律家会弁護士学者合同部会
Japan Young Lawyers Association Attorneys and Academics Section
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刑事訴訟法・盗聴法の改悪に強く抗議する共同声明
2016年5月30日
社会文化法律センター 代表理事 宮 里 邦 雄
自 由 法 曹 団 団  長 荒 井 新 二
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議  長 原   和 良
日本国際法律家協会 会  長 大 熊 政 一
日本民主法律家協会 理 事 長 森   英 樹
盗聴・密告・冤罪NO!実行委員会
盗聴法廃止ネットワーク
盗聴法の拡大と司法取引の導入に反対する刑事法研究者の会
 2016年5月24日、冤罪被害者、弁護士、学者、ジャーナリスト、多数の市民の大きな反対の声に背を向け、衆議院本会議で、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が可決成立した。本法案の廃案を求めて闘ってきた私たち法律家及び市民の8団体は、本法案の成立に満腔の怒りをもって強く抗議する。

 そもそも本法案は、2009年の厚労省事件での検察官による無罪証拠の改竄という重大な不祥事に端を発し、足利事件、布川事件、東電OL事件、志布志事件などの冤罪事件が相次いで明らかになる中、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の審議を経た答申に基づき法案化されたものであり、本来は、冤罪を生まない刑事司法改革の法案でなければならなかった。ところが、本法案は、冤罪防止を骨抜きにし、むしろ新たな冤罪を生み出す制度を導入し、捜査権限の拡大強化と国民監視体制の確立を図る、刑事司法の大改悪・治安立法に他ならない。

 このことは、本法案に、冤罪防止とは何ら関係のない盗聴法(通信傍受法)の大幅拡大が盛り込まれたことに象徴的に表れている。1999年、国民の強い反対を押し切って成立した盗聴法は、通信の秘密やプライバシー権の侵害及び令状主義違反の点で違憲の疑いを免れないものであるが、本法案は、対象犯罪を窃盗、詐欺などの一般犯罪にまで大幅に拡大し、通信事業者の立会も廃し、警察署内の機器に対象通信を全て記録して警察官が自由に電話、ファックス、メール、SNSなどの通信を傍受することを許すものであり、警察による人権侵害と国民監視を著しく強める治安立法である。

 また、本法案で新たに導入された司法取引(証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度)は、きわめて広範囲の「特定犯罪」の被疑者が、他人の「特定犯罪」を供述すれば自らの訴追を免れたり刑の減免を受けたりすることを検察官と合意できる制度であり、他人を冤罪に引き込む危険を必然的に孕む。司法取引制度を持つ諸外国では、制度の見直しが議論されており、何のための立法か見識を疑う。本法案では証人などの氏名・住所を弁護人にまで秘匿できる措置も導入され、これと司法取引が結びつくと、被告人は司法取引をした証人などの素性も知り得ないまま防御活動を強いられる。適正手続に対する重大な侵害と言わざるを得ない。

 本法案では、取調べの録音録画制度も導入され、「取調べ可視化法案」、「全過程可視化」などと、自白強要による冤罪防止に資するかのように宣伝された。しかし、本法案では、対象事件が全公判事件の僅か約3%の裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件に限られた上、「記録をすると被疑者が十分に供述できないと認めるとき」などの大幅な例外が設けられ、捜査機関による恣意的運用を許しており、かえって冤罪を助長する危険がある。

 2016年4月8日宇都宮地裁で有罪判決があった今市事件はこの危険を露呈した。暴力を振るわれ、「殺してゴメンナサイと50回言わされた」などの自白強要場面は録画されず、屈服して自白する場面の録画が公判廷で再生され、映像の強烈なインパクトによって自白の任意性が容易に導かれただけでなく、実質証拠としても機能して有罪判決を導いた。自白調書偏重を強めた上、公判中心主義の形骸化という深刻な事態が現出したのである。

 そればかりか、今市事件を巡る参議院法務委員会の審議で、法務省刑事局長は、本法案の解釈として、別件起訴後勾留中の本件取調べに録画義務はないとの重大な答弁を行った。これでは、起訴後も警察の留置場に身体拘束されることが常態のわが国において、何か月間にもわたって録画なしに自白を迫り、自白したら本件で逮捕し、自白場面を録画するとの運用が可能となる。まさに冤罪の温床である。
今市事件判決の直後の4月19日、布川事件の冤罪被害者桜井昌司氏は、参議院法務委員会で参考人として、「昨年と私たちの危機感は全く違う」、「どれだけ多くの仲間が冤罪に苦しんだら、立法府は冤罪を防ぐ法律を作って下さるのでしょうか」と涙ながらに訴えた。冤罪被害者のこの言葉こそ、本法案の本質を突くものである。

 私たちは、2015年3月13日の本法案上程以来、国会の内外で多数の集会を開き、国会請願デモを行い、多くの声明、意見書、論文、記事、パンフレット等々を発表して、本法案の危険性を訴えてきた。多くの市民のみならず党派を超えた国会議員も私たちの訴えを理解し、2015年の245日間にもわたる長期国会においても法案の成立は阻まれた。2016年5月19日、ついに数の力で参議院法務委員会で可決されたが、与党議員の賛成討論は「新たな冤罪を生む懸念」など、私たちが指摘した本法案の問題点を逐一列挙し、あたかも反対討論のようであった。本法案がどれほど強い反対の声の中で成立したかを象徴する一コマであった。

 このような中で、日本弁護士連合会執行部が、「取調べ可視化」の法制化に固執し、一貫して法案推進の立場をとったことは誠に残念であった。とりわけ、起訴後勾留中の録画義務につき、政府解釈を誤りであるとしながら、その点の法案修正を求めよという日弁連内部からの提案すら顧みなかったことは、到底理解できるものではない。日弁連の猛省を促したい。しかし、24の単位弁護士会が法制審答申や法案に反対する意見を表明するなど、多数の弁護士が本法案の成立を阻止するために闘ったことは、私たちの希望である。私たちは、日弁連が、今からでも、こうした多くの批判に真摯に向き合い、本法による人権侵害と闘うとともに、冤罪被害者や市民と手を携えて、冤罪を生まない真の刑事司法改革を進める道に立ち返ることを心から願う。

 私たちは、立場の違いを超え、冤罪の根絶と真の刑事司法改革を願い、国民監視と治安強化を阻むため、思いを一つにして連帯し、共同の運動を作り上げてきた。私たちは、これからも、この共同を大切にし、さらに連帯の輪をひろげ、刑事訴訟法等改悪反対運動を継続し、真の刑事司法改革へと発展させることを誓う。
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