律家会弁護士学者合同部会
Japan Young Lawyers Association Attorneys and Academics Section
〒160-0004 東京都新宿区四谷2-2-5小谷田ビル5階
TEL 03-5366-1131 FAX 03-5366-1141
お問い合わせ  リンク 
MENU
トップページ

青年法律家協会とは
    □弁護士学者合同部会

    □入会申込書

弁学合同部会の活動
    □決議/声明/意見書

    □委員会の活動

    □人権研究交流集会

イベント・学習会
のお知らせ
□イベントカレンダー

修習生のみなさんへ
□事務所説明会のお知らせ

法律家をめざす
みなさんへ

出版物のご案内

□機関紙「青年法律家」

リンク

原発事故避難者の応急仮設住宅の打ち切りと
避難指示解除等の撤回を求める決議
 福島県は、2015年6月、福島第一原発事故(以下、「原発事故」という)の避難指示区域以外の地域からの避難者に対して、2017年3月末をもって、災害救助法に基づく無償の応急仮設住宅(みなし仮設住宅を含む)の提供を打ち切る方針を発表した。これを受け、政府はこれと呼応するように、2015年8月、原発事故子ども・被災者支援法の基本方針を改定し、福島県の上記方針を上塗りした。

 また、政府は、2015年6月、福島復興指針を改訂し、避難指示解除準備区域・居住制限区域について、遅くとも2017年3月までに避難指示を解除する方針を示した。しかし、放射線量の水準が異なる広範な地域を一括して解除してしまう措置は、不合理かつ不当なものと言わざるを得ない。しかし政府は、この方針に従って、避難指示の解除を次々と進めている。

  これに伴って避難指示を解除された地域では、東京電力が任意に支払っている精神的損害賠償の支払いを2018年3月をもって停止するものとみられている。解除後は、ほどなく、応急仮設住宅の提供も打ち切りになる可能性が高い。

 こうした行政の対応は、原発事故を「過去の問題」にしようと急ぐものである。

  しかし、原発事故は、まだ収束から程遠い。福島第一原発では、炉心溶融によって溶けた放射性物質の塊である危険なデブリの回収も2021年以降に先送りされ、その位置も形状も特定されていない。汚染水問題も深刻になっているが、いまだに解決の目途が立っていない。

  避難区域外でも、放射性物質による汚染のレベルが高い箇所が残っており、自然放射線量を大きく超える被ばくを避けられない。住民の多くが望む再除染に、行政は消極的である。山林の除染はごく一部を除いて行われない。除染によって生じる放射性廃棄物の処理も遅れており、仮置場などの保管期限(3年)の約束は守られそうにない。

  既に避難指示が解除された地域では、まだまだ空間線量率が高いことに加え、地域の社会的環境は十分に整っていないことから、解除は時期尚早であるという懸念の声が根強く、応急仮設住宅などに残る避難者が多い。

  こうした状況から、いまも、福島県からの避難者だけで9万人余り(復興庁発表)を数え、そのほとんどが応急仮設住宅で厳しい避難生活を送っている。

 低線量被ばくでもガン死のリスクには閾値がないというのが、国際的常識である。

  放射線に対する感受性の高い子どもをはじめとする家族や自分の健康を守るために無用の被ばくを避けること、そのために原発事故の汚染地域から避難することに対しては、平穏生活権及び身体・生命を守る権利、健康に対する権利を保障する観点、そして、原発事故を引き起こした国の法的責任に鑑み、政策上十分な支援が当然になされなければならない。

  福島県全域を含む原発事故の広範な被害地域は、当分の間、「多数の者が生命又は身体に危害を受け…るおそれが生じた場合」であって「災害が発生し、又は発生するおそれのある地域に所在する多数の者が、避難して継続的に救助を必要とする」場合に該当することは明らかであり、応急仮設住宅の提供を続けるための災害救助法の適用要件(災害救助法施行令1条1項4号)も失われない。

  ところが、政府は、20ミリシーベルト以下の低線量の放射線は安全であるかのような誤った宣伝を行い、避難の必要性を認める範囲を狭めようとしている。

  政府や福島県の方針は、避難指示の一括解除によって帰還を強要し、他方でそれ以外の区域の避難者には移住を強要することによって、もはや「避難者」は存在しないという政策を強行しようとするものである。そのようにして、多くの避難者を住宅支援や賠償の対象から外すことで、その意思に反して帰還させ、帰還しない者には重い経済的負担を背負わせる。これは、棄民政策と呼ぶべきものであって、原発事故の被害住民の権利・利益を踏みにじるものであり、到底許されない。

 多くの避難者は、5年以上にわたる避難生活に疲弊しているうえ、避難に伴う生活費の増加にも苦しんでいる。しかも、避難指示区域以外からの避難者は、わずかな賠償金しか受け取っていないため、経済的にも精神的にも非常に苦しい避難生活が続いている。子どもを被ばくから守ろうと、生計維持者を避難元などにとどめ、母子のみが避難する世帯が多いが、こうした世帯では有形・無形の被害が特に深刻である。

  こうした中での応急仮設住宅や賠償の打ち切りは、苦境に立つ避難者の命綱を断つに等しい。

 福島県は、避難区域以外からの避難者に対して、2017年4月以降、公営住宅への転居や民間賃貸住宅の家賃補助等を行うという。しかし、家賃補助をみても、その補助額は僅少である上、期間はわずか2年間で、適用されるための収入要件も厳しく、応急仮設住宅に代わる支援策とは到底いえない。

 政府と福島県が進める応急仮設住宅の打ち切りと避難指示の解除は、「復興」の名のもとに、正当に償われるべき避難者を切り捨てる棄民政策であって、原発事故を引き起こした行政の加害責任を無視した暴挙というほかない。よって、

 (1)政府及び福島県は、避難指示区域以外から避難している避難者について、2017年3月末に災害救助法に基づく応急仮設住宅の提供を打ち切るとの方針を撤回し、引き続き災害救助法の適用を継続するとともに、全ての原発事故避難者に対して、長期・無償の住宅の提供を確約し、これを実行すること

 (2)避難者受け入れ自治体などの行政機関は、強制執行・仮処分その他の強制的な手段によって、避難者を応急仮設住宅から立ち退かせないこと

 (3)政府は、遅くとも2017年3月末までに避難指示解除準備区域と居住制限区域の避難指示を解除するとの方針を撤回し、放射性物質の汚染が十分に安全な水準にまで低減され、かつ、地域の社会的環境が生活を可能とする水準にまで回復しないかぎり、早急な避難指示解除を行わないこと

 (4)政府、原子力損害賠償紛争審査会及び東京電力は、避難指示の解除がなされた地域からの避難者に対して、2018年4月以降も、精神的損害賠償の支払いを打ち切らないよう政策、指針ないし賠償方針を変更すること

 を求める。
2016年6月26日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 4 7 回 定 時 総 会 
 ページトップへ    前ページへ戻る

トップページ 青法協とは 弁学合同部会の活動 イベント・学習会 修習生のみなさんへ 法律家をめざすみなさんへ 出版物
(c)2012,Japan Young Lawyers Association Attorneys and Academics Section. All rights reserved.
掲載中の文章・写真およびデータ類の無断使用を一切禁じます。