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軍国主義教育への反省を無にし、教育への政治的介入をもたらす
地方教育行政法「改正」案の廃案を求める議長声明
 政府は、今通常国会での成立を目指し、地方教育行政法「改正」案を提出した。2014年5月20日に衆議院で可決され、現在参議院で審議中であるが、かかる改正案は、軍国主義教育への反省を無にし、教育への政治的介入をもたらすものであるから、直ちに廃案にすべきである。

 本改正案は以下のとおり、大綱の策定や新教育長創設を通して、政府や首長が教育に介入できる仕組みをつくるものである。

(1)現行教育制度の意義
 現行の教育制度は、戦前戦中の軍国主義教育の反省から、政治的中立性、継続性、安定性を担保するため、教育行政を政治から切り離すことを目的として設計された。こうした政治的中立性は、個人の尊厳(憲法13条)、教育を受ける権利(学習権、憲法26条)を基本に据え、人格の完成を目指すという教育の目的(教育基本法1条)を実現するために不可欠なものとされてきた。

 かかる理念のもと、教育委員たちが国や首長から独立して教育委員会を運営し、自治体の教育行政をすすめてきた。これまでも、例えば大阪市において、違法な思想調査が強行されそうになったとき、市教育委員会が反対して教職員などへの調査を阻止するなど、教育委員会は政治的介入の防波堤としての役割を果たしてきたのであった。

(2)大綱の策定の問題
 ところが、本改正案は、政府や首長に大きな権限を与え、教育委員会を政府や首長の方針を具体化する単なる「下請け機関」に引き下げている。

 具体的には、まず、首長に教育の条件整備など重要な教育施策の方向性等につき大綱を策定する権限を与え、さらにこの大綱の策定にあたっては政府の策定する教育振興基本計画を参酌することを義務付けている(第1条の3第1項)。これにより政府や首長が教育に介入できる枠組みが作られることになる。

 本改正案は、大綱の策定権限について、教育委員会の所掌とされている事務を「管理し、又は執行する権限を与えるものと解釈してはならない」(第1条の3第4項)という規定を置いてはいる。しかし、そもそも文言が曖昧であって、大綱で決めることのできる範囲を何ら明文上限定していない。

 したがって、首長は政府の教育振興基本計画に沿う範囲で、教育施策について無限定に大綱として定めることが可能となる。「愛国心」をことさら強調する安倍内閣のもとでは、「日本人としての誇りをもち、愛国心を育成するような教科書を使用する」といった大綱も策定される危険がある。

 かかる大綱につき、教育長と教育委員は、大綱に即して教育行政の運営を行うよう「意を用い」る義務を負う(第11条第8項、第12条)。大綱に従わなかった場合、「職務上の義務違反」(第7条第1項)として、罷免されるおそれがあるため、大綱による非常に強力な支配・介入の仕組みが作られることになる。

(3)新教育長創設の問題
 現行制度では、教育委員会が教育長を任命し指揮監督して事務にあたらせている。ところが、本改正案は、このあり方を根本から改め、現行の教育委員長と教育長を統合し、新教育長を創設して、この新教育長のもとで教育委員会を運営するとしている。また、現行では、教育長は教育委員による互選で選出していたものを、本改正案は、新教育長の任免を首長が行うこととし、新教育長の任期を4年から3年に縮減している(第4条第1項、第5条、第13条第1項)。

 本改正案が実現されると、首長が教育長の任免権を有し、任期4年の首長が在職中少なくとも一度は人事権を行使できるようになる一方で、教育長に対する教育委員会の指揮監督権限が失われる。これにより、首長と教育長が一体となって暴走した場合、教育委員会がこれを止めることは困難になる。

 2013年6月に発表された自民党総合政策集において、「さぁ教育を取り戻そう」というキャッチフレーズのもと、「わが国を愛する心を養う教育」の推進が明記されているように、安倍政権は教育への介入に高い意欲を示している。

 その後も2013年12月に安倍内閣が閣議決定した「国家安全保障戦略」において、愛国心育成を「社会的基盤の強化」のために必要であると位置づけていることからすると、教育への介入の目的は、戦争をするための人づくりにあると言わねばならない。まさに教育が戦争のために利用される状況が再び作られようとしている。

 教育は、「国のための人材づくり」のためにあるものではなく、「教育を受ける権利」(学習権、憲法26条)という観点から、一人ひとりの子どもの成長発達の権利を実現するためのものとして位置づけられなければならない。

 当部会は、1954年の設立以来、戦争で多くのものを失った経験を踏まえ、平和を守る活動を続けてきた。今、戦争のために教育が利用されかねない状況が作られつつあることに対し、過ちを再び繰り返すことのないよう、本改正案の廃案を強く求めるものである。
2014年 6月 9日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長 原  和 良
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