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原発事故被害の司法による救済と責任の究明を求める意見書
意見の趣旨
  福島第一原発事故(以下「本件事故」という)による、深刻かつ多数の被害の救済を求める全国の訴訟においては、本件事故による前例のない被害を救済することが司法の責任であり、裁判所は被害の実相に積極的に目を向け、被害と向き合わなければならない。
そのためには、原告本人尋問はもとより、現地の検証や、被害と責任の解明に資する社会・人文・自然科学の専門家による証言などを活用して、被害の十分な理解と評価に努める必要がある。
そして来るべき判決においては、失われた生活の再建を可能とする賠償と、避難生活の困難及び故郷の破壊・喪失による精神的苦痛を償うに足りる水準の賠償を認めなければならない。
  また、被害の救済を通じて、本件事故の責任の所在を十分に解明することが求められる。これを通じて、事故の再発を防止することが原告らの願いであり、この期待に応えることも司法の責任である。
意見の理由
1 原発事故=放射能公害による甚大な被害
2011年3月11日の福島第一原発事故から4年3ヶ月が経過した現在も、約十二万人の住民が、福島県内外への避難を強いられている。11市町村に及ぶ広範な地域が避難指示の対象とされ、避難を余儀なくされた。また政府等の避難指示の対象ではない地域においても、被ばくによる健康への影響を懸念した多数の住民が自らの判断で避難しており、これらも本件事故によって強いられた避難行動である。これらの避難者は、社会生活の全般を包括的に侵害されることで、有形無形の甚大な被害を被っている。
他方で避難区域外の周辺地域の居住者は、やはり自然放射線量を大きく超える被ばくを避けられないのであり、日々継続的に健康上のリスクを負わされている。これによって住民は、不安とストレスによる精神的苦痛と、地域が精神的・社会的・経済的な様々な影響を受けるという被害を被っている。
これらは、いずれも前例のない、原発事故による「放射能公害」がもたらす固有の被害である。

2 多数の被害者による集団訴訟の提起
  これらの甚大な被害の発生により、全国各地において、多数の集団訴訟が提起されている。報道によれば、全国20以上の地裁において、既に1万人にのぼる被害者が原告になって、訴訟が行われている。原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介手続(原発ADR)が一定の機能を果たしているはずでありながら、これだけの数の訴訟が提起されるという事態は、被害の実態が深刻であること、そして東京電力による賠償の内容が極めて不十分であることを示している。
  原告らは、自分たちが受けている被害の実相が正当に評価されることを求め、かつ生活の再建と原状回復を実現するに足りる完全賠償を要求している。その切実な思いを、裁判所による司法的救済という場に託したのであり、司法の役割は重大である。
  訴訟を適した原告らのもう一つの思いは、これだけの深刻な被害を引き起こした本件事故における、責任の所在を明らかにすることにある。無過失責任を認める原賠法がありながら、あえて民法上の不法行為責任をも請求原因に掲げ、また国も被告にして国賠責任を追及する事件が多数にのぼるのは、こうした意思の表れである。

3 被害の完全な救済と生活再建の必要性 
長期に及ぶ避難生活は、避難者に様々な生活上の困難と不安を与えており、その精神的苦痛に対して適切な水準の賠償がなされるべきである。加えて避難区域外からの避難者は、ほとんど賠償を得られないまま、「自主避難」であることによる一層のストレスと不安に苛まれている。
事故から4年、5年もの年月が経過すれば、もはや現実的には帰還が不可能なものとして、多くの避難者が帰還を断念し、新たな地域での生活再建を決断するに至る。これまで築いてきた生活を捨てて、新たな土地で生活を再開するにあたっては、有形・無形の様々な損害が発生する。その実情を踏まえて、移転先での生活再建を可能とする、原状回復としての賠償がなされるべきである。特に居住用不動産の損害については、移転先は従前の居住地よりも都市周辺地域にならざるを得ないから、従前の土地建物の価格による賠償では、元の生活水準に相当する新たな住宅を回復することができないし、適切な中古住宅が入手できるとは限らない。そこで、居住用の土地については、移転先の地価を考慮した「再取得価格」による賠償が必要であり、建物については新築価格による賠償がなされなければならない。そして、故郷を失ったことによる精神的苦痛が慰謝されなければならない。
次に、仮に今後帰還が実現しても、その故郷は元の姿ではない。以前の自然環境は損なわれ、住民の多くは戻らない。元のコミュニティは破壊され、地域の精神的・文化的資産は損なわれているであろう。このように、地理的には帰還しても、地域そのものが変質・変容しているのである。このようにして故郷を破壊されたという損害についても、適正な賠償が必要である。
滞在者の精神的苦痛や、地域力の低下による損害も、事故からの年月の経過に伴って、一層累積し、深刻化している。

4 司法の責任と国民の信頼
  各地の裁判所における訴訟は、提訴後約3年を経過して、今後順次、審理の終結、そして判決に至る時期を迎える。
  上記の多数の訴訟は、その請求内容や訴訟の方針は様々であるが、被害はいずれも深刻であり、被害者の置かれた実情がまことに切迫した段階にあることは同様である。裁判所は、これらの原告の要求を真摯に受け止め、司法としての責任を十分に果たさなければならない。
  翻って、これまでの公害事件および脱原発を求める裁判において司法が果たしてきた実績を見るならば、裁判所が十分にその役割をはたしてきたとは言い難い。
1970年代をピークとする多くの公害訴訟において、裁判所は被害の認定を狭く限定的に捉え、あるいは損害額の算定において著しく低額に抑えるなど、被害救済として十分ではないことが批判されてきた。また、このような限界に加えて、審理に極めて長期間を要することから、司法的救済を求めることそのものが躊躇され、被害の全面救済に至らなかったという事態も指摘されている。
  脱原発を求める訴訟に目を向ければ、本件事故まで、ごくわずかな下級審判決を除いて原発の差し止めを認める判決は見られず、その僅かな例外的事例も、上級審で破棄されてきた。最高裁は、伊方原発事件において、安全審査適合性に関し、一般論としては行政上の判断の合理性を審理の対象としつつ、広範な行政裁量を認めることによって、事実上司法審査を無意味にする論旨を繰り返して、司法審査の役割を放棄していた。その結果が本件事故であると言っても過言ではない。
なお、一部の裁判においては、原告による意見陳述の機会に制限を加えるなど不当な訴訟指揮がなされており、被害の実相に迫るという司法審査の役割に背が向けられている。
これから各地の裁判所でなされる判決の内容が、原賠審の中間指針の水準を大きく踏み出せないものに留まるならば、多数の被害者の苦悩はまことに深刻なものとなるであろう。そして、裁判所がこの放射能公害の被害救済において司法の責任を果たさないならば、司法に対する社会的評価はまことに厳しいものになり、国民の信頼を失う結果になることは必定である。裁判所は、その責任と国民からの期待を十分に自覚すべきである。
2015年6月27日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 46 回  定  時  総  会
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