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安倍政権がめざす9条「加憲」を含む2020年までの明文改憲に反対する決議
1 2020年明文改憲をめざすとの安倍首相発言

 2017年5月3日、安倍首相は、改憲派のシンポジウムに寄せたビデオメッセージ及び同日付の読売新聞のインタビューにおいて、憲法9条への自衛隊明記や高等教育までの教育無償化などの「加憲」を行うとして、「2020年明文改憲」への意欲を表明した。
  「2020年」という時期について、安倍首相は、「1964年の東京オリンピックを目指して、日本は大きく生まれ変わりました。その際に得た自信が、その後、先進国へと急成長を遂げる原動力となりました」と述べた上で、「2020年もまた、日本人共通の大きな目標となっています。新しく生まれ変わった日本が、しっかり動き出す年、2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べ、具体的な施行時期の「理由」を示した。
 青年法律家協会弁護士学者合同部会は、安倍首相のこの発言に対して、以下の理由から強く反対する。

2 国民も国会も軽視する姿勢

  改憲の手続きについて定めた憲法96条1項は改憲発議を国会の専権事項であるとし、国会法では憲法改正原案の作成は衆参の憲法審査会の権限とされている(102条の6)。
 今回、安倍首相が改憲の内容のみならず、2020年という施行時期の目標を設定したことは、憲法審査会での討議を軽視するものであり、到底看過することはできない。これまで、安倍内閣は、多くの憲法学者や国民が憲法違反であると指摘してきた秘密保護法(2013年12月)、戦争法(安保法制。2015年7月)、共謀罪法(2017年6月)などの違憲立法を次々と「成立」させてきた。こうした施策の最後の仕上げとして憲法そのものを改変しようという姿勢は、立憲主義の精神をないがしろにするものである。そもそも、権力を縛るという憲法の本質、それを体現する憲法99条(憲法尊重擁護義務)の趣旨に照らせば、首相が主導して改憲を提案すること自体が問題である。
 また、安倍首相は、改憲の具体的な提起について、改憲派団体の主催する集会や改憲の必要性を打ち出している「読売新聞」インタビューのみで語り、国会で語ろうとしない。こうした姿勢は、国会軽視であるばかりか、国民をも置き去りにしたものというべきである。

3 自衛隊の明記

 繰り返し憲法9条について「改正」を訴えてきた安倍首相が、発言の冒頭に自衛隊を憲法上明文にて位置付けると表明したことは、改憲の真の狙いがまさに9条にあることを示している。現行の9条1項、2項をそのまま存置し、新たに自衛隊の存在を明記するだけだとすることで、国民や他党の抵抗感を少なくできるとの思惑であろう。
 しかし、「後法は前法に優る」との法格言のとおり、9条に自衛隊を明記した「3項」ないし9条の2が付け加われば、それと矛盾・抵触する限りで、9条1項と2項の法的意味が失われることになる。すなわち、自衛隊は2項で定める「戦力」ではないことが明らかになるため、自衛隊に対する憲法上の制約がいっさいなくなり、2項の「戦力不保持」規定は死文化し、「交戦権否認」も否定される。
 その結果、新憲法によって「合憲化」された自衛隊は、戦争法(安保法制)によって認められた集団的自衛権の行使、他国軍への「後方支援」の枠組みをはるかに超えて、まさに海外での武力行使を文字通り無制限に行うことにつながりかねない。
 そもそも、改憲しない限り自衛隊の存在が違憲であるというのであれば、自衛隊の合憲性を前提としてきた歴代の自民党政権の安全保障政策と相容れないことは明白である。
 安倍首相の提案のもとになったとされる日本政策研究センターの改憲提案(伊藤哲夫)では、日本の平和と安全を守っている自衛隊を憲法に位置付けないのはおかしいとの主張がなされている。しかし、むしろ9条の存在があったからこそ、国民は他国の武力紛争に直接に関わることが避けることができ、また他国の人々を直接殺さずにすんだというべきであって、戦争法によって海外派兵が可能となった自衛隊のいまの存在こそ、逆に国民の「平和と安全」の障害となっているとさえ言えよう。
 日本が周辺諸国と友好的な関係を構築していくためには、憲法の平和主義(9条、前文)に裏打ちされた外交努力こそが求められるのであって、9条「加憲」は有害そのものである。

4 高等教育の無償化

 憲法26条2項は「義務教育は、これを無償とする」と定めているが、これは無償の範囲を「義務教育」のみに限定する趣旨ではない。むしろ、同条1項が「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定しているとおり、能力はあるが就学が困難な「すべて(の)国民」に対して、国が経済的援助を行うことにより、経済的な状況に関係なく、誰もが教育を受けることができることを保障しているのである。
 したがって、高等教育を含む教育の無償化は、これを実現するための予算措置を拡充し、法律を制定すれば実現できる。安倍首相の発言は、自らの政権下では、高校無償化の撤廃、教育への公的支援の抑制というおよそ教育無償化とは真逆の政策を行いながら、これまでの政策についての問題点は反省や検証もしていないままなされたもので無責任極まりない。そしてかかる発言は、国民に対して、現行憲法下では、教育無償化が実現できないので、現行憲法は問題であり、それゆえ憲法改正が必要であるという誤った認識を与えるばかりか、問題の先送りの口実とされかねない。かかる条項を書き入れるとの提案は、前述の憲法9条の実質的な改定から国民の目をそらせるためのまやかしであると見るべきである。

5 安倍首相の進める明文改憲に反対する

 以上のとおり、自衛隊を明記することは憲法の平和主義を破壊するものであり、また高等教育の無償化を書き込むことは何ら必要ない。
 青年法律家協会は、日本の再軍備が始まり、個人の自由が否定されようとしていた1954年に、「平和」と「民主主義」を守ることを呼びかけて設立された。それ以来、平和憲法の改悪をめざす動きに一貫して反対し、多くの国民とともに平和憲法を守る活動を推し進めてきた。また、教育を受ける権利をはじめとして様々な人権の保障のために各会員が活動を続けている。
 私たちは、あらためて設立の趣旨に立ち返り、日本国憲法の先駆的な価値を確認し、安倍首相のうちだす2020年までの明文改憲に対して強く反対する。
2017年6月25日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
 第 4 8 回  定  時  総 会
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