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自民党杉田水脈衆議院議員の論考「『LGBT』支援の度がすぎる」発言に抗議し、
議員辞職と厳正な処分を求める声明 |
1 個人の尊厳を蹂躙する論考内容
自民党の杉田水脈議員(以下、杉田議員)は、「新潮45」(新潮社)2018年8月号において、「『LGBT』支援の度が過ぎる」と題する論考(以下、杉田論考)を寄稿した。その内容は、「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」との記述を含み、近年『LGBT』とも表記されるセクシュアルマイノリティへの支援を否定しようと主張するものである(なお、セクシャルマイノリティは「LGBT」に限られるものではない)。
この杉田議員の主張は、セクシュアルマイノリティに対する深刻な無理解と、偏見、差別意識に基づくものであるばかりか、根底には、「生産性」すなわち子どもを産むかどうかで個人の評価を行うという問題がある。セクシュアルマイノリティだけでなく、病気や障害により子どもを産めない人々や子どもを望まないカップルの生き方までをも否定するものである。
憲法13条は、個人の尊厳を保障し、その尊厳について立法その他の国政の上で最大限の尊重を必要とすると定めている。この趣旨から、セクシュアルマイノリティに限らず、あらゆる個人は、子どもを産むか産まないかにかかわらず、個人として尊重されなければならない。杉田議員の主張は、憲法13条の定めに真っ向から反するものである。
2 セクシュアルマイノリティ当事者らに与える影響
日本は、近年、セクシュアルマイノリティについて取り上げる報道も増え、社会的な認知は進んでいる一方で、未だ根強く偏見や差別、侮蔑が残っている。さらには、法制度や社会制度においても、トランスジェンダーでなく、かつ異性愛者である多数者の生き方を基準に制度設計されており、その中でセクシュアルマイノリティの尊厳に対する配慮が十分になされていないため、セクシャルマイノリティは様々な局面で制度から排除されている。その結果、セクシュアルマイノリティは重大な生きづらさを抱え、自死のハイリスク層であることが指摘されている(政府発行の自殺総合対策大綱)。
このような社会的な状況において、杉田論考はセクシュアルマイノリティへの差別的言動を扇動するものである。さらに「新潮45」2018年10月号では、「そんなにおかしいか杉田論文」という特集を組み、同性愛を痴漢と同列に語り、セクシュアルマイノリティに対する無理解、嫌悪、差別に満ちた論考が掲載された。同誌は、世論からの反発があり、2018年9月25日に休刊するに至ったものの、セクシュアルマイノリティ当事者らには、今後さらなる差別的言動がありうる恐怖を与えるものであった。
3 自民党において適切な処分がなされていないこと
2018年8月1日、自民党は「LGBTに関するわが党の政策について」と題するコメントを公表し、その中で「今回の杉田水脈議員の寄稿文に関しては、個人的な意見とは言え、問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現があることも事実であり、本人には今後、十分に注意するよう指導したところです。」と述べた。しかし、この文言からは、自民党が杉田議員にどのような注意を行ったのか明らかではなく、個人を生産性で評価するという杉田論考の最大の問題点について指摘しておらず、自民党としてこの考えを明確に否定したものではない。
同様に、翌2日、杉田議員は「(自民)党性的指向・性自認に関する特命委員会 古屋圭司委員長からご指導をいただきました。真摯に受け止め、今後研鑽につとめて参りたいと存じます。」とのコメントを発表したが、個人を生産性で評価する考えを撤回したかどうかは明らかでない。
そうであるところ、2018年9月17日、安倍首相はTBSのテレビ番組において、杉田論考について「まだ若いから、注意をしながら仕事をしていってもらいたい」と述べ、杉田議員に対する処分は不要との考えを明らかにした。これは、「まだ若い」との理由で杉田論考の問題点を軽視する態度であり、自民党が、個人の尊厳を否定する杉田論考の考えを否定していないことの表れである。杉田議員自身も10月25日に「『新潮45』8月号寄稿について」と題するブログを発表したが、そこでも「生産性」に関する主張を撤回せず、謝罪も行なっていない。
4 杉田議員に抗議し、自民党に適切な処分を求める
個人の尊厳を尊重する社会の実現のためには、杉田論考の根底にある生産性で個人を評価する考えを否定しなければならない。当部会は、杉田議員に対し抗議し議員の辞職を求めるとともに、自民党に対しては杉田議員に対し厳正な処分を求める。
同時に、性的指向および性自認のあり方によらず全ての個人が差別を受けることのない社会の実現に向けて尽力することを決意する。 |
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2018年11月6日 |
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長 北 村 栄 |
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