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共謀罪法の強行採決に抗議し、発動を許さず廃止を求める決議
1 参院での強行採決
 2017年6月15日の早朝、共謀罪(テロ等準備罪)法が参院で強行採決された。
 共謀罪法は刑法の基本原則を根本から変更するものである。現在の刑法は行為主義の立場をとり、犯罪を実行しない限りは処罰の対象とならないことが原則である。しかし、共謀罪法は277の犯罪(認知犯罪の約8割)についてこの原則を覆し、実行行為以前の「計画」段階の処罰を可能とするものである。

2 共謀罪法の危険な内容
 政府は、今回の共謀罪法は、過去3度廃案になった共謀罪法案とは違い、主体、実行準備行為、対象犯罪の点において限定されていると説明する。
(1)しかし、主体の限定について、共謀罪法の「組織的犯罪集団」は、テロリスト集団や暴力団には一切限定されていない。ある団体が「組織的犯罪集団」に該当するかどうかは「共同の目的」という極めて抽象的な概念を捜査機関がどのように捉えるかによる。政府が、環境保護団体などの一般の市民団体を「隠れ蓑」とする「組織的犯罪集団」もありえると答弁していることからも明らかなとおり、「組織的犯罪集団」と認定されうる団体の範囲には歯止めがない。そもそも、参議院の審議では政府自身も認めていたとおり、共謀罪法が適用される主体は「計画する者」であり、「組織的犯罪集団」ではない。共謀罪法が適用される主体は無限定であり、「一般人に適用されない」という政府の答弁は、国民を誤導するものでしかない。

(2)「実行準備行為」についても適用の歯止めになるとは到底言えない。「実行準備行為」は、その行為自体には危険性がない行為である。そのため、日常的な行為の多くが「実行準備行為」としての外観を備えることとなり、犯罪実行に向けた腹ごしらえは「実行準備行為」である、と判断することさえ妨げられない。そして、ある行為が「実行準備行為」なのかどうかを外観から区別することは不可能であり、結局、捜査機関が「実行準備行為」と決めつけた行為が「実行準備行為」である、ということになりかねない。政府が説明するような、「ビールとお弁当を持っていれば花見、地図と双眼鏡を持っていれば下見」というような明快な区別はあまりにも非現実的である。

(3)対象犯罪についても、全くと言っていいほどに限定がされていない。今回の法案の対象犯罪数は277も存在し、これは認知犯罪件数の約8割を占めるものである。しかも、政府は対象犯罪をギリギリまで絞ったと限定するものの、前回廃案となった法案の最終的な対象犯罪数である128よりも倍以上に増えている。さらに、政府は対象犯罪は「テロリストが現実的に関与することが想定されるもの」と説明するものの、著作権法違反、所得税法違反など、テロとの関連性がなく、むしろ市民生活との関連性が強い犯罪が多数含まれている。他方で、共謀罪法はTOC条約の担保法であるという政府の説明に反して、TOC条約が求めている公権力の濫用や政治腐敗に関する犯罪が対象犯罪から除かれていることは不可解である。

3 テロ対策に共謀罪は必要ない
 そもそも共謀罪法には、立法事実が存在しない。政府は、「テロ対策のための立法」と説明するが、前述のとおり、対象犯罪にはテロと関係のない犯罪が多数含まれている。テロ対策の国内立法としては、すでに「テロ資金提供処罰法」があり、テロ目的による資金や物品、役務の提供等を包括的に処罰対象としているため、現行法に穴はない。
 TOC条約はマフィア対策のための条約であり、テロ対策の条約ではないことは国連立法ガイド執筆者のニコス・バッサス氏も指摘するとおりである。共謀罪法を作らなくてもTOC条約には加盟することができる。日本はすでに共謀共同正犯、予備罪が広く認められており、TOC条約の要請(重大犯罪の実行前の処罰)を満たしているからである。

4 国連特別報告者から指摘されたプライバシー侵害
 共謀罪法に対する懸念は、国連人権理事会の特別報告者であるジョゼフ・ケナタッチ氏から安倍首相宛てに送られた書簡でも示された。この書簡の中では、共謀罪が法的明確性の原則に適合していないこと、日本にはプライバシー保護のための十分な措置が存在していないことなどが指摘された。
 さらにケナタッチ氏は政府の拙速な審議を諌めた上で、いくつかの点について政府への回答を求めた。それにもかかわらず、政府はこの書簡に対して抗議をし、結局回答をしないままで強行採決に踏み切った。このような政府の暴挙は海外メディアからも問題視され、日本の国際評価を貶めるものとなってしまった。

5 憲法に違反し、治安維持法よりも悪質
 もとより、共謀罪法は憲法に違反する。広範かつ曖昧な規定ぶりは適正手続き原則を定めた憲法31条に反し、また「計画」の内容に着目して刑罰を科すことは内心の自由を保障した憲法19条に反する。広範で曖昧な文言によって、誰に対しても捜査が及びかねない共謀罪法は、戦前の治安維持法よりも危険であると言っても過言ではない。

6 手続き面での重要な問題点
 共謀罪法については、審議過程に関しても看過できない問題が続出した。
 衆院法務委員会では、政府は野党議員の質問に正面から答えることなく、「一般人は捜査の対象にも、捜査の前段階の調査・検討の対象にもならない」といった強弁を繰り返すことによって、議論を法案の中身にまで踏み込ませることなく、わずか30時間の審議を空転させた上で、強行採決された。
 参院においては、「中間報告」(国会法56条の3第1項)という「禁じ手」を用いることによって、法務委員会での審議時間がわずか18時間弱にも満たない中で打ち切られ、そのまま本会議によって強行採決された。
 そもそも、与党が委員会委員長である場合の「中間報告」は前代未聞である。
 「中間報告」は、「委員会の審理中の案件について特に必要があるとき」に求められるものである。また、中間報告があつた案件について、議院が特に緊急を要すると認めたときは、議院の会議において審議することができる(国会法56条の3第2項)。今回、安倍政権は、加計学園疑惑をかわして東京都議会議員選挙への影響を最小限にするために国会会期延長を回避したのであって、こうした利己的な政治的判断によって行われた中間報告は、「委員会の審理中の案件について特に必要があるとき」の要件を欠いているし、このような理由で行われた議院での審議は「議院が特に緊急を要すると認めたとき」とはいえず、国会法56条の3第1項、第2項に違反する。
 憲法31条は適正手続を定めており、刑事法の制定手続きは適正でなければならないことからすれば、共謀罪法の制定手続きは憲法31条にも違反する。
 多くの国民が反対する法案を強行採決することは断じて許されない。

7 政府がめざす監視社会を許さない
 政府は「共謀罪法によって手続法が変更されるわけではない」と説明するが、「計画」の段階で検挙を行うためには、あらかじめ監視することが必要不可欠であるため、監視社会の到来が危惧される。風力発電に反対する市民の動向を監視していた大垣事件や、社会保険庁職員の休日の行動を盗撮していた堀越事件でも明らかであるとおり、捜査機関は共謀罪法ができる以前ですら市民を非合法に監視してきた。共謀罪法によって、そういった違法捜査が追認され、監視がさらに日常的になっていくことが懸念される。
 このように立法事実が存在しないにもかかわらず、政府が「テロ対策」という虚偽の説明を行ってまで共謀罪法を成立させたのは、秘密保護法、戦争法(安保法制)への反対のために立ち上がった市民の活動を止めたいという思惑があると考えられる。

8 共謀罪法の発動を許さず、廃止を求める
 青年法律家協会弁護士学者合同部会は、これまで独自に共謀罪法案への反対のために取り組むとともに、「共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会」の構成団体としても、「稀代の悪法」である共謀罪法案に反対し、法案の危険性を市民に知らせる活動を行ってきた。
 私たちは、憲法違反の共謀罪法の強行採決に強く抗議する。そして今後は、共謀罪法を発動させないよう政府・捜査機関を厳しく「監視」するとともに、共謀罪法廃止に向けた取り組みを行っていくことを宣言する。
2017年6月25日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
 第 4 8 回  定  時  総 会
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