行うことを求めるものである。
 以上
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