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秘密保護法の衆院強行採決に抗議し、参院での廃案を求める声明

 本年10月25日に与党から提出された秘密保護法案(以下「本法案」という)は、自民、公明、維新、みんなの4党による修正を経て、同年11月26日に衆院にて、自民・公明・みんなの各党の賛成により強行採決され、同日、参院へと送付された。知る権利やプライバシー権などの国民の権利を侵害し、民主主義の根幹を揺るがす本法案の強行採決に対し、青年法律家協会弁護士学者合同部会(当部会)は強く抗議をするとともに、本法案を参院で廃案とするよう強く求める。


 当部会は、2012年6月に「秘密保全法に反対する議長声明」を発表して危険性を指摘するとともに、各支部で反対運動の取り組み、また当部会も加入する「STOP!秘密保全法 共同行動」においても反対運動を続けてきた。本法案の上程前に行われたパブリックコメントにおいては募集期間が2週間と極めて短期間であったにもかかわらず国民からは9万件もの意見が寄せられ、このうち8割近くが本法案に反対の意見であった。また、直近で行われた世論調査でも国民の5割が反対を表明していた(11月25日、テレビ東京・日経新聞)。今回の強行採決はこうした国民世論に全く背を向けた暴挙としか言いようがない。


 本法案は、以下に見るとおり、国民の権利を侵害するとともに、民主主義の根幹を揺るがす致命的な欠陥がある。

(1)まず、本法案は、保護すべきとされる秘密(特定秘密)の範囲を「防衛に関する事項」「外交に関する事項」「特定有害活動の防止に関する事項」「テロリズムの防止に関する事項」の4分野とし、これらにおける広範な情報について、政府(行政機関の長)が恣意的に「特定秘密」と指定できるとされている。さらに、原案で特定秘密指定の有効期間は5年で、5年を超えない範囲で延長可能とされ、内閣の承認があれば30年を超えて延長できるとされていたところ、修正案では60年を超えて指定できないとしつつも、7項目にわたる例外規定が設けられた。
 本法案では特定秘密の対象が抽象的で曖昧であって、第三者機関によるチェックもされないまま、政府が恣意的に特定秘密に指定できるとされれば、政府にとって都合の悪い情報は一切外部に発表されることはなくなる。そして例外7規定に該当すると判断されれば永久に秘密のままとなるばかりか、公文書管理法の適用を受けなければ秘密のまま廃棄されることになる。これでは指定の妥当性について主権者である国民によるチェックを永遠に受けることはなくなる。本法案には、国政に関わる情報は本来国民の共有財産であり、情報公開が原則であるという観点が決定的に欠如しているといわざるを得ない。

(2)「特定秘密」の秘匿のために、その取得・漏洩のみならず過失犯、共謀、独立教唆、扇動といった行為についてまでも処罰できるとし、その処罰対象は、公務員のみならず、特定秘密取扱業務従事者、つまり民間企業の従業員にまでも広げられている。さらにその法定刑も最高で10年と大幅に加重されている。
 しかし、仮に刑罰を科してまで保護すべき秘密情報があるとしても、それはすでに国家公務員法や自衛隊法などの現行法制で対処することは可能であり、法定刑を引き上げる理由にならない。また、メディアによる正当な取材活動で得た情報や内部告発した情報が「特定秘密」であった場合でも処罰の対象となるために、国民の知る権利やメディアの取材・報道の自由に対して大幅な制約、著しい萎縮効果をもたらし、憲法が保障する表現の自由(憲法21条)を脅かすものとなる。

(3)さらに、本法案では、特定秘密取扱業務従事者に対して「適性評価制度」を導入し、活動歴や信用状態、精神疾患や交友関係や家族関係に至るまできわめて高度なプライバシー情報について調査・監視を行うこととされている。これは、憲法の定める思想・良心の自由(憲法19条)、プライバシーの保障(憲法13条)、差別的取扱いの禁止の原則(憲法14条)に違反するものと言わざるを得ない。

(4)そして、本法案は、本年6月にまとめられた「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)にも違反している。同原則は、公開の規制対象は国防計画、兵器開発、情報機関の作戦や情報源などに限定すべきで、国際人権・人道法に反する情報は秘密にしてはならない、秘密指定の期限や公開請求手続きを定めるべきであるなどの内容となっている。本法案には、同原則の重視する秘密情報の保持と情報公開のバランスが全く考慮されていない。

(5)加えて、本法案は、「特定秘密」とされた情報については国会や裁判所、地方自治体(警察は除く)に対しても原則として提供しないものとされており、特定秘密が国会に提供されるとしても秘密会に限定されている。これでは議員は国会内で十分な議論ができないばかりか、情報を党や支援者に知らせることもできず、国会での討議はおざなりなものとなってしまう。これは国会を唯一の立法機関(憲法41条)と定め、両院に国政調査の権限を与え(憲法62条)、国会が行政をコントロールする議院内閣制を採用した統治機構の在り方を根幹から揺るがすものである。

 また、本法案は、すでに11月27日に成立した「国家安全保障会議(日本版NSC)設置法」と一体となって、秘密情報を内閣総理大臣、官房長官、外相、防衛相だけで独占し、トップダウンで安全保障に関する決定を行うことをもくろんでいる。これは他の行政機関や地方議会、そして国会を著しく軽視するものであって、国民主権を形骸化するものである。


 このように本法案の提出、採決が強行された背景には、軍事情報の共有化を進めたいアメリカからの強い要請がある。安倍内閣は、アメリカからの要請を受け、集団的自衛権行使を容認し、海外においてアメリカとの共同軍事作戦を遂行できる国づくりを進めている。来年の通常国会では、集団的自衛権行使のための基本法となる国家安全保障基本法などの法案提出が準備されているが、この国家安全保障基本法には秘密保護法と日本版NSC設置法の制定が前提とされている。

  こうしてみると、まさに本法案は将来の集団的自衛権行使の地ならしのための法制度であって、これは憲法の定める平和主義(憲法前文、9条)に明確に反するものである。国家安全保障会議が防衛・外交に関する重要な情報を独占し軍事行動への意思決定を強行する際に、本法案によってこの情報をひた隠しにするという図式が透けて見えるのである。


 多くの国民は本法案の即時廃案を求めている。11月21日に行われた日比谷野外音楽堂での反対集会には約1万名の市民が集まり、国会への請願デモと銀座でのパレードを行った。これに呼応した全国13か所でも集会・パレードが実施された。そのほか、連日、全国各地で反対の声がうねりのように大きく広がっている。また、11月25日に福島で行われた公聴会では自民党の推薦者を含む7人の意見陳述者全員が本法案に反対している。

 今後の参院での審議の中で、本法案の矛盾点がさらに浮き彫りになることは明らかである。当部会は、国民の声を無視して本法案を強行採決した自民・公明・みんなの各党に対して断固として抗議をするとともに、参院での本法案の廃案を強く求める。
2013年11月28日
青年法律家協会弁護士学者合同部会 
議 長  原   和 良
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