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刑事訴訟法等改正法案の衆議院可決に抗議し、参議院での廃案を求める議長声明
 8月7日、盗聴法(通信傍受法)の対象犯罪の拡大及び要件の緩和並びに司法取引の導入等を内容とする刑事訴訟法等改正案が、自民・公明・民主・維新の賛成により衆議院本会議で可決した。
 この改正案は、自民・公明・民主・維新の4党による協議を反映した修正案として提出されたが、修正案とは名ばかりで、本法案が持つ根本的な問題点は何ら解決されていない。

 そもそも、刑事訴訟法等の改正の前提となった「新たな刑事司法制度の構築」に関する法改正要綱(以下「本要綱」という)は、厚生労働省郵便不正事件(いわゆる村木事件)などの冤罪事件や、検察の不祥事を契機として法制審議会の特別部会が設置されたという経緯からすれば、誤判や冤罪の防止、なかんずく違法・不当な取調べの防止など、旧来の糾問的な取調べに依存した捜査・公判の在り方を改善するという国民の期待に応えるためのものだったはずである。
 しかし、本法案は、こうした国民的期待に反し、法務官僚・警察官僚・一部の刑事訴訟法研究者らの主導により、捜査権限の拡大・治安維持の強化を内容とする、極めて問題点の多いものとなっている。

 第一に、本法案は、盗聴法の対象犯罪を詐欺・恐喝・監禁といった一般刑法犯にまで大幅に拡大し、盗聴時の通信事業者の立会いを不要とするものである。もとより、盗聴による捜査は、令状主義違反・プライバシー侵害等の点で憲法違反の性質を強く有するものであるが、対象犯罪の拡大と立会いの省略は、さらなる捜査の濫用を招き、人権侵害の危険性を増大させるものである。
 盗聴された当事者が傍受記録を閲覧することや、当事者への不服申立てができる旨の通知の義務付け等といった修正がなされたが、盗聴により侵害されたプライバシーの権利等は不服申立てなどの事後的な措置では回復できず、根本的な問題点は放置されている。

 第二に、本法案は、密告を奨励し新たな冤罪の温床となる「他人密告型」の司法取引制度を導入しようとするものである。
 司法取引は、被疑者が他人の犯罪の解明に協力する見返りに、検察官が起訴を見送ったり求刑を軽くするという利益を与えるものである。この制度の導入前も事実上の取引が繰り返され、冤罪が生み出されてきた。本年3月5日、名古屋地裁は、贈賄者とされる者が自己の刑事処分に有利となることを期待して虚偽の供述を行ったと明確に認定し、美濃加茂市長に無罪を言い渡した。
 司法取引が制度として確立してしまえば、これまで以上に、無実の「共犯者」や全く無関係の他人を冤罪に陥れる虚偽の供述を誘引する危険性が高まるのであって、極めて大きな問題がある。
 修正協議を経て、弁護人による常時関与を認めること、被疑者と他人の犯罪の関連性を判断者である検察官の考慮事項に加えるという「修正」がなされた。しかし、そもそも弁護人は被疑者段階では証拠開示を受けられないから、他人の犯罪について一切の資料がない状態で検察官と協議しなければならず、弁護人の関与は甚だ不十分である。また、検察官が被疑者と他人の犯罪の関連性を考慮するとしたところで、濫用の危険性は低下しない。この制度には虚偽供述の誘引により冤罪を生み出すという根本的な問題点があるが、何ら手当てはなされていないのである。

 第三に、本法案によって導入される取調べの可視化には、対象がきわめて限定され、捜査機関による恣意的運用を許すことになるという大きな問題点がある。
 冤罪防止の観点から注目を集めていた取調べの録音・録画制度であるが、本法案では、憲法上極めて重要な権利である黙秘権や取調べ受任義務の問題を議論しないまま、任意性の立証手段として制度設計されている。このため、冤罪防止という本法案の出発点から大きくかけ離れた無意味なものであるばかりか、かえって有害な制度となる危険性がある。
 対象事件は裁判員制度対象事件と検察独自捜査事件に限定され、録音・録画の例外となる事由は捜査機関の恣意的な運用を許すものとなっている。さらに、被疑者が事実上「任意」の取調べを拒否できない実情を無視し、任意捜査における適用を除外している。
これらの極めて大きな問題点は、修正されないままになっている。

 本法案が導入しようとしている刑事司法制度は、本来の目標であった誤判・冤罪の防止に逆行するものであり、憲法が保障する適正手続保障の理念・黙秘権をはじめとする刑事手続上の人権保障の観点が欠如していると言わざるを得ないものである。
 こうした本法案の危険性は、衆議院法務委員会での審議において次々と明らかにされたが、自民・公明・民主・維新の4党は、冤罪防止という本来の趣旨や冤罪被害者らの声を無視し、衆議院本会議で可決した。
 自民・公明・民主・維新による「修正」は、本法案の問題点を放置した全く意味のないものであり、本来であれば個別に慎重審議すべき重要法案を一括して成立させることは、絶対に許されない。

 当部会は、基本的人権を侵害し憲法的価値の破壊をもたらすこのような刑事法の改正には断固反対であり、ここに改めて強く抗議し、本法案を廃案とするため、誤判・冤罪を許さない人々との共同行動など、あらゆる運動を展開していくことを決意するものである。
2015年8月25日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長  原  和 良
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