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育鵬社及び自由社の歴史・公民教科書採択に反対する決議
1 戦争をする国づくりのための教科書に反対する

本年は、4年に1度の中学校教科書採択の年であり、今まさに、全国で教科書採択に向けた手続きが行われている。
「積極的平和主義」を強調し、積極的に戦争をする国づくりを進めている安倍政権においては、愛国心育成が国家安全保障戦略における「社会的基盤の強化」のために必要であると位置づけられている。そして、教育委員会制度改悪、教科書検定基準・教科書検定審査要項の改悪等既に教育への介入がなされているものであり、一連の動きには教育を利用した戦争をする国づくりが背景にあることは明らかである。
当部会は、これまで2001年、2005年は、「新しい歴史教科書をつくる会」(扶桑社)による歴史・公民教科書について、また2011年は、その流れをくむ育鵬社及び自由社の歴史・公民教科書について、侵略戦争を美化し、国民主権を軽視し、平和主義を矮小化するものであるとして一貫して採択に反対してきたものである。
安倍政権による戦争をする国づくりが進められている状況を踏まえ、育鵬社及び自由社の教科書採択を全力で阻止する決意である。

2 育鵬社及び自由社の教科書の問題点

(1)基本的人権の尊重を蔑ろにしている

   「基本的人権の尊重」の項目では、「憲法は、権利の主張、自由の追求が他人への迷惑や、過剰な私利私欲の追求に陥らないように、また社会の秩序を混乱させたり社会全体の利益をそこなわないように戒めています」(育鵬社公民p54)、「社会全体の秩序や利益を侵す場合には、個人の権利や自由の行使が制限されることもあります」(育鵬社公民p55)等と説明されている。あたかも、曖昧で抽象的な「他人への迷惑」や「社会全体の秩序」といったもので、権利や自由が制限されることを憲法が認めているかのような記述になっており、「侵すことのできない永久の権利」とした憲法11条に反するものである。
   また、「国家と私たち」の項目では、「何か共通のものを軸にした「われわれ」という意識を、どこの国民ももっています。このような意識や国家への帰属意識、国の名誉や存続、発展などのために行動しようと思う気持ちを愛国心といいます」(育鵬社公民p180)と説明され、国家への帰属意識・国の名誉のために行動しようと思う気持ち等という特定の「愛国心」を誰もが持っているものとして記述されている。同じ頁には、「国を愛する気持ちを育てる必要性」について「必要だと思う79.8%」、「個人の利益よりも国民全体の利益を大切にすべきだ53.5%」という世論調査が取り上げられており、本文の記述とあわせれば、個人よりも国民全体の利益を大切にすることを内容とする特定の「愛国心」を持つことが必要であるかのような刷り込み・押し付けがなされていると言わざるを得ない。
   さらに、その直後には、「それぞれの国の人々が、自国の国旗・国歌に愛着をもつのは当然のことです。」と記述され、「一般の家庭では国民の祝日などに国旗が掲げられ、喜びを表」すのが、「国際社会で通用する国旗・国歌への敬意の表し方」として取り上げられている。これは、国家への帰属意識を内容とする特定の「愛国心」を前提に、愛国心の在り方として国旗・国歌への愛着が「当然」として刷り込み・押し付けがなされているものである。
   これらは、本来、国に対する気持ちという多様で個人の自由に委ねられる事柄について、ある特定の「愛国心」を一方的に押し付けるものであり、個人の尊厳(憲法13条)、思想良心の自由(憲法19条)に反するものである。

(2)国民主権に反する

   国民主権について、育鵬社及び自由社は、国民主権よりも多くの分量を使って「天皇」について取り上げている。
 自由社では「天皇はみずから権力をふるうことなく、幕府などそのときどきの政治権力に正当性をあたえる権威としての役割を果たしてきました。日本国憲法のもとでの天皇も、日本の政治的伝統にならった役割を果たしています」とされ、同頁には「歴史を通じて維持されてきた天皇の地位と役割」との文言も存在する(自由社公民p58)。
 育鵬社では、天皇は「古くから続く日本の伝統的な姿を体現したり、国民の統合を強めたりする存在となっており、現代の立憲君主制のモデルとなっています」(育鵬社公民p51)と説明されている。
 このような記述は、大日本帝国憲法から日本国憲法に変わり、天皇の地位が大きく変わったにもかかわらず、まるで、現在においても大日本帝国時代の地位が継続しているかのように扱うものであり、国民主権(憲法1条、憲法前文)に反する。

(3)平和主義に反する

   太平洋戦争について、「アジア独立への希望」という小見出しのもと「日本軍の勝利に、東南アジアやインドの人々は独立への希望を強くいだきました」(育鵬社歴史p236)、「アジアの解放をかかげた日本は敗れたがアジアは植民地から解放され、独立を達成した」(自由社歴史p246)等と説明しており、侵略戦争を正当化するような記述になっている。
   「平和主義」の項目では、「国民に国防の義務がない徹底した平和主義は世界的には異例」(育鵬社公民p56)とする一方、「戦後の日本の平和は、自衛隊の存在とともにアメリカ軍の抑止力に負うところも大きいといえます。」(育鵬社公民p58)と記述している。
   日本国憲法は、戦争についての深い反省のもと、戦争や武力によらない平和外交を手段として安全保障を実現することを決意したのであり、上記の記述は日本国憲法が採用する平和主義(憲法9条、憲法前文)を蔑ろにするものである。

3 育鵬社及び自由社の教科書採択を許さない

以上のとおり、育鵬社及び自由社の教科書は、戦争をする国づくりという観点からも、またそもそも「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」という憲法の基本原理に反するものであるという観点からも、極めて問題があり、そのような教科書を子どもたちに使用させることは断じて許されない。
当部会は、育鵬社及び自由社の教科書が採択されることがないよう、多くの市民・団体と連帯し、国民的世論と運動を全国各地で起こしていく決意である。
また、今年は、教育委員会制度が改悪されて初めての教科書採択になるが、教科書採択は教育委員会固有の権限であることに変わりはなく、首長が教育大綱に教科書採択の方針を書き込んでも、教育委員会に尊重義務がないことは国会答弁(2015年4月22日衆議院)で確認されているところである。
当部会は、首長の意向による採択がなされることのないよう求め、育鵬社及び自由社の教科書採択を阻止する決意である。
2015年6月28日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 4 6 回 定 時 総 会 
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