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『日本国憲法の改正手続に関する法律』の一部を改正する
法律案の国会提出に反対する法律家団体の緊急声明 |
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自由民主党と公明党は、「日本国憲法の改正手続きに関する法律」(以下「改憲手続法」という。)について、2016年の「公選法改正並びもの」として7項目についての改憲手続法改正案を衆議院憲法審査会幹事会で示して国会への提出を目指している。
改憲問題対策法律家6団体連絡会(以下、「6団体連絡会」という。)は、以下の理由から、上記改正案の国会提出に強く反対するものである。
第1に、「公選法改正並び」の7項目についてのみ今国会で改正を急ぐべき理由がないこと
改憲手続法改正案は、名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰り延べ投票の7項目で、2016年に成立した公職選挙法改正の内容にそろえて国民「投票環境を向上させる」ためなどと説明されている。しかし、公職選挙法改正に「そろえる」というだけで憲法改正国民投票のあり方についての検討はされておらず、投票環境の後退を招くもの(期日前投票時間の短縮、繰り延べ投票期日の告示期限の短縮)も含まれている。また、今後の公職選挙法改正で導入が検討されている郵便投票の対象の拡大については見送りとされており、再度の改正が必要になる公算も大きい。
改憲手続法の本質的な問題の議論を一切しないまま、上記7項目のみ今国会で改正を急ぐべき理由(立法事実)は存在しない。
第2に、改憲手続法の本質的問題点が全く議論されていない中での改正案であること
改憲手続法については、2007年5月の成立時において参議院で18項目にわたる附帯決議がなされ、2014年6月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されている。
日本弁護士連合会も、2009年11月18日付け「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」において、@投票方式及び発議方式、A公務員・教育者に対する運動規制、B組織的多数人買収・利害誘導罪の設置、C国民に対する情報提供(広報協議会・公費によるテレビ、ラジオ、新聞の利用・有料意見広告放送のあり方)、D発議後国民投票までの期間、E最低投票率と「過半数」、F国民投票無効訴訟、G国会法の改正部分という8項目の見直しを求めている。また、日本弁護士連合会が本年5月25日の総会で採択した「憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議」の中で、改憲手続法に関し、特に、国民投票の14日前までのテレビ・ラジオ等における国民投票運動としての有料意見広告放送に何らの規制が加えられていないこと、最低投票率の定めがなされていないことについて、早急な見直しを求めている。
6団体連絡会も、テレビ・ラジオの有料広告問題、公務員・教育者に対する規制の問題、最低投票率の問題は、立憲主義・民主主義の根本に関わる問題であり、国会での慎重かつ抜本的な議論と見直しが不可欠であると考える。
このように、多くの法律家が共通して問題点を指摘し、国会自らも附帯決議により検討を約束している最重要事項の議論を全くしないまま、改憲手続法の改正案を提出することは許されない。
第3に、緊急に求められているのは、民主主義国家の土台の建て直しであること
森友疑惑をめぐる公文書改ざんと公文書毀棄、証拠隠滅、加計疑惑での事実を隠す数々の答弁、自衛隊の「日報」隠し、裁量労働制をめぐる不適切データの使用、財務省事務次官のセクハラ問題など、民主主義国家の基盤を揺るがす事態が相次いでいる。国会に求められているのは、このような政治・行政の腐敗を正し、国民の政治への信頼を回復して、民主主義と立憲主義を建て直すことであり、憲法改正に前のめりになることではない。
6団体連絡会は、憲法を蹂躙し立憲主義を破壊する安倍政権の秘密保護法、安保法制、共謀罪など違憲立法の制定に反対し、自民党の改憲4項目の本質と危険性について警鐘を鳴らし続けてきた。立憲主義の堅持を求め,安倍政権の下での改憲に反対する野党や市民とともに、この間共同の取り組みを続けているものである。
このたびの改憲手続法改正案は、立法事実がなく不適切であり、安倍首相が目指す今年中の改憲発議を容易にするものでしかない。 |
以上 |
2018年6月4日 |
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター |
共同代表理事 |
宮 里 邦 雄 |
自 由 法 曹 団 |
団 長 |
船尾 徹 |
青年法律家協会弁護士学者合同部会 |
議 長 |
北 村 栄 |
日本国際法律家協会 |
会 長 |
大 熊 政 一 |
日本反核法律家協会 |
会 長 |
佐々木 猛也 |
日本民主法律家協会 |
理 事 長 |
右 崎 正 博 |
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