律家会弁護士学者合同部会
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自衛隊を明記する憲法9条の改正案発議に反対する決議
1 押し付け改憲論議
 (1) 改憲を巡る情勢
 自民党は、来年(2018年)1月召集の通常国会に憲法9条への自衛隊明記を柱とする改正案を提示する方針を固めたと報じられている。
 2017年10月22日の衆議院議員総選挙の結果、与党(自民党、公明党)が衆議院における3分の2以上の議席数を維持した。参議院における与党の議席数も3分の2を上回っているため、国会は、与党議員の賛成のみによって、憲法改正の発議(憲法96条)ができる。また、日本維新の会、希望の党といった野党の一部勢力も、自民党による改憲発議に同調する危険性が高いと言える。

 (2) 改憲を望まない世論
 しかし、同年11月13日付で発表された毎日新聞の世論調査によれば、国会が改憲案の発議を急ぐべきかという質問に対して、「急ぐ必要はない」との回答が66%で、「急ぐべきだ」の24%を大きく上回った。さらに同日付で発表されたFNNの世論調査では、安倍内閣が最も優先して取り組むべき課題は何かという質問に対し、「憲法改正」との回答はわずか2.8%にとどまった。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による核開発やミサイル発射などの「脅威」が盛んに喧伝される中においても、上記のように世論は改憲に対して慎重な姿勢を維持している。
 かような世論を無視し、不必要な改憲論議を国民に「押し付ける」ことは許されない。

 (3) 改憲の狙い
 2015年9月に強行採決された「戦争法」(安全保障関連法)により、自衛隊の任務に集団的自衛権の行使が加わった。そして「米艦防護」、「燃料補給」、PKO活動における「駆け付け警護」などの任務は現実に実施された。しかし、これに飽き足りない米国トランプ大統領は、安倍政権に対しさらなる防衛協力・同盟強化を求めている。
 こうして見ると、自民党が憲法9条改憲を傍若無人に進めようとする狙いは、いわゆる「フルスペックの集団的自衛権」を認めさせ、米国と一体化して武力行使ができるよう自衛隊の軍事力と任務をさらに強化・拡大する点にあるといえよう。これは、米国はもとより、軍事産業、多国籍企業、日本会議を筆頭とする右派団体の要請に応えるものであり、国民の意向を踏まえたものではない。

2 自衛隊明記の問題点
 改憲案の具体的な中身についてはいまだ提案されていないものの、憲法9条2項の戦力不保持、交戦権否認規定を残したまま、自衛隊の存在を明記するものになるとされている。
 このような改憲には、以下のような問題点がある。

 (1) 憲法9条2項の死文化
 憲法9条2項で戦力不保持を定めておきながら、自衛隊の存在を9条に明記してしまえば、「自衛隊」という組織の内実を問わず、「自衛隊」は戦力不保持の対象である「戦力」ではないという解釈がまかり通ることになりかねない。
 また、憲法9条2項は交戦権の否認も定めるが、明記される「自衛隊」が交戦権を行使しない(戦闘をしない)部隊であることの保証はない。
 自衛隊の明記によって、自衛隊は憲法9条2項のコントロールの及ばない存在となり、憲法9条2項が死文化する。

 (2) 立憲主義の破壊
 前述のとおり、2015年9月、戦争法が強行採決された。集団的自衛権を容認したこの法律が、憲法9条や前文に違反するものであることは論を待たない。
 今回の9条改憲は、本来であれば憲法上認めることのできない戦争法を事後的に追認することにより、国民各層からいまも強く唱えられている戦争法批判の根拠をなくそうという意図のもとで進められている。すなわち、憲法違反の法律(戦争法)を、憲法を変えることによって合憲化するという主客転倒こそが今回の改憲の主眼なのである。このような改憲は、根本規範としての憲法をないがしろにするものであり、立憲主義を根底から破壊するものである。

 (3) 「公共性」を帯びる自衛隊による人権制約
  自衛隊が憲法に明記されることによって、自衛隊が「公共性」を帯び、これが新たな人権の制約根拠になりかねない。例えば、以下のような危険性が挙げられる。
ア 自衛隊基地のための土地収用が可能に
    国が強制的に土地を収用できるのは、「公共の利益となる事業」についてであり、自衛隊基地は、土地収用の対象から除外されている(土地収用法3条)。しかし、明記によって自衛隊が憲法上の存在となれば、この「公共の利益となる事業」から自衛隊基地を除外する理由がなくなり、土地収用法が改正され、自衛隊基地のための収用が可能になることが予想される。
イ 騒音・飛行差し止め等の訴訟が困難に
    自衛隊が憲法上の存在となれば、自衛隊の活動によって生じる公害に対して住民が受忍しなければならない限度はより高くなる可能性があり、自衛隊基地の騒音・飛行差し止め等を訴訟で争うことが困難になりかねない。

 (4) 軍事費の増大
 予算編成における軍事費は、事実上、GDPの約1%以内におさまってきた。しかし、自衛隊が憲法上の存在として積極的に容認されると、自衛隊の活動がより大がかりとなり、すでに世界有数の軍事費がいっそう増大することが予想される。

 (5) 自然災害へ対応できない
 2015年1月に内閣府が実施した世論調査によれば、自衛隊が存在する目的について、「災害派遣」と回答した割合が81.9%でもっとも多かった。このことから、国民がもっとも期待している自衛隊の任務は、防衛出動(自衛隊法76条)のような任務ではなく、災害時における救援活動や緊急時の患者輸送などの「災害派遣」(同法83条)であるといえる。
 しかし、憲法9条に自衛隊が明記されれば、これまで以上に戦闘部隊としての位置付けが高まる。そして、前述のとおり、他国軍の後方支援やPKO活動の拡大などを定めた戦争法が合憲化されるために、ますます自衛隊の任務のうち、海外派兵等の任務の比重が大きくなる。海外派兵によって国外に出ているため、国内で地震や洪水などの災害が起きたときに自衛隊が対応できない、という事態は国民の期待とは裏腹である。

3 憲法9条が目指すもの
 (1) 「武力による平和」から「対話による平和」へ
 憲法9条は、日本の侵略戦争において国内外で多くの死傷者を出したことの反省に立ち、戦争の放棄、戦力不保持、交戦権の否認を定めることによって、「武力による平和」を徹底的に否定したものである。
 戦後間もなくの、国際社会の平和が武力によって保たれていたと考えられていた時代には、憲法9条は奇抜なものとして受け止められることがあったかもしれない。しかし、国家間の経済連携が進み、国民同士のコミュニケーション手段等が発達した現代においては、憲法9条が目指す「対話による平和」こそが国際社会の潮流であり、「武力による平和」は時代遅れとなりつつある。
 こうした潮流には、広島・長崎への原爆投下が生んだ悲惨な体験が全世界に浸透していったことで、ひとたび武力が行使されれば、人類は滅亡の危機に瀕しかねないという共通理解も大きく寄与していると言えよう。
 このことの好例として、2017年7月に国連で採択された核兵器禁止条約が挙げられるのであり、国際社会は、「武力による平和」から「対話による平和」への移行を着々と進めていることが分かる。

 (2) 逆行する日本政府
 それにもかかわらず、日本政府は核兵器禁止条約の交渉に参加すらしなかった。
 加えて、2017年11月3日付の読売新聞の世論調査によれば、北朝鮮の武力威嚇への対応について、「対話重視」(48%)が「圧力重視」(41%)を上回っているにもかかわらず、日本政府は北朝鮮への圧力を強めることを表明している。北朝鮮に対して強硬論をとる米国トランプ政権でさえも水面下で対話の途を探っていると報じられていることから見ても、その突出ぶりは異常である。
 その上、日本政府は、前述のとおり、憲法9条の改正を目論み、軍事力の増強を狙っている。
 このように「武力による平和」を重視する日本政府の動きは時代錯誤的であり、国際社会の潮流に反するものであり、強く非難されなければならない。

4 自衛隊を明記する憲法9条の改正案発議に反対する
 (1) 国民投票の危険性
 憲法改正に際しては国民投票(憲法96条)が行われるが、そのためには、国民に対して十分な説明と情報提供がなされることが不可欠である。しかし、これまでの戦争法や共謀罪法(テロ等準備罪法)をめぐる審議や森友学園・加計学園疑惑についての国会答弁を見れば明らかなとおり、安倍政権は国民に対して十分な説明もしなければ情報提供も行っていない。したがって、討議が全く不十分なまま、憲法改正案が国民投票に付されてしまう可能性がある。
 第一次安倍政権下で成立した改憲手続法(日本国憲法の改正手続に関する法律)は、改憲派が作った改憲のためのルールであり、不備が極めて多い。
 例えば、発議から投票日までは60日から180日までの短期間であるうえ、発議する側が改憲に有利となるよう期間を恣意的に設定することができる(同法2条1項)。また、改憲案に対する賛成・反対を呼びかけるテレビCM放送は投票日15日前までは無制限であるし(同法105条)、「私は改憲に賛成です」と表明する「意見表明CM」は投票日当日まで許される。そしてこうした広告・宣伝にかける費用に上限は設けられていない。そうすると、豊富な資金力を持つ改憲勢力が圧倒的に有利な状況になりかねない。
 また、公務員や教育者の「地位利用による」国民投票運動の禁止(同法103条1項、2項)や「組織的多数人買収・利害誘導罪」の創設(同法109条)は、不明瞭な要件のために自由な表現活動を萎縮させてしまう。さらに、できるだけ多くの国民の意思を反映させるための最低投票率の制度が導入されていない。
 このように国民投票法に重大な欠陥がある以上、改正案の発議自体をさせないことが決定的に重要である。

 (2) 自衛隊明記の改憲案発議阻止を
 憲法9条は、戦争放棄、戦力不保持を通じて徹底した恒久平和主義を定めている。それとともに、平和なくして人権保障はありえないとの意味では、すべての人権を根源から支える規定であるとも言える。このように平和主義を規定し、基本的人権の保障の基盤である憲法9条が、いま安倍政権によって蹂躙されようとしている。
 こうした動きを阻止するためには、「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が提起した「安倍9条改憲NO!3000万人署名」を実現することが極めて重要である。
 私たち青年法律家協会は、憲法を擁護し平和と民主主義及び基本的人権を守ることを目的として1954年に設立され、以来、一貫して平和と民主主義を守る活動を推し進めてきた。
 当部会は、設立の趣旨に立ち返り日本国憲法の先駆的な価値を確認するとともに、自衛隊明記の憲法9条改正発議を阻止するために、全国の市民と共に奮闘することを宣言する。あわせて、自衛隊明記の憲法9条改正発議に反対するすべての勢力が国会の内外で広く連携することを強く呼びかける。
2017年11月26日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 3 回 常  任  委  員  会
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