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あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」への公権力の介入、
補助金不交付決定に抗議する決議
1 あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」をめぐる事実経過
(1)企画展の開催
 2019年8月1日に開幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」では、「表現の不自由展・その後」と題する企画展が開催された。
 同企画展では、日本軍「慰安婦」、天皇、憲法9条などをモチーフとする、2015年の「表現の不自由展」で扱った芸術作品の「その後」に加え、同年以降、新たに公立美術館などで展示不許可になった作品を、展示不許可になった理由とともに展示した。

(2)同企画展への妨害行為
 しかし、日本軍「慰安婦」を題材にした少女像や昭和天皇の写真を使った作品などの展示が公表されると、テロ予告や脅迫を含むファックスや電話、メールが実行委員会や愛知県庁などに殺到した。中には、「ガソリン携行缶を持ってお邪魔する」との京都アニメーション放火事件を彷彿とさせるファックスもあった。

(3)首長ら公権力を担う者による介入
 同企画展の開催直後から首長ら公権力を担う者が展示内容に介入する言動を行った。
 河村たかし名古屋市長は8月2日、展示を視察した後、少女像の展示について「日本国民の心をふみにじるもの」「税金を使った場で展示すべきでない。」などと述べ大村愛知県知事に即時中止を求める公文書を送付した。同市長は、後述のとおり、再開された10月8日には、会場前で抗議の座り込みに参加するまでに至っている。
 また、菅義偉官房長官は8月2日の記者会見で、芸術祭が文化庁の助成事業となっていることに言及し、「補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査して、適切に対応していきたい。」と発言した。
 その他にも「税金投入してやるべき展示会ではなかった。表現の自由とはいえ、たんなる誹謗中傷的な作品展示はふさわしくない。慰安婦はデマ」(8月2日、松井一郎大阪市長)、展示内容は「明らかに反日プロパガンダ」(同日、吉村洋文大阪府知事)、「表現の自由から逸脱しており、もし神奈川県で同じことがあったとしたら絶対に開催を認めない」(同日、黒岩祐治神奈川県知事)などと展示内容を批判する首長の発言が相次いだ。

(4)妨害行為への対応と展示再開
 前述の妨害行為を受けて、実行委員会は、参加者と職員の安全が確保できないとして、8月3日に、開催からわずか3日で同企画展の中止を決めた。
 しかし、同企画展の中止決定に対して、展示作家、市民団体等からの抗議行動が展開されるとともに、あいちトリエンナーレ実行委員会(会長大村秀章愛知県知事、会長代行河村市長)に対して再開を求める仮処分が名古屋地裁に提起された。その後、9月30日、同手続において、再開を合意する和解が成立した。
 そして、10月8日、「表現の不自由展・その後」の展示は再開され、10月14日の閉幕まで継続された。

2 同企画の中止・再開をめぐる問題点
(1)テロ・脅迫などを用いた表現の自由に対する妨害は許されない
 かかる一連の経緯は、わが国の表現の自由のあり方に重大な問題を提起している。
 すなわち、憲法21条で保障される表現の自由は、自己の人格を形成・発展させる自己実現の価値を有するとともに、国民が政治的意思決定に関与する自己統治の価値をも有する、極めて重要な基本的人権である。とりわけ政治的表現の自由を保障することは重要である。
芸術作品も現実の社会や政治と無縁であるとは限らない。社会問題を取り上げたりあえて論争的な事柄を扱ったりした芸術作品に対しても表現の自由が保障されなければならないことは言うまでもない。
 同企画展に対してなされたテロ予告や脅迫を含む電話、メール、ファックスは、表現活動に対する萎縮を引き起こし、表現行為の多様性を奪い、ひいては民主主義の前提となる社会の多様性を奪う行為であって、決して許されないものである。

(2)公権力による介入は許されない
 また、前述のとおり、首長をはじめとする公権力を担う者による一連の発言は、政府批判の芸術活動を検閲により弾圧する一方で、戦争礼賛の作品を推奨してきた戦前への反省のもとで憲法に規定された表現の自由の重要性への理解を全く欠いている。
 公権力を担う者が、同企画の展示内容について「反日プロパガンダ」などと決めつけて批判するのは、特定の価値観を押し付ける表現の自由への介入行為であって、決して容認することはできない。

(3)補助金不交付決定は違法である
 さらに、9月26日、文化庁は、「来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した上、補助金交付申請書を提出し、その後の審査段階においても、文化庁から問合せを受けるまでそれらの事実を申告し」なかったという「手続き的不備」を理由に、既に決定されていた約7800万円の補助金全額を不交付(支給決定撤回)とするという異例の決定をした。
 文化庁自身もこのような手続的な理由で補助金不交付を決めた前例はないと認めていることや、菅官房長官の上記発言に鑑みても、「手続き的不備」なる理由は、不支給の口実であることは明らかである。このことは、文化庁の事業の外部審査委員を務める専門家らが、抗議の意志を示すとして相次いで辞任したことにも容易に見て取れる。
 このような不交付決定が許されるならば、今後、文化芸術事業の主催者は補助金支給を受けるために時の政府の意向を忖度することが予想され、表現の自由に対する萎縮効果は計り知れない。また、恣意的な行政権の行使によって補助金の交付不交付を左右することは平等原則にも反する。
 こうした中、大村愛知県知事が、一旦は卑劣な妨害に屈して展示中止を決断したものの、「表現の自由をまもる」という姿勢に基づき、「表現の不自由展・その後」の再開を決断し、河村名古屋市長の発言と行動を批判し、文化庁に対しても補助金の交付を求めている点は評価でき、多くの市民がこうした姿勢を後押しする必要がある。

3 公権力による芸術祭への介入、補助金不交付決定に抗議する
 青年法律家協会弁護士学者合同部会は、公権力による同企画展への介入発言や今回の補助金不交付決定に強く抗議し、決定された補助金を直ちに全額交付することを求める。
2019年12月7日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 3 回常 任 委 員 会
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