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生活保護基準の引き下げに断固抗議し、
権利としての生活保護制度の充実を求める決議
1 生活保護基準の引き下げの動き
 2017年12月22日、政府は生活保護基準を引き下げ、年間160億円を削減することを含む新年度予算案を閣議決定した。かかる決定は、以下に見るとおり、すべての国民に認められた「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条1項)を侵害するものであり、青年法律家協会弁護士学者合同部会は強く反対する。

2 引き下げによる悪影響
 今回の基準改定について、厚生労働省は、全体では約7割の世帯が引き下げとなり、特に都市部の子どものいる世帯と高齢世帯において大幅な引き下げとなる一方で、基準額が上がる世帯はわずかであると発表している。
 生活扶助費についてみると、都市部の夫婦子2人世帯では13.7%(月額約2.5万円)、高齢単身世帯(65歳)では8.3%(月額約0.7万円)の減額が見込まれ、あまりに影響が大きいために減額緩和措置で減額率を5%にとどめるという。
 また、母子加算は月額平均2.1万円から1.7万円に、児童養育加算は子ども1人につき月額1万円または1.5万円から一律1万円に引き下げられるほか、定額支給であった学習支援費は実費支給に切り替えられ、小学校では実費上限額も従前の半額程度まで削減される。
 生活保護利用世帯からの大学等進学を支援するなどの制度改善も盛り込まれているが、このように生活保護基準を引き下げることで、生活保護利用世帯の子どもたちから大学等に進学する意欲や能力を育む機会や環境が奪い去られてしまうのではないかと懸念される。

3 現状でも厳しい生活実態
 生活保護基準については、経済のデフレ化などを理由とする引き下げが議論されてきており、これまでも2004年の老齢加算の段階的廃止、2013年の生活扶助基準の段階的削減、2015年の住宅扶助や冬季加算の削減などが行われてきた。こうした引き下げによりすでに生活保護利用世帯の経済状況は逼迫し、全国でも保護費引き下げの取消しを求める訴訟が相次いでいる。
 「洋服や靴も、1年に1枚とか1足買えたらいい。冬でもお風呂は湯船に入れずシャワーにするなど節約しており、引き下げは困る」(大阪市、60代女性)、「どんどん下げられると、やっていけない。上に着るものは周りの人がくれて、下着とジーパン、靴とソックス程度しか買わない。それでも髪は伸びるし、電気製品は10年以上たつとダメになる」(東京都、70代女性。いずれも毎日新聞2017年12月)などといった生活保護利用者の切実な生活実態に、政府は耳を傾けるべきである。

4 保護基準の引き下げは国民全体に影響する
 加えて、生活保護基準は、最低賃金、各種社会保険制度の保険料や一部負担金の減免基準、就学援助、高校生の奨学金、大学の入学金・授業料の減免、障害者総合支援法による利用料の減額基準などの諸制度と連動している。したがって、その引き下げは、生活保護を利用していない世帯の生活水準をも引き下げることとなり、生活保護利用世帯のみならず、日本全体の貧困化を促すことになる。
 なお、厚労省は、2018年1月18日に「生活保護基準の見直しに伴い他制度に生じる影響について(対応方針)」を発表し、国が決定権限を持つ多くの制度については、生活保護減額の影響が極力及ばないようにするとしている。
 しかし、このような方針は、生活保護基準が持つ国民生活の最低限度(ナショナル・ミニマム)の基準としての意味を失わせることになり、国民生活の最低限度に関する基準を2つに分けることになってしまう。
 さらに、生活保護基準の引き下げの影響を受けない低所得者と、基準が引き下げられる生活保護受給者の間に分断を生じさせるおそれがある。むしろ、このような恣意的な基準の設定は、生活保護受給者だけをことさらに攻撃することで、その他の低所得者と分断することを狙ったものとさえ考えられる。

5 第1・十分位層との比較は不当
 そもそも日本における生活保護の捕捉率は20%程度といわれ、ヨーロッパ諸国の捕捉率50%ないし90%程度より顕著に低く、国民のうち所得が最も低い10%(「第1・十分位層」)の中には、本来生活保護を受給可能であるにもかかわらず受給できていない方々も多数存在する。
 それにもかかわらず、今回の引下げにおいて、第1・十分位層の消費水準と比較する手法が採用されている。生活保護を利用していない低所得者層と生活保護基準を比べれば、当然生活保護基準が高いという結果になり、これをもとに基準を見直せば、基準を下げる結論となることは自明である。第1・十分位の単身高齢世帯の消費水準が低すぎることについては、生活保護基準部会においても複数の委員から問題として指摘がされているところである。
 生活保護基準は、「健康で文化的な最低限度の生活」が維持されるよう客観的な基準で算定すべきであって、際限のない生活保護基準の引下げにつながる第1・十分位層の消費水準と比較は極めて不当である。

6 生活扶助・母子加算の引き下げに反対する
 いま政府がなすべきことは、生活保護予算の削減ではなく、生活保護制度への理解を浸透させ、利用率を積極的に向上させることである。さらに、すべての人に権利としての社会保障を確立させ、生活保護基準以上の生活が保障されるよう制度を改善することが必要である。
当部会は、政府に対し、生活扶助費・母子加算の引き下げ案に強く反対するとともに、憲法で保障された権利としての生活保護制度を拡充させるよう強く求める。
2018年3月2日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 4 回 拡 大 常 任 委 員 会
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