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「道徳の教科化」に強く反対する決議
1 「道徳の教科化」への危険な動き

 2014年10月21日、中央教育審議会は、小中学校の「道徳の時間」を教科に格上げするよう文部科学大臣に答申した。中央教育審議会での主な提案内容は、@道徳の時間を「特別の教科 道徳」(仮称)として位置づけ、A検定教科書を導入し、B児童生徒の道徳性の変容の評価を様々な方法で収集した資料等に基づき行う、というものである。
 文部科学省はかかる答申を受け、年度内に学習指導要領を改定、来年夏までに教科書検定基準を作成し、2018年度から教科化の導入を目指していると報じられている。
 しかし、道徳の教科化は、愛国心を押し付け、思想良心の自由や成長発達権を侵害するとともに、戦争をするための人づくりと言うべきであり、強く反対する。

2 愛国心の押し付け

(1)答申では、検定教科書を導入すると提言されているが、新たな教科書検定制度においては、愛国心を養うことを盛り込んだ「教育基本法」に照らし、重大な欠陥がある場合は不合格にできるとの方針が掲げられている。
 そのため、検定教科書の導入により、愛国心を意識した教科書を利用して道徳の授業が行われることになる。

(2)また、道徳の時間を教科化することで、学校教育法や学習指導要領などに基づく教育内容の拘束を生じさせることになる。答申では、「学習指導要領の改訂においては、教科書の著作・編集や検定の実施を念頭に、これまでよりも目標や内容、内容の取扱い等について具体的に示すなどの配慮が求められる」と提言されていることから、愛国心を意識した教科書を念頭に、内容が具体化されるものといえ、より具体的に愛国心の押し付けがなされるものと言わざるを得ない。

(3)その上で、「児童生徒の道徳性の変容」を評価することになれば、おのずと、愛国心に沿うような態度の変容が評価の対象になってくる。
評価においては、「児童生徒の作文やノート、質問紙、発言や行動の観察、面接など、様々な方法で資料等を収集することになる」と提言されていることとあわせて考えれば、あらゆる手段を用いて「道徳性の変容」という名のもとで、愛国心の押し付けが繰り返され、浸透させられるものと言わざるを得ない。
 また、内申書等の基礎資料となる指導要録には、現在、道徳の時間の記録欄が設けられていないところ、道徳の教科化にあたっては、新たに専用の記録欄を設けることが提言されている。
 進学等に大きな影響力をもつ内申書等の基礎資料となる指導要録にも道徳性の変容に関する記述が設けられれば、もはや子どもたちは検定教科書で提示される価値と違う見解で発言することは困難になり、これにより、愛国心が刷り込まれていくと言わざるをえない。

(4)このように、道徳の教科化は、子どもたちに愛国心を刷り込ませ、教育による国家統制を図るものと言わなければならない。

3 思想良心の自由、成長発達権(学習権)への侵害

 道徳の教科化にあたっては、上述のとおり、愛国心を意識した検定教科書によって教えられること、「児童生徒の作文やノート、質問紙、発言や行動の観察、面接など、様々な方法で資料等を収集」し評価されること、内申を意識して、教科書が善いとする価値観を受け入れざるを得なくなることからすると、思想良心の自由、成長発達権(学習権)が侵害されることは明らかである。現に、答申においてもかかる懸念からか、わざわざ「検定教科書が供給されることとなった後も、道徳教育の特性に鑑みれば、教科書の内容を一方的に教え込むような指導が不適切であることは言うまでもない。」と記されているのである。検定教科書が用いられることになれば、それを無批判に教え込み、ひいては子どもの思想良心の自由、成長発達権(学習権)の侵害につながることは容易に想定できるため、あえて答申でも指摘をしているものと言うべきである。

4 戦争をするための人づくり

(1)戦前の「修身」では、道徳教育と愛国心が重視され、国家目的に従う国民の育成が教育の目的とされた。教育が戦争に利用された反省から、終戦の年に、「修身」を廃止し、国家主義的、軍国主義的教育を廃したという歴史がある。
 他方で、安倍内閣は、「国家安全保障戦略」において、愛国心育成を「社会的基盤の強化」のために必要であると位置づけていることからすると、再び、戦争をするための人づくりのために国家主義的教育がなされようとしていると言わねばならない。その大きな一歩として「道徳の教科化」が位置づけられていることは明らかである。まさに教育が戦争のために利用される状況が再び作られようとしているものである。

(2)そもそも道徳の教科化はいじめの問題への対応との関係で議論されてきたものであるが、いじめ対策において道徳教育は効果的でないことは既に専門家によって指摘されてきた。
 2011年10月に起きたいじめ自殺のケースである大津事件においても、同中学校は文部科学省指定の「道徳教育実践研究事業」推進指定校として2年間にわたって様々な道徳教育の実践が行われてきたものであり、同事件の第三者調査委員会では、道徳教育の限界が指摘され、学校現場で教員が一丸となった様々な創造的な実践こそが必要と報告されていたものである。
 いじめ対策において、道徳教育が有用であるという客観的根拠がなく、むしろ道徳教育の限界が指摘されている中で、道徳を教科化する必要性は皆無である。
 それにも拘わらず道徳の教科化が推し進められているのは、まさに戦争のための人づくりに向けたものと言わねばならない。

5 戦争のために教育を利用させない―― 「道徳の教科化」に反対する 

 以上、道徳の教科化は、その必要性有用性について何ら客観的根拠なく提言されているものであり、むしろ愛国心を押し付け、思想良心の自由や成長発達権(学習権)を侵害するとともに、戦争のために教育が利用される状況を作るものである。
 当部会は、1954年の設立以来、戦争で多くのものを失った経験を踏まえ、平和を守る活動を続けてきた。戦争への反省から終戦の年に「修身」が廃止され70年目の大きな改悪の動きに対し、戦争のために教育が利用される過ちが繰り返されることのないよう、道徳の教科化に強く反対するものである。
2014年12月6日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 3 回 常 任 委 員 会
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