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南スーダンに派遣されている自衛隊の即時撤退を求める声明
 日本政府は、2011年12月、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づく「国際平和協力業務」に従事させるため、南スーダンに展開している「国連南スーダン派遣団」(United Nations Mission in the Republic of South Sudan、略称「UNMISS)」)へ陸上自衛隊施設部隊約350名を派遣した。その後も隊員の入れ替えを行いつつ、現在、第10次派遣隊約350名が南スーダンの首都ジュバにて、道路・駐車場整備や側溝の設置、清掃活動などに従事している。

 ところが、南スーダンは、2013年12月以来、大統領派と副大統領派の武力衝突が起こり、住民を巻き込んで激しい内戦状態に陥っている。政府軍と反政府軍双方によって数千人が殺害され、240万人が家を追われ、虐殺、レイプ、拷問などの残虐行為が行われ、多数の子どもが少年兵としてたたかうことを強制されている。約18万人を超える民間人が南スーダン各地にある国連施設に逃げ込み、外に出ることができない状態にある。

  2015年8月20日に発表された国連報告書――「南スーダンに関する専門家委員会の暫定報告書」では「政府軍と関連武装グループによる2015年4〜7月のユニティ州攻撃」として次のような事実を告発している。

  「恐るべき人権侵害。本委員会は、政府軍がいわゆる『焦土作戦』をユニティ州全域で実行したことを知った。政府の同盟軍は、村々を破壊し続けた。人が中にいる家屋に火をつけ、家畜その他の金品を略奪し、学校や病院など主要なインフラを襲撃し破壊した。さらに、彼らは民間人を無差別に殺害し、殴打し、拷問にかけた。…子どもたちは特に被害を受けた。…多くの子どもが殺され、7歳の子どもたちを含めレイプされ、拉致あるいは(少年兵として)州内での 戦闘を強制された。…本委員会は、少女たちがしばしば両親や地域の人々の前でレイプされ、その後、生きたまま家ごと焼かれた、との証言を聞いた」

  2016年2月17日夜から18日朝にかけて、南スーダンの北東部マラカルにある国連平和維持軍(PKF)の設置した「文民保護キャンプ」で異なる民族の間に衝突が起き、これに政府軍が介入し、キャンプの住民に多数の死傷者が出た。このキャンプで病院を運営する「国境なき医師団」は、少なくとも18人の住民が死亡し、36人の負傷者が出たと発表した。

  さらに、ジュバで2016年7月10日に勃発した大統領派と副大統領派の戦闘により現地の治安情勢は急速に悪化した。日本もジュバに駐在する邦人約70人のうち、大使館員4人とJICA関係者47人がすでに退避した。

  こうした中、UNMISSは同月14日、派遣団や国連関連機関の一部要員の国外退避を決めた。ただ、住民保護施設の運営などの重要な作戦は継続するとしている。また、ドイツ空軍機は同月13日、ジュバのドイツ人、オランダ人など民間人約200人の避難を完了し、ドイツ大使館員も全員退避させ一時閉館の措置をとった。オランダの大使館も最小限の人数を残して職員を帰国させた。さらに、ジュバにある世界食糧計画(WFP)の最大の倉庫は略奪にあい、避難民22万人の1か月分の食料と栄養食品が奪われた。「スーダン・ トリビューン」紙は、略奪が政府軍によるものだと報道した。現在WFP職員は現場を訪れることができておらず、UNMISSの軍事要員に現場の確認を依頼、大規模な略奪を確認した。

  相次ぐ戦闘によりすでに300人以上の死者が出たとされ、中国人のPKO隊員2名も死亡している。戦闘は陸上自衛隊の宿営地近くでも起こっているという。

 こうした切迫した情勢にあっても、陸上自衛隊約350名は宿営地が置かれている国連施設にとどまったままである。

  そもそも、自衛隊がPKO活動に参加するためには、@紛争当事者間の停戦合意、A日本の参加に対する紛争当事者の受け入れ合意、B中立的立場の厳守、C@ないしBが遵守されない場合の撤収、D武器使用は生命の防護のための必要最小限に限るという5原則が満たされなければならない(PKO協力法3条1号、6条1項1号、同条13項1号、8条1項6号、25条など)。

  ところが、前述のとおり、いまや南スーダンは政府軍と反政府軍との間で内戦状態に陥ったというべきであり、停戦合意や受け入れ国の合意などPKO5原則は遵守されているとは言えない。すみやかな撤退こそが求められる。

 2015年9月に強行「採決」された戦争法(安全保障関連法)では、自衛隊のPKO活動に際して、離れた場所で襲われた他国部隊や民間人の救援に向かう「駆け付け警護」や実質的な治安維持活動である「安全確保」が新たな任務として可能となった(改定PKO協力法3条5号ト及びラ)。新任務は現在の派遣部隊には見送られたが、日本政府は2016年11月に派遣する第11次派遣隊からこれら新任務を付与するとしている。同年2月に発生した「文民保護キャンプ」での銃撃戦のような事態が発生すれば、自衛隊員が「駆け付け警護」や「安全確保」業務を行うことで、戦闘に巻き込まれる可能性は高まる。

  また、自衛隊員の武器使用権限についても、改定PKO協力法の成立により、これまでの自己(自己の管理下に入った者を含む)や武器等を防護するためにのみ使用することが認められた「自己保存型」から、救助や治安維持を口実とした「任務遂行型」へ大幅に拡大されている(同法26条1項、2項)。また、宿営地を他国軍と共同で警護する任務も付与することが可能となった(同法25条7項)。住民グループが入り混じった騒乱のなかでは、事件とは無関係の住民を誤射する危険もあるし、自衛隊自身が南スーダン軍と交戦することにもなりかねない。これはまさしく憲法9条が禁じる「武力の行使」に該当する。

 青年法律家協会弁護士学者合同部会は、憲法の平和主義を守る立場から、これまで2011年12月に「日本政府に対し南スーダンへの自衛隊施設部隊の派遣決定の撤回を求める決議」、2013年12月に「憲法9条及び武器輸出三原則を無視し、南スーダンでPKOにあたる軍隊に銃弾1万発の武器提供をしたことに強く抗議する議長声明」を発表し、そもそも海外における武力行使につながる自衛隊の海外派兵自体憲法 9 条 1 項に違反すると指摘しつつ、PKO5原則が崩れた状況下での自衛隊の南スーダンからの即時撤退を求めてきた。

  現在、南スーダンの治安は劇的に悪化し内乱状態に陥っていることからすると、すでにPKO5原則は遵守されておらず、従来のPKO協力法に照らしても自衛隊の派遣は違法である。その中で、さらに日本政府は「駆け付け警護」など戦争法で追加された新任務を初適用した自衛隊の部隊を現地に派遣しようとしている。かかる自衛隊派遣は、憲法の禁じる「武力の行使」にほかならず、違憲性・違法性は甚大である。自衛隊員のかけがえのない命を危険にさらしてまで、戦争法発動第一号の実績作りを求める日本政府の姿勢を到底見過ごすことはできない。

  当部会は、日本政府に対し、南スーダンがすでに内戦状態に陥っていることを認め、現地に派遣されている自衛隊を即時撤退させるとともに、憲法違反の「駆け付け警護」「安全確保業務」などの新任務を付与した自衛隊の部隊を新たに派遣することのないよう強く求める。
2016年8月12日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
 議 長  原   和 良
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