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優生保護法による被害の全面回復を求めるとともに、
すべての人の人権と尊厳が保障される社会の実現を求める決議
1 1948年成立した優生保護法は、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」との「目的」が掲げられるなど、当時の「人は生まれながらに優劣があり、劣った者は否定される」という優生思想に基づく立法であった。同法は、本人の同意なく強制的に不妊手術(同法3条、4条)ができるとされ、また、人工中絶手術(同法12条、3条)についても推し進められた。
 同法には本人の同意を得て手術を行うとの規定は存するものの、障害者が非常に弱い立場に置かれていたという当時の状況からすれば、本心からの同意があったのかは大いに疑問である。
 同法が母体保護法に改正された1996年までの約50年間に、不妊手術は約25000件、人工妊娠中絶約59000件合計約84000件にも達している。こうした優生手術等により、被害者は自己の尊厳を奪われたのである。
 1996年、国会は優生手術が「障害者差別に当たる」として優生条項を廃止したが、厚労省は、「当時は合法であった」として被害者への謝罪や補償を行わず、それ以降も一貫して、謝罪、補償も、実態調査も拒否し続けてきた。

2 2018年1月30日、15歳の時に優生手術を強制されたとして、宮城県在住の60代女性が、全国で初めて、国家賠償法に基づく損害賠償請求訴訟を仙台地裁に提起した。その後、提訴が相次ぎ、現在全国7地裁に20名の原告が提訴している。
 放置されてきた優生手術被害の深刻さと被害回復の必要性から、マスメディアによる熱心な報道がなされ、世論も被害回復を求めたことから、2019年4月24日、全国初の提訴から約1年3か月という短期間で、一時金法が制定された。
 一時金法の前文には「このような事態を二度と繰り返すことのないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、努力を尽くす決意を新たにする」と謳われてはいる。
 しかし、優生保護法が憲法違反であったことを前提にしていないことなどから、320万円の支給にとどまり被害者の被害回復は不十分なものであって、その不十分な補償でさえ被害者のもとに届いていない。同年6月2日の時点で、被害者約2万5000人のうち、請求をした人は176人、認定された人は9人にとどまる。また、国は被害者に対して謝罪すら行なっていない。

3 そのような中、同年5月28日、仙台地方裁判所は、リプロダクティブ権(人々が生殖の過程で、身体的、精神的、社会的に良好な状態であること、それを享受する権利)は憲法13条が保障する基本的権利であるとし、「不良な子孫の出生防止」を目的に不妊手術を強制した優生保護法は憲法違反であると判断した。
 さらに、同地裁は、優生手術による被害者の「権利侵害の程度は極めて甚大」であり、損害賠償権を行使する機会を確保する必要性がきわめて高いにもかかわらず、優生保護法の存在自体が損害賠償請求を妨げてきたこと、社会には優生保護法が広く押し進めた優生思想が根強く残り、被害者が優生手術の客観的証拠を入手するのも困難だったこと、被害者が手術から20年の除斥期間を経過する前に損害賠償請求を行うことは現実的に困難であり、被害回復の立法が必要不可欠であったことも認めた。
 しかし、同地裁は、不当にも除斥期間の適用を認めるなど、結論において原告らの請求は棄却され、司法による被害回復はなされていない。

4 このように、優生保護法による被害者の被害の回復は、司法によっても、法律によっても、現時点ではまったく実現されていないと言ってよい。
 優生保護法による被害は、人間の尊厳に関わるものであるにもかかわらず、被害者は、被害の実態を知り、賠償を請求することが現実的に不可能であった。また、司法および立法により、被害の実態に即した適切な賠償がなされなければ、被害回復は実現されない。
 当部会は、国に対し、仙台地方裁判所にて違憲判断が出されたことを踏まえ、被害の全面回復を実現させるために、給付金額の大幅な増額や情報が存在する被害者への個別通知などを内容とする新法の制定、または上記の一時金法の改正などを行うよう求める。

5 そもそも、経済効率や成果、生産性により人の価値を判断し、障害者の存在を無視・否定する風潮は、差別と偏見、不寛容さを助長し、弱者や少数者を排除する危険を常にはらんでいる。障害者への憎悪に起因した発言は今も数多く発せられており、しばしば障害者を対象にした犯罪も発生している。
 当部会は、優生保護法がもたらした被害の実態を教訓とし、こうした悲劇が二度と起こらぬよう、障害者をはじめ、すべての人の人権と尊厳が保障される社会の実現に向けて力を尽くすことを決意する。
2019年6月23日
 青年法律家協会弁護士学者合同部会
 第 50 回 定 時 総 会
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