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国民投票法の廃止を求める議長声明 |
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1.国民投票法「改正」の動き
本年10月から始まった臨時国会において、日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「国民投票法」という)の「改正」案が提出されると報じられている。
国民投票法は、憲法96条の国民投票手続きを規定するため2007年5月14日に可決成立し、一部を除き2010年5月18日に施行された。同法の成立に際し参議院憲法調査特別委員会では18もの附帯決議がなされ、成年年齢、最低投票率、有料広告規制について、法施行までに必要な検討を加えることとされていたが、これら附帯決議がなされた項目について十分な検討もないまま同法は施行された。
同法の「改正」案の議論は投票年齢を18歳に引き下げる点に限られており、以下に示す国民投票法の根本的な問題点については改正される見通しは示されていない。
憲法が国の最高法規たる所以は、侵すことのできない永久の権利(憲法97条)である基本的人権を保障する点にある。その改正手続を定める憲法96条は、全国民を代表する選挙された各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議と、国民投票による過半数の賛成による承認を求めている。
憲法改正にかかる厳格な要件を求める趣旨は、総議員の3分の2以上の賛成を発議要件とすることで安易な発議を防止し、慎重な手続きにより憲法の人権保障を保全する点にある。
また国民の過半数の承認要件を置くことで、最終的に人権享有主体たる国民一人一人の良心に基づく判断に人権保障を委ねていると考えられる。
このように最終的な承認が国民一人一人の判断に委ねられていることからすると、国民投票においては、国民に対しその判断に必要な情報が質・量ともに十分に提供されなければならず、そのためには国民の間で自由な意見表明が保障されなければならない。また国民の判断を正確に反映する投票制度も必要である。
しかし、そもそも国民投票法には以下に見られるような、人権保障および国民主権原理の観点から看過することのできない根本的な問題点がある。
2.国民投票法の主な問題点
(1)投票方式
同法が定める投票方式は改正案毎の賛否投票であり、個別条文の賛否について投票できない。このため、国民の意思を正確に反映できない点に同法の根本的な問題がある。
(2)「過半数」の意義
賛成票数が有効投票総数(無効票を除く)の2分の1を超えた場合に改正承認となるが、最低投票率・最低投票数等の縛りはない。これでは、低投票率でごく一部の国民のみが賛成した場合にも半数を超えれば憲法改正が承認される。これでは国民の多数意思を正確に反映する制度とはいえない。
(3)公務員等・教育者に対する運動規制について
公務員等・教育者の運動を規制する同法103条は、地位を利用した国民投票運動をすることを禁止しているが、かかる曖昧な規制による表現活動の萎縮効果は重大であり、国民に対する情報提供が大幅に制約される危険を伴う。
(4)国民投票広報協議会
同協議会は両議院の議員各10名で構成されるが、改正案に対する賛否で差を設けずに同数の構成とするとの定めはない。現行の議席に基づく構成では改憲勢力が多数を占め、改憲ありきの広報が危惧され、国民に偏った情報が提供されることが危惧される。
(5)公費による意見広告
公費による意見広告は政党等が指定する団体に限らず、幅広い団体が利用できる制度にすべきであるが、この点について十分検討が尽くされているとは言い難い。
また、改正案に対する賛成・反対双方に対する公平性と中立性の確保が重要であるが、これを担保する制度は具体化されていない。
(6)有料意見広告放送のあり方
有料意見広告放送が投票14日前から禁止されていることは、表現の自由に対する制約であり、それと同時に国民の知る権利への制約となりうる。
その一方で、時期を問わず、特定の政党や団体が資金力を背景としていずれか一方の主張に偏った広告を大量に打ち出す可能性も否定できず、公正かつ平等な意見広告のあり方が検討されなければならないが、現状で検討が尽くされているとは言い難い。
(7)投票期日
国会の発議後60日から180日以内に投票が行われるため、最短の場合、発議から2か月後に国民投票となる。議論を尽くすにはあまりに短く、最低でも1年程度の国民投票のための検討・運動期間が確保されなければならない。
(8)投票権者
18歳以上の日本国民が投票権者となる。ただし年齢要件については公選法・民法等関連法規の改正がなされるまで20歳以上が投票権者となる。この点については、10月からの国会に提出される改正法案で審議がなされる見通しである。
もっとも投票権者を日本国民に限定している点につき、憲法が保障する人権の享有主体は日本国民には限られないことから、永住者など一定の要件を満たす外国人にも投票権を認めるべきではないか検討が必要と思われる。
(9)罰則
組織的多数人買収・利害誘導罪が設置されているが、国民投票と公職選挙では投票の意義や効果が著しく異なることから、このような罰則規定を設けること自体に問題がある。さらに、極めて不明確な要件の下に広汎な規制を招き、罪刑法定主義に抵触し自由な表現活動を萎縮させるものであるから、この点については到底容認できない。
(10)国民投票無効訴訟について
まず、無効訴訟の提起期間(30日以内)は短期に過ぎる。次に、管轄裁判所が東京高等裁判所に限定されている点も無効訴訟を制約するものである。さらに、無効訴訟を提起しうる場合について、いかなる場合に改正が無効となるのかについて議論が尽くされたとは到底言い難い状況にある。
3.国民投票法は速やかに廃止されるべきである
このように国民投票法は、国民に十分な情報を提供せず議論をさせない中で憲法「改正」を強行できる仕組みとなっている。このような国民投票法が成立・施行された背景には、平和主義を含めた憲法の基本理念を全面的に覆し、自民党憲法改正草案に見られる憲法9条の改悪を果たし、日本を再び戦争のできる国につくりかえようとする自公政権の意図が透けて見える。
今臨時国会では、特定秘密保護法案、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案が上程・審議され、その後も、国家安全保障基本法案、集団自衛事態法案、国際平和協力法(自衛隊海外派兵恒久法)案など有事法制の整備に関する法案が上程、審議される見通しであり、政府は集団的自衛権の解釈変更に向けた動きを進めている。このように米軍再編に伴い米軍と自衛隊が一体となって、海外で日本が戦争できる体制づくりが着々と進められているが、まさに国民投票法はこのような国づくりのための手段であることは疑いない。
われわれ青年法律家協会弁学合同部会は、2007年4月27日に国民投票法案の強行採決に抗議し廃案を求める緊急議長声明を発表した。当部会は、平和憲法が脅かされる危険は当時と比べても各段に高まっているという認識のもと、憲法の改悪のための国民投票法の「改正」ではなく、速やかな廃止を求める。 |
2013年11月20日 |
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長 原 和 良 |
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