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国・東電の責任を明らかにし、住民に寄り添った施策を
― 原発事故6年を経過するにあたって、私たちの緊急提言 ―
2017年 3月 8日
原発と人権ネットワーク
はじめに
 東電福島第一原発の事故から6年。政府や東電は、「復興」や「帰還」を叫び続けていますが、現場の状況は変わらず、住民は放射能汚染の恐怖と奪われた生活にいまなお苦しんでいます。こんなことでいいのでしょうか。
 私たち「原発と人権ネットワーク」は、2012年4月以降2年毎3回にわたって福島大学で開催した「『原発と人権』全国研究・交流集会」の経験を受け、緩やかなネットワークで交流と討論を続けてきましたが、政府、東電及び各自治体に、現実を直視し、被災者の人権を守り、地域を復興するために、以下の通り緊急提言します。

 原発事故は6年を経過した現在、核燃料がメルトダウンした原子炉は、強い放射能のため十分な調査もできず、収束の見通しが立たないだけでなく、避難者はいまなお約8万人。「帰還可能」とされた住民も、多くの人々が放射能への不安と、生活が成り立たないため、実際に帰還できない状況が続いています。ふるさとであっても、森へは入れず、あたりにフレコンバッグが並ぶ土地で、どう安心できるというのでしょうか。避難した人も、留まった人も、その抱える問題は多様化し深刻化してきています。
 私たちは、事故から6年を経過した今、政府と東電が、事故の責任を全面的に認め、史上最悪、最大の公害汚染であるとの認識に立って、こうした被災者ひとりひとりの人生を守る立場で政策を見直し、抜本的な対応策を講じるよう求め、あるべき問題解決方向の基本的視点を緊急に提言します。

T 私たちの提言
1:あらゆる政策について、行政区画による官僚的、画一的な対応を改め、実態に即した対応をすること。
 政府の施策の最大の問題は、地域や生活の実態を詳細に見ることなく、住民を行政区画や地域で分断し、一方的に、補償など復興施策や帰還政策の「線引き」を行っていることです。この姿勢を改め、被災者ひとりひとりの実態を直視した対応が求められています。 今回の事故に対する政府・東電の対応は、端的に言って、「差別」と「分断」です。原発による放射能汚染状況は、エリアと自然状況で、区別されることはあっても、それ以外で違いが出てくるものではありません。
 ところが政府の対策は、自治体やその中の「字」の違いで、避難についても補償についても「差別」し、住民の中に亀裂を生みました。道一つ隔てて、あるいは、入り組んでいても、地域的なコミュニティが形成されていても、一切お構いなしで、行政区画による官僚的な「対策」が進められました。その結果、住民の間に深刻な溝ができ、被災者の中に「差別」が生まれています。

2:帰還政策では、指定解除、住民帰還と補償を結びつける考え方を捨て、現実に被災者の生活が成り立ち、事故前と同様な生活が可能になるよう、生活補償を継続、拡充すること。
 国は、「除染」を実施し、「避難指示解除準備区域」と「居住制限区域」について「安全が回復された」として一方的に「安全」を押しつけ、帰還を強制しています。
 しかし、この政策は不合理で、著しく住民を苦しめています。なによりも、指定を解除し「帰還可能」とすることと、補償の打ち切りを結びつけることで避難者に「帰還」を強制しています。しかも、この強制が上記1の「線引き」を前提に、画一的に推し進められていることが更に被災者を苦しめることとなっています。
 こうした「帰還」を強制する政策は直ちに中止し、全ての被災者に、その必要性と実態に合った補償を継続・徹底すべきです。

3:指定区域外の避難者(「自主避難者」)への住宅供給措置の打ち切りを中止し、これまで通り住居を確保、生活を保障すること。
 原発事故で、避難の指定を受けた地域以外からも、多数の避難者が全国に避難しています。「自主避難者」と呼ばれ、あたかも自分たちで勝手に住居を移したような見方さえされています。これらの人たちにも、住宅支援などがされていますが、政府、東電はこの3月、この住宅支援を打ち切ろうとしています。
 家を失うことは、生活が破綻するということであり、人間の「生きる権利」を奪うものです。国と東電は、被災の実態を見ずに人々の住居を一方的に奪うことをやめ、その責任において被災者の「生きる権利」の保障に向かうべきです。

4:営業損害賠償にも、さらに積極的に対応をすること。
 営業損害賠償についても、「原発事故との相当因果関係が必要だ」との主張から、要求があっても支払われなかったり、減額されたり、打ち切られる例も広がっています。原発事故が事業に与えた打撃が明らかである限り、無条件の賠償がされるべきです。

5-1:健康対策については、行政区画による住民への選別、差別をやめ、予防原則に沿って、地域の放射能汚染調査と住民の健康調査を徹底させ、生活支援、医療費の無償供与などを実施すること。
 原発事故による放射能汚染は、政府、東電の調査による地域だけでなく、福島県全域、あるいは近接各都県のホットスポットの存在など広範に広がっています。政府、東電は、行政区画による住民の差別、選別をやめるとともに、その被害が後日どんな形で現れてくるかわからないことを前提にして、予防原則に沿って、対策を進めるべきです。
 政府は、まず、自治体の協力を得て、福島にとどまらず、環境省の放射能汚染状況重点調査地域の全てを含め、地域のモニターを増やしてデータを蓄積していくべきです。必要な地域全域、全戸の汚染状況を調査し、全住民の健康調査を実施し、これからの被害対策に役立てていくべきです。
 また、甲状腺がん、呼吸器疾患などについて、科学的な因果関係が十分証明されない状況でも、十分な対応が必要です。

5-2:健康手帳の配布、それを活用できる体制の整備につとめること。
 健康調査をどこでも誰でも、無料で受けられる制度と体制を作り、被害が明らかになった場合には、十分な手当がなされるようにすべきです。
そのためには、被災の可能性が出ている全域にわたって、健康手帳を配布し、活用できる体制を整えるべきだと考えます。
 健康調査の実行にあたっては、これまでも、住民個人に調査内容を伝えなかったり、客観的データを公表しなかったり、地域や各住居の調査が方法は曖昧だったり、問題が指摘されています。こうしたことがないよう、積極的な対応が求められています。
 
6:住民の被害について、単なる経済的な積み上げだけでない調査を徹底すること。指定区域外からの避難者も含め、改めて被害の実態を調べ、責任を持って対応すること。
 原発事故の被害は、単にこれまでの住居や生活を奪われるということではなく、被災者の人生、そして地域の人々のつながりや自然とのかかわり、祖先や古くからの伝統とのつながりなど、ふるさとの文化そのものを破壊しました。
 避難した住民は、指示された人も、されなかった人も、事故がなければ自らの責任でそれぞれが希望を持って生活していたはずです。何の理由もなくその生活を奪われた被災者は、いくら賠償金を積まれても満足できません。「謝れ、償え、原発をなくせ」という要求は、こんなことが世界中、どこでも再び起きない確約で初めて癒されるでしょう。
 破壊されたのは、ふるさとの文化であり、金銭に換えられるものはわずかです。国、東電は、そのことに思いを致し、経済的な積み上げでははかれないこうした被害の実態に正面から向き合い、責任を持って対応すべきです。

7:被災者については、指定区域内、指定区域外からの避難であることにとらわれず、今後の生活設計での自主的選択を尊重し、選別、差別なく対応すること。
 既に「差別」の問題を指摘したように、原発事故が引き起こした大きな問題のひとつは、住民の中に、避難した人、残った人の生活上の事情や、区域の線引きによる補償などによって、感情的な齟齬が生まれたことです。政府、東電はこれを利用して責任を回避する姿勢を続けています。事故を受けて、10数万の県民が避難し、190万の人は避難はしませんでした。しかし、どちらの場合も健康不安やコミュニティの破壊、喪失、そして変質、変容に直面し、苦しんでいることに変わりはありません。
 原発被害はいまなお継続、拡大しており、被害は回復していません。しかし例えば、仮に被害回復の方策が見つかり、十分の補償がされたとしたとしても、新しい土地での生活を発展させるか、帰還して生活を再建するかの選択は、被災者個々が自主的に判断するべきであり、国、東電の対応策は、このことを尊重したものでなくてはなりません。
 事故から既に6年、被災者の事情も、周囲の環境も変化しています。この観点に立って、国と東電は、被災者ひとりひとり、個々の事情を丁寧に聞き、対応策を講じるべきです。
 
8:住宅地のほか、農地、山林、動植物の汚染についても、正確な調査をし、必要な対策を講ずること。
 福島県内の「除染」作業は、住宅の周辺、道路、公共施設などを中心に進められ、一定の効果を上げているとみることができます。しかし、指定区域の解除は20ミリシーベルト以下を基準として行われており、放射能汚染は残り、生活条件は整備されていません。その土地で、元の生活を営む条件が整ったとはとても言えません。にもかかわらず、国は「除染」によって安全が回復された、と一方的に「安全」を押しつけ、帰還を強制しています。
 もともと事故によって、放射性物質がどう飛散し、地域がどう汚染されたかについて、継続的なきちんとした調査行われていません。例えば、各地で記録されている線量計のデータにしても、地表や違う高さについてはわかりませんし、一層きめ細かく記録され、継続的に住民に知らされることが必要です。
 「放射性物質は無主物」(なのだから東電として責任を負わなくて良い)などといった詭弁を弄することなく、法的責任の上に立って、徹底的な継続調査を実施し、その上で対策を講ずべきです。
 「里山除染」「フォローアップ除染」などはどうしても必要ですし、新しい技術開発も必要でしょう。除染が届かない農地や山林の汚染、自然界に生息する動物たちの汚染に対応した管理体制も必要です。

9:中間貯蔵施設の設置については、あくまでも住民の意思を尊重し、正確な情報をもとに丁寧な合意形成に努めること。
 現在、福島県内の各所では、フレコンバックに詰め込まれた放射性廃棄物が住居に隣接する農地などいたる所に仮置きされています。一部で中間貯蔵施設の建設が急がれていますが、設置に当たっては、住民の意見に十分耳を傾け、住民同士の合意形成を最大限尊重しながら、進めるべきです。
中間貯蔵施設については、搬入から30年以内に県外で最終処分するとされていますが、その点に住民は極めて大きな不安を持っています。正確な情報をもとにした丁寧な合意形成に努めるべきです。
 また、「安全が回復された」として避難指示解除準備区域及び居住制限区域を解除し、帰還を強制しようとする政策は、廃棄物を現状のままにしては、帰還者に放射性廃棄物とともに生活することを強いるに等しいもので、はなはだしい人権侵害と言わなければなりません。少なくとも中間貯蔵設備の設置が現実化し仮置場が解消するまでは帰還を事実上強制するような政策は採るべきではありません。

10:国と東電は、福島第一原発の事故収束、廃炉作業の方針について、少なくとも100年―200年単位の長期的見通しを持って、冷静に解決策を検討し、住民の理解を得つつ、放射能の飛散がこれ以上ないよう、事故炉を遮蔽、隔離する方策も検討すること。
昨年3月、福島大学で開催した第3回「原発と人権」全国研究・交流集会では、破壊された事故炉の活動をどう収束させ、廃炉にするかについての「中長期ロードマップ」について深刻な疑問が出されました。燃料の取り出しから廃炉作業を経て更地にするという道筋はとても、30−40年で達成できるものではないと指摘され、「環境への放射性物質放出と被曝労働、費用を最小にするには、当面放射能を隔離・管理する作業をし、燃料取り出しは100−200年後に行うべきではないか」という意見も出されました。
 被災住民からすればそのような意見を容易に受け入れられないことは当然ですが、核燃料がメルトダウンし、炉を破壊する事態になっている現在、私たちの世代で「福島原発事故」を解決できないことは明らかです。
 事故を起こした私たちの世代で、この問題が解決できないこと、結局、事故現場の周辺の住民に世代を超えた負担を負わせることになることは、非常に残念なことです。しかし、私たちはこの事実を事実として受け止め、こうした処理の方法も冷静かつ真摯に検討すべきであり、周辺の住民の生活再建についても、事故の収束、廃炉作業の見通しを前提に検討しなくてはなりません。原発をどうしていくか、の議論を深めていくためにも、この方策について、国民的な論議を起こしていくべきだと考えます。

11:自治体は国の施策に追従するのではなく、主体的に住民の要求を組み上げ、住民の立場に立って国と東電に対応策を要求すること。
 今回大きな被害を受けた自治体は、これまで原発を地域開発の重要な施策と位置づけ、国策に沿った形で原発を推進してきました。しかし、その政策が誤りだったことが明らかになったいま、国や東電の無責任な姿勢を住民の立場から糾し、地域と住民の要求を実現するため先頭に立って努力することが求められています。具体的な施策について、自治体は国の施策をこなして住民に伝える姿勢ではなく、住民の要求から出発した施策を国や東電に求める姿勢に転換すべきです。例えば、福島県内の自治体は、全県民の要求である「福島全原発の廃炉と自然エネルギーへの転換」の運動の先頭に立つべきです。
 地震、津波から原発の破壊に至った事故発生のメカニズム、原因も依然、明らかではありません。廃棄物処理、残土処理の長期的見通しもあいまいです。自治体はこれらについて、情報公開を徹底し、国や東電に積極的に働きかけていくことが求められています。

12-1:原発労働の中間搾取などの違法な実態を改め、労働者の健康管理を徹底すること。
 原発労働については、事故直後こそさまざまに語られましたが、その後は忘れられたように放置されてきています。しかし、ますます危険になりかねない労働が、幾重にも積み重ねられた下請け構造の中で、作業費も中間搾取されている状況は変わっていません。
 政府は原発労働者の契約関係と作業実態について、労働法規に基づいて調査し、違法状態を改めるとともに、除染労働者について健康管理を徹底すべきです。これは急務です。

12-2:除染労働についても、同様に作業と健康の管理を徹底すること。
 除染に当たる労働者の契約、作業形態、被曝状況についても、ほとんど明らかにされないまま行われ、健康についても十分管理されていない状況があります。原発労働者と同様に線量計の携帯による対応策、健康管理の徹底が必要です。

13:問題解決のための費用負担について、十分な情報公開の下で、道筋を明確にし、国民合意の中で進める方針を確立し、議論を始めること。
 原発事故の被害については、原子力賠償責任法で措置することが決められ、50億円からスタートしましたが、既に1961年には原子力産業会議は、最大3兆7300億円と計算していました。現在の事故の損害額は21兆5000億円とも25兆円とも言われています。この費用を最終的にどこが負担するか。東電を破産させて国が補償しても、また電気料金に上乗せすることにしても、どちらの場合も、国民が負担しなければならないことは間違いありません。このことを明確にし、国と東電は法的責任を認め、その上で、国民的な議論を起こし、民主的な解決策を示すべきです。
 さらに、国は原発再稼働を推進していますが、新たな原発事故が起きた際の備えをほとんどしていません。たとえ再稼働していなくとも、核燃料がある限り事故の可能性はあり、早急に資金的な賠償の備えを強化すべきです。

U このような提言を行う現状認識と問題意識
1、6年を経過した原発問題の現状
(1)福島第一原発事故の反省と政府・財界の原発推進政策
 3・11東日本大震災の中で起きた東電福島第一原発事故は、いまだ不完全な技術である原子力発電を十分な安全対策や国民の十分なコンセンサスもないまま、強力に推進してきた政府、電力会社、財界、そして自治体からマスメディアにまで、深刻な反省を迫るものでした。「脱原発」が当然のように語られ、全国の原発について厳しい安全策が求められ、再稼働の中止、原発そのものの廃止が求められました。
 ところが、時間の経過とともに、事故の記憶は風化し、新たに設立された原子力規制委員会も技術的チェックだけに限定し、電力会社は再稼働に邁進しました。政府・財界は,「事故を経験した日本は、世界一安全な基準を作った」と宣伝して原発輸出を進めています。
 しかし、福島第一原発の状況、原発事故被災者と被災地の被害実態は、そのような原発推進政策が認められるようなものではありません。

(2)福島第一原発、原子炉の状況
 破壊された原子炉は、燃料棒は塊となって、炉の底を穿って抜け落ち、最近ようやく、2号機の格納容器内、圧力容器下部の金網に溶け落ちた核燃料とみられる堆積物が撮影されました。圧力容器を支える台座の手前約2メートル付近の空間の放射線量は推定で毎時約530シーベルト、最大では650シーベルトと推定され、人間が直接浴びればほぼ即死する線量でした。
 汚染水を防ぐはずの凍土遮蔽壁は十分機能せず、貯蔵された汚染水のタンクは、原発の敷地を埋め尽くしています。結局、事故収束と廃炉作業の見通しは全く立たず、世代を超えて事故原子炉をどう管理するかが課題になっています。
 それだけではありません。昨年11月22日発生した福島県沖地震で、福島第二原発の使用済み核燃料プールの水が溢れ、1時間半にわたって冷却が停止しました。6年前に恐怖を経験した住民は、ガソリンスタンドに列を作り、海岸付近からは急いで避難しました。12月4、5日には、事故を起こした福島第一原発で、人為的ミスが起き、核燃料プールの冷却と原子炉注水が停止しました。これらは、福島原発が、いまなお、より大きな原子力災害の危険を招きかねないことを明らかにしています。
 そして、こうした福島原発の状況が避難者の帰還、地域の復興の大きな障害となっています。

(3)福島第一原発事故による多様かつ深刻な被害と問題
 この原発事故により、地域の自然は破壊され汚染され、人々は引き裂かれ、生業を奪われた状況が続き、避難した被災者も新たな土地での生活再建を余儀なくされ、何の責任もない子どもたちまで疎んじられる状況が続いています。最近、被災者の子どもに対する「いじめ」が報道されました。しかし、これは単なる子ども同士の「いじめ」ではなく、被災者への「差別」です。福島県民に対する分断差別が進む中で、「なぜ帰らないのか。わがままだ」とか「多額の賠償金をもらっている」というとんでもない歪んだ見方や誤った理解が、子どもを初めとして被災者への攻撃を生んでいます。
 また、「除染」などによる県内の放射能廃棄物は、約1000カ所の仮置き場と、14万カ所に上る現場保管場所に置かれています。双葉町と大熊町に造られる「中間貯蔵施設」も、「30年間保管」の先の見通しはなく、事実上永久貯蔵施設となるとささやかれています。

(4)問題解決の道筋は、政府と東電の不法行為責任を明確にすることから
 これら、すべての被害と問題は、「安全で安価な夢のエネルギー」という幻想をふりまき、様々に指摘されてきた危険を無視し、原発を進めてきた結果です。
 にもかかわらず政府は、首相が「放射能は完全にコントロールされている」とのウソで誘致した2020年の「東京五輪」を目標に、すべての補償を打ち切り、住民には無理やり帰還を押し付け、いかにも事故は「解決」したかのように見せかけようとしています。
 問題解決への道筋は、政府と東電が、その責任を全面的に認めることから始まります。私たちは改めて、すべての問題について、その責任を確認し、住民の立場に立った対応策を求めます。
 
2、国・東電の政策と問題点:
(1)国の事故原因の究明の放擲、法的責任回避、「帰還」強制、補償打ち切り政策
 これまで、国と東電は事故の原因の究明を放擲し、国は「事故は想定外」「規制権限がない」などと言い、東電は「放射性物質は無主物」などと言って、不法行為責任を認めようとせず、あたかも原発事故が天災であったかのように振るまっています。また、「原発対策」「復興計画」では、「何とか故郷を取り戻したい」という住民の思いに乗じて、被災地の実態(放射線、インフラ等)や被災者の実態を十分考慮することなく「帰還」を奨励、強制し、補償の打ち切りを進めてきています。

(2)「帰還」強制の実情
 現実に、「避難指示区域」の解除は、2012年3月に広野町全域が解除されたのを手始めに、田村市都路地区東部が14年4月、川内村東部は2014年10月、楢葉町全域は2015年9月、葛尾村は2016年6月、川内村の残された区域を16年6月、南相馬市小高区は16年7月に解除され、対象人員は2万6000人に及んでいます。
 ところが、ここで問題なのは、この解除と併せ、緊急時避難準備区域や特定避難勧奨地点居住者への精神的損害賠償金や就労不能損害賠償金が順次打ち切られていることです。この3月末日と4月1日に、飯舘村、浪江町、富岡町の帰還困難区域を除く全域と、川俣町山木屋地区の、住民3万2000人について指定が解除されることが予定され、補償が打ち切られようとしています。
 この一方的補償打ち切りを伴う指定解除は、事実上の帰還の強制となり、避難先での生活や住宅を一方的に奪うことになっています。帰還可能とされた住民も、既に15年9月指定解除された楢葉町で、昨年末現在10.5%、昨年6月指定解除された葛尾村では8%しか住民は帰還していません。帰還が実施された5市町村の帰還率は、全体で13.1%でしかありません。
 「帰還」については、特に、若者、青少年の帰還率が低いことが直視されるべきです。放射線への懸念のほか、近所に日用品店がなく日常生活が困難であったり、職場もなく仕事の再開ができない状況があります。住民は実際には帰還できなかったり、帰還したが見通しが立たなかったり、途方に暮れる状況があり、中には自死する悲劇も起きています。
 また、避難指示区域外から避難している「自主避難者」についても、仮設住宅の入居、住宅の無償供与を3月で打ち切り、福島県内だけでも推計約1万世帯の被災者の切り捨てが計画されています。家を失うことは、生活をできなくすると言うことで、まさに生存権の剥奪です。

(3)被災者の懸念を無視した政府の帰還強制政策の誤り
 政府の基本指針では「将来的に帰還困難区域の全てを避難指示解除し、復興、再生に責任を持って取り組む」とされ、2021年を目途に「復興拠点」について避難指示を解除し、居住を可能とすることを目指す計画です。
 放射能被曝について、政府、東電は20ミリシーベルト以下になった地域を帰還可能としていますが、ICRP(国際放射線防護委員会)は一般人の被曝線量基準について非常事態の場合の緊急被曝状況での線量を年間20〜100ミリシーベルトの範囲で定め、復旧時には1〜20ミリシーベルトの範囲で定めると勧告しているだけで、平常時では「年間1ミリシーベルト」を被曝線量限度としているのですから、住民が懸念を持つのも当然です。
 この状況を考えると、現在、政府が主導する住民の帰還政策は明らかに誤りです。この際、政府、東電が全ての責任を認め、自らの責任で住民の生活を保障することを再確認することから出発しなければ、何の解決も得られないことといわなければなりません。
 また、帰還困難区域での特定復興拠点の整備や、放射性廃棄物の中間貯蔵施設の建設などの施策が「住民不在」の決定となっており、きめ細かい姿勢が求められています。

(4)政府・東電の不法行為責任を認め、事実を基にしたロードマップを
 政府、自治体は、復興のための政策を進める努力をしているのだと思われますが、その「努力」も、事故の原因や責任の所在を確認し、事故が私たちの世代だけでは到底解決しえない世代を超えた影響を持つものであることを自覚し、それを正面から見据えて、今後、世代を超えた復興へのイメージをもつものでなければ十分なものにはなりません。
 そもそも、現在の人間の力で制御できない原子力発電をその廃棄物の処理についての見通しもないまま「安全」「安上がり」の幻想を振りまき、住民の目と耳をふさぎ、権力的に建設し、稼働を続けてきた責任は、電力会社と政府にあります。いま、現実に起きているさまざまな問題を正しい方向で解決するためには、こうした政府と電力会社の責任を認め、あくまで事実を基にしたロードマップの作成することが必要です。どんな深刻な事態であっても、みんなが知り議論することで、正しい解決策は必ず見つけられます。

(5)事故原因の解明、対応策の確立と「県内全原発廃炉」は福島復興の基礎
 そもそも福島原発事故に関しては、事故原因も、原子炉破壊の経過も解明されていませんし、それへの対応策も未完成です。にもかかわらず、政府は、地域の安全対策などにはお構いなし、地元自治体の反対勝手もそれを押し切って、次々と原発を再稼働しています。こうした動きに対して福島県議会はこれまで4度にわたって全会一致で、「県内の全原発の廃炉」を決議しています。しかし、東電はこれに応じようとしていません。
 福島第二原発の存在、そして1、(2)に述べた福島第一原発の状況は、被災者の帰還を困難にしている大きな要因の一つであり、福島復興の阻害要因となっています。

(6)国と東電は不法行為責任を認め、憲法の精神に沿った施策を
 日本国憲法13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限の尊重を必要とする。」と規定し、25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 A 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」としています。
 述べてきたような福島原発の状況、被災者の状況を直視し、これに対する政府と東電の対応策をみたときに、私たちは、国と東電が責任を果たし、上記の憲法の精神に沿って、これまでの政策を T にのべた方向に転換し、施策を講じるよう求めるものです。

V・おわりに 
(1) 国も東電も「不法行為責任」を認めていません。起きてしまった原発事故は、これまで外国で起きた、スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故を超える大きな規模と影響を持ったものです。しかし、東電は企業の「社会的責任」さえ放棄し、加害者側であるという自覚を欠いて利潤追求に走っています。

(2)事故当時、さまざまに語られた通り、原発は「未来のエネルギー」と強調する「安全神話」の中で、政・財・官・学・報の原子力ペンタゴンによって推進され、国民はその流れを押しとどめることができませんでした。このことを考えると、いま被災地域をふるさととする人々が、世代を超えて、希望をもって生き生きと生活していくための具体的な手立てを総合的に作り、支援していくことは国民みんなの課題です。
 この事故は、数十年という私たちの世代で解決できるものではありません。世界の文明の歴史に刻まれる世代を超えた事故であり、私たちの生活、将来だけでなく、何代かの子孫にまでわたって、対応しなければならない問題です。
 被災者には避難した人も現地に残っていた人も、年寄りも若者も、そしてこれから生まれてくる子どもたちにも、個人の尊厳と健康で文化的な生活を享受する権利があります。国にはそれを増進していく義務があります。被災住民の「謝れ、償え、なくせ放射能汚染・原発」の叫びは、切実なものです。

(3)6年の間に、変化した事実も変化しなかった事実もあります。あのとき生まれた赤ちゃんは、間もなく小学校に上がります。小学校の卒業式ができなかった子供たちは、大学受験に直面しています。誰もに、それぞれの土地で培われた生活があります。それらをすべて、理解しあって進むことが求められています。
 どんなに厳しいものであっても事実を事実として見つめ、情報を共有し、要求を出し合って前に進む努力をしましょう。私たちは併せてそのことを呼びかけます。                                   
(了)
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