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沖縄の基地被害・差別を根絶するため沖縄県民と連帯する決議 |
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1 米軍基地はいらないとの沖縄県民の総意
沖縄県の米軍基地問題は、沖縄県が日本に復帰して40年以上経った現在において、解決に至るどころか、ますます矛盾を深めている。
辺野古新基地建設をめぐって、沖縄県民の意思は一貫している。2014年1月の名護市長選挙では辺野古新基地建設への反対を明確に訴えた稲嶺進氏が当選し、同年11月の沖縄県知事選挙でも新基地建設に反対する翁長雄志氏が当選した。また、2016年7月の参議院選挙の沖縄選挙区ではやはり辺野古新基地建設に反対する伊波洋一氏が自民党現職の島尻安伊子氏に大差をつけて勝利を果たしている。また、この間の世論調査においてもなお、新基地建設に関して圧倒的多数が反対の意思を示している。
2 辺野古基地訴訟をめぐる不当判決と沖縄のたたかい
こうした沖縄県民の思いを背景にして、2015年10月13日に、翁長知事は辺野古に関して「公有水面埋立申請」承認取消し処分を行った。これを受け、国は埋立承認取消処分を撤回する代執行に向けた訴訟をいったんは提起した。しかし、翁長県政およびそれを支える沖縄県民の声を無視できず、沖縄県と解決に向けた協議を続ける旨の和解を締結し、取消訴訟を取り下げ、結果、これまで強行してきた建設工事を一旦中断せざるを得なくなった(2016年3月4日)。
それでも、国は、その後の沖縄県との協議においても、辺野古新基地建設ありきの姿勢を崩さず、沖縄県民の声に寄り添うことはなかった。そして、日本政府は、同年7月22日、埋立承認取消し処分に対する是正指示に従わない沖縄県を被告として、違法確認訴訟を提起するという許し難い挙に出た。
福岡高等裁判所那覇支部(多見谷寿郎裁判長)は、同年9月16日、国土交通大臣が行った是正の指示に翁長知事が従わないことは違法であると判断し、国の訴えを認める不当判決を下した。
判決は、翁長知事の職権取消に関する違法性を判断するに際して、明らかに根拠に乏しい日米の信頼関係や海兵隊のグアム移転費用の凍結解除を当然のように事実と認定した。また、事業経費等の支出についてそれが法的保護に値するか否かの検討をせず、自らが正しいと考える事情を据え、「辺野古が唯一の解決策」との裁判所の権限を逸脱した判断を示した。
また、判決は、辺野古新基地の建設が「自治権の制限」を伴うことを認めながら、本件の「自治権の制限は、日米安全保障条約及び日米地位協定に基づくものであり、憲法41条に違反するとはいえ」ないとして日米安保条約が無制限に地方自治に優先するとした。さらに、判決は「全ての知事が埋立承認を拒否した場合、国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とは言えない判断が覆されてしまい、国の本来的事務について地方公共団体の判断が国の判断に優越することにもなりかねない」などとして地方自治体の意向を全く無視する判断を示した。これらの判示は憲法による地方自治の保障(92条)を踏みにじるものである。
これは辺野古新基地建設に留まらない日本の地方自治全体に関わる異常な判断であって、辺野古新基地建設NOの意思を沖縄県民が繰り返し表明している本件においては、その異常性が際立っている。
翁長知事は、最高裁判所に上告及び上告受理の申立てを行い、不当な高裁判決の破棄を求めるとともに、憲法で認められた地方自治が本来の役割を果たすことが出来るよう、力の限りを尽くして訴えていくことを表明した。青年法律家協会弁護士学者合同部会は、辺野古新基地建設に対する沖縄県民の闘いを全面的に支持する。最高裁は、憲法で保障された地方自治の本旨に即した正当な判断をすべきである。
3 高江ヘリパッド建設をめぐる市民への弾圧と差別
沖縄県においては、辺野古新基地建設と並行して、東村高江におけるアメリカ海兵隊のヘリパッド建設の強行が問題となっている。すでに沖縄防衛局は、6つのヘリパッド計画のうち、N-4地区の2か所のヘリパッドを完成させ、2015年2月に米軍に先行提供していたが、2016年7月に実施された参議院選挙の沖縄選挙区において、政府与党推薦の候補者が破れ、新基地建設に反対する野党統一候補が圧勝したことを受け、残る4か所のヘリパッドの建設を強行し始めた。
住民と支援者らは座り込みなどで抗議の意思を示していたところ、沖縄防衛局は道路の通行を根拠なく制限し、また、非暴力の住民・支援者らに対して暴行をふるうなどの違法な暴力行為等を行っている。これらの一連の行為に対して、当部会は2016年9月3日付け常任委員会決議で強く抗議を行っている。沖縄県民、とりわけ高江地区の住民の生命、身体および安全・平穏な生活環境を守るため、政府は、米軍北部訓練場ヘリパッドの建設強行、オスプレイ飛行訓練、そして法的手続きを一切無視した一連の強行排除を直ちに止め、住民に謝罪するとともに、ヘリパッド建設を直ちに中止すべきである。
4 戦中・戦後を通じて「差別」の続く沖縄
沖縄県では、現在、以上のとおり、辺野古新基地建設と高江ヘリパッド建設の強行という県民意思無視の暴挙が強行されている。かつて沖縄は太平洋戦争で、住民を巻き込んだ唯一の地上戦が行われた地であり、本土防衛のための「捨て石」として約15万人が犠牲となった。戦後には米軍が「銃剣とブルドーザー」等によって土地を接収し、米軍基地を拡大してきた。1972年の本土復帰後も米軍基地が存続され、国土の0.6%しかない沖縄県に、今も在日米軍の約74%が集約されている。また、沖縄県の基地被害はすさまじく、強姦や殺人等の凶悪犯罪を含む米軍関係者の犯罪、戦闘機やヘリコプター等の事故被害、騒音被害・環境被害などが発生している。しかも、米軍関係者の犯罪や事故等が発生しても、日米地位協定等によって、日本は不十分な捜査しかできない。沖縄は、米軍基地を押し付けられ続け、基地問題において差別されてきたのである。
2016年10月18日、高江周辺の米軍北部訓練場のヘリパッド建設現場において、県外から派遣された機動隊員が、抗議する沖縄県民に対し「どこつかんどんじゃ、ぼけ。土人が」と発言し、さらに、別の隊員が「黙れ、こら、シナ人」と発言していたことが発覚した。沖縄県警は同月19日、発言を事実と認め「差別用語としてとられかねない不適切な言葉だ」との見解を示し謝罪したが、「土人」という言葉は、「未開・非文明」といった意味の侮蔑的な明らかな差別用語であり、「シナ」とは戦前の中国に対する侵略に結びついて使われてきた蔑称である。このような差別発言が連続しているということは、そのような見解が機動隊内における共通認識なのかと疑わざるを得ない。むしろ、基地負担を沖縄県民に押し付けてきた権力側の差別意識が末端から表出したものとも捉えられる。
加えて、鶴保庸介沖縄担当相は11月8日の参院内閣委員会で「差別であると断じることは到底できない」と答弁した。これは沖縄県民の感情を逆撫でする発言であって、容認することはできない。鶴保大臣は同発言を速やかに撤回し沖縄県民に対する謝罪をすべきである。
5 被害と差別のない沖縄を求めて
当部会は、本日、沖縄県那覇市において、辺野古基地建設や高江ヘリパッド建設など沖縄米軍基地の問題やこれまでの差別や抑圧の歴史について報告・討議した。憲法を擁護し平和と民主主義および基本的人権を守ることを目的に設立され活動を続けてきた当部会は、沖縄が受けてきた基地被害・差別に思いを寄せ、それら被害と差別を根絶するために沖縄県民と連帯し行動することをここに決議する。 |
2016年12月 3日 |
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 3 回 常 任 委 員 会 |
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