律家会弁護士学者合同部会
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盗聴法(通信傍受法)の大幅拡大および刑事訴訟法の改悪に反対し、
刑事訴訟法等改正案の廃案を求める法律家団体の共同声明
 昨年、国会に提出された刑事訴訟法等改正法案(以下、「本法案」という)は、盗聴の大幅拡大、冤罪を誘発する危険の高い司法取引(証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度)や刑事免責制度、恣意的運用を許す取調べの録音録画制度、証人特定事項の秘匿措置などの導入、ビデオリンクの拡大といった、憲法・国際人権法や刑事手続の基本原則と相容れず、人権侵害の危険のある内容が一括して盛り込まれた法案である。

 冤罪被害者、冤罪被害者支援の市民、弁護士、学者らの強い反対の声により成立が阻まれ、参議院法務委員会で継続審議に付されたが、政府・与党は、今国会において、短時間の拙速な審議で本法案を成立させようとしている。

 そもそも本法案は、2009年の厚労省事件における検察官の証拠改竄という重大な不祥事に端を発し、法制審議会に設置された特別部会の審議を受けた答申に基づくものであるから、本来は、冤罪を生まない刑事司法改革の法案でなければならなかった。ところが、上記特別部会のとりまとめならびに本法案は、冤罪防止を骨抜きにし、立法の必要性を十分吟味しないまま、捜査権限の拡大強化のみを図っており、極めて遺憾である。

 盗聴法は、プライバシー侵害及び令状主義違反の点でそれ自体違憲の疑いがある。ところが本法案は、対象犯罪を、現行法の薬物・銃器・集団密航・組織的殺人の4類型から、窃盗、詐欺などを含む一般犯罪に大幅に拡大するとともに、手続要件についても、現行法が要求する通信事業者の立会を不要としつつ、第三者機関による監視も規定しないなど大幅に緩和するものであり、冤罪防止とは全く無関係であるばかりか、特定秘密保護法などと結びつき、警察による人権侵害、国民監視がいっそう強く懸念される内容となっている。

 司法取引は、公務執行妨害、文書偽造、汚職、詐欺、恐喝、横領、薬物、銃器、証拠隠滅など、きわめて広範囲の「特定犯罪」の被疑者について、他人の「特定犯罪」を供述すれば自らの訴追を免れたり刑の減免を受けられる制度であり、無実の他人を罪に引き込む危険を常にはらむ制度である。これに証人特定事項の秘匿措置などが加わると、証人の素性が知りえないということにもなりかねず、防御活動は著しく制約される。刑事免責についても、同様の問題が指摘できる。

 取調べの録音録画は、本来、自白強要による冤罪を防止するため、全ての事件の取調べの全過程を「可視化」するものと期待されていた。しかし、本法案では、対象事件が、全公判事件の約3%に過ぎない裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件に限定された上、「記録をすると被疑者が十分に供述できないと認めるとき」などの大幅な例外が設けられ、捜査機関による恣意的運用を許すものとなっている。そのため、本法案は、取調べを規制するどころか、訴追側に都合のよい取調べだけを録画し、これを検察官が裁判所に証拠提出することによって自白の「任意性」立証を有利にする運用をもたらし、かえって冤罪を助長する危険がある。

 私たち法律家団体は、立場の違いを超え、基本的人権を守り、冤罪の根絶と真の刑事司法改革を願う立場から、冤罪被害者、冤罪被害者を支援する市民、長年にわたり盗聴法の廃止を求めてきた市民、本法案への反対を表明する単位弁護士会などと手を携え、本法案の人権侵害の危険性を訴え、国会での徹底した審議を要求するとともに、本法案の廃案を求めるものである。
2016年3月22日
 
社会文化法律センター 代表理事 宮 里 邦 雄
自 由 法 曹 団 団  長 荒 井 新 二
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議  長 原   和 良
日本国際法律家協会 会  長 大 熊 政 一
日本民主法律家協会 理 事 長 森   英 樹
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