律家会弁護士学者合同部会
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生活保護制度「改正案」を再び国会に上程させてはならない
政府提案による生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という)は、憲法25条に定める生存権を脅かす重大な問題があるにもかかわらず、5月29日に一部修正ののちに衆議院で可決された。しかし、国民各層の広範な反対運動もあって、参議院では審議未了により6月26日の会期末に廃案となった。
青年法律家協会弁護士学者合同部会は、「改正案」が廃案になったことを歓迎するとともに、参議院選挙後の臨時国会に同様の「改正案」が国会に上程される危険性があることから、この「改正案」の問題点を以下のとおり指摘し、再上程させない取り組みを強めることを決意する。

まず「改正案」24条1項本文は、保護の開始の申請について、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないとし、同条2項本文は、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。
これにより、現行の生活保護法24条1項が保護の申請を書面による要式行為としてはおらず書類の添付も要件としていないこと、実務上も口頭での申請も受け付けられてきており、口頭による保護申請も認められるとする裁判例も確立していたことと比べて手続きが厳格化され、申請書の不提出や形式上の不備で申請を拒否することが可能となる。
なお、一部修正後の「改正案」24条1項、2項はそれぞれに但書きが付され、「特別な事情がある場合はこの限りではない」と規定することとなったが、これまで「水際作戦」を行ってきた福祉事務所が「特別な事情」の有無を判断することからすると、この例外規定も実効性が乏しいと言わざるを得ず、ますます違法な「水際作戦」が横行することが懸念される。

また、「改正案」24条8項は保護の開始決定前に「当該扶養義務者に対して書面をもって厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない」と規定し、28条2項は要保護者の扶養義務者らに申請書や添付書類の内容調査のために「報告を求めることができる」と規定し、さらに29条1項は要保護者や被保護者であった者の扶養義務者に「官公署…に対し、必要な書類の閲覧若しくは資料の提出を
求め、又は銀行、信託会社…雇主その他の関係人に、報告を求めることができる」と規定している。
現行法下においても、生活保護の申請を行おうとする者が、扶養義務者への通知や調査により生じる親族間のあつれきやスティグマ(負の烙印)を恐れて申請を断念する場合は少なくない。とりわけ、DV被害者など家族関係に問題を抱える人は申請することで前述した通知や調査がなされることにより加害者に居所を突き止められかねないと考え、申請を断念することになりかねない。
このように、改正案による通知の義務化及び調査権限の強化が、申請を行おうとする者に一層の萎縮的効果を与えることは明らかであり、多くの者が申請を断念し、孤立死・餓死・自殺等の悲劇に追いやられる可能性が著しく高まる。

そもそも生活保護制度は「健康で文化的な最低限度の生活」(25条)を送る ための憲法上の権利であるところ、現実には、生活保護制度の利用資格がある者 のうち生活保護制度を利用している者の割合(捕捉率)は、2割程度であると言われている。「改正案」は、現状においても高いとは言えない補足率をさらに低下させ、一層生活保護の申請を委縮させる危険性がある。

2012年8 月に成立した社会保障制度改革推進法は、「安定した財源の確保」や「受益と負担の均衡」(1条)を口実に、「給付水準の適正化」を含む生活保護制度の見直しを明文で定めている(付則2 条)。これを受けて財務省主計官が作成した「平成25年度社会保障関係予算のポイント」(2013年1月)では今後3年間で生活扶助基準の「適正化」の名目で支出額を670 億円削減する方針を打ち出し、政府はこのとおり予算決定し、同年8月から保護費削減を実施しようとしている。
こうしてみると、今回の「改正案」も、生活困窮者に生活保護を申請させにくくすることで、生活保護申請を抑制し、これにより増加する保護費を削減することを狙っていることは明らかである。

当部会所属の会員は、これまで各地の「派遣村」の取り組みに協力し、生活保護申請への同行を積極的に行い、保護申請却下への不服申し立てや生活保護の老齢加算廃止に反対する訴訟などに取り組んできた。また、これまでの人権研究交流集会でも生存権・生活保護問題を取り上げ、研究を深め実践につなげ、2012年12月には「生活保護の給付基準引き下げに反対する決議」を採択するなど、生存
権の実質的保障のために力を尽くしてきた。
今回の「改正案」は、保護申請手続きを厳格化し、要保護者らに調査・報告義務等を課すことで経済的な困窮者を生活保護制度から締め出すものである。当部会は、政府および各政党会派に対して、同様の内容の「改正案」を再び国会に上程しないよう強く求めるとともに、憲法で保障された生存権を実効性あるものとするために、政府に対して生活保護行政を拡充するよう強く求める。
2013年6月29日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第44回定時総会
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