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検察官関与の拡大と不定期刑の上限引上げを内容とする少年法「改正」に反対する議長声明
1 はじめに

 本年 2 月 8 日の法制審議会答申に基づく少年法「改正」の作業が進み、次の臨時国会に上程が予定されている。「改正」の内容は、@国選付添人制度の拡充、A検察官関与の拡大、B不定期刑の上限引上げである。
 国選付添人が選任される対象事件の範囲を「長期 3 年を超える懲役または禁錮にあたる罪」まで拡大することは、元来成人に比して防御の能力も弱く、自らの気持ちや主張を整理し表明する力も不足している子どもたちにとって、適正手続の履践の要請の観点から歓迎すべきである。
 しかし、検察官関与の拡大と不定期刑の上限引上げには、国選付添人が選任される対象事件が拡大されるという積極面があるとしてもなお、以下に述べるように少年法の理念を損なうものであり、到底賛成することはできない。

2 検察官関与の拡大の問題

 今回の「改正」は、検察官が出席できる対象事件の範囲を「長期 3 年を超える懲役または禁錮にあたる罪」にまで拡大しており、これにより検察官が出席できる対象事件には少年事件の主要な部分が含まれることになる。
 少年審判への検察官関与は、2000 年の少年法「改正」によって導入された制度であるが、少年法の基本理念との根本的矛盾をきたすものであった。
 少年法は、未だ発達途上にあり「成長しうる」(可塑性のある)存在である子どもの特性をふまえて、特別の手続の下、非行少年に対して刑罰ではなく保護を行うことを基本理念としている(保護主義、少年法 1 条)。かかる理念は、自ら主体的に成長し発達していく権利(成長発達権)に由来するものである。成長発達権は、個人の尊重、幸福追求権(憲法 13 条)、教育を受ける権利(憲法 26 条)等の憲法的価値に由来する憲法上の権利として位置づけられる。
 かかる理念の下、少年法は、全件送致主義によって、すべての保護事件について家裁調査官による科学的調査に基づくケースワークが行われ少年の主体的な発達を図るための専門家による援助が手続段階においても保障されている。
 このように、少年法における保護手続は、要保護性の解明を第一とする手続であり、少年審判には「懇切を旨として、和やかに行う」(少年法 22 条 1 項)という雰囲気が必要不可欠である。もともと検察官は刑事責任の追及を行うことを使命とし、少年の健全育成を担う専門性を有していない。そのため 2000 年の少年法「改正」まで、検察官は保護手続に関与することは認められなかった。
 検察官が出席して少年を追及することになれば、その場は対立当事者が攻撃防御を行う成人の刑事裁判類似の場に変わり、少年は迂闊な発言ができなくなり、保護手続の雰囲気そのものを、要保護性の解明にふさわしくないものへと変えてしまう。だから厳罰化を進めた 2000 年の少年法「改正」でも、検察官の関与は重大な事件に絞ってしか認められなかったのである。
 少年審判は成人の刑事裁判と異なり、予断排除の原則(刑事訴訟法 256 条 6 項ほか)も、伝聞証拠法則(同法 320 条以下)の適用もなく、証拠制限の手続はない。捜査段階の証拠は全て家裁送致時に裁判所に送られ、裁判官は、審判が始まる前に全ての証拠に接している。裁判官も、少年自身の弁解を聴取しないままに証拠に目を通すことになるために「黒」の心証を形成したうえで、審判を開くことを余儀なくされる。保護手続は、少年の言い分を受けその心証を正してゆく手続となる。
 少年が事実関係を争うとすれば、成人の刑事裁判よりもきわめて不利な立場におかれて手続きが始まることになる。
 今回の「改正」は事実認定を適切にすることを理由とするが、上記のような刑事手続きとの差異に鑑みれば、もっぱら刑事訴追を行う役割の検察官が出席することによって、むしろ少年の立場が極端に弱まり、冤罪を生みだし、少年の心に一生に消すことのできない傷を与える危険が高まると言わざるを得ない。

3 不定期刑の上限引上げの問題

 「改正」は、不定期刑を言い渡し得る場合について、有期の懲役又は禁錮刑の長期の上限を 10 年から 15 年に、短期の上限を 5 年から 10 年に、無期刑で処断すべき場合の代替有期刑について、長期の上限を 15 年から 20 年に、それぞれ 5 年ずつ引き上げる内容となっている。
 不定期刑は可塑性に富む少年が、早期に社会に復帰できるよう処遇に弾力性を持たせるもので、少年法の理念に基いている。子どもの権利に関する条約 37 条(b)は、刑罰を含めて自由を奪うことについて「最後の解決手段として最も短い適当な期間のみ用いること」としている。仮釈放との関係で、短期が規準にされれば、有効な成果につながるはずであるが、現実は仮釈放は長期を規準として運用されているので、長期の延長は少年の拘束を長期化する結果と連動し、処遇の弾力性を後退させる。また刑期の設定は、社会から隔絶した刑務所に収容するもので、発達途上にある少年の成長を阻み自立することを困難にすることに配慮してなされるべきであり、処罰感情を満たすとか、応報に十分かとか、成人の処遇がどうかだけで判断してはならない。この答申の審議では、刑期の上限、下限の延長は、成人の懲役刑上限の引き上げに連動したもので、少年犯罪の凶悪化等に対応したものではなく、もっぱら裁判所の裁量権の幅を広げるものであるとしか説明されていない。このような刑期の延長は有害無益でありなすべきものではない。
 加えて、厳罰化が少年犯罪を抑止する効果はなく、また少年犯罪被害者の被害回復を図ることもない。少年犯罪被害者の権利回復は、被害者自身を援助する体制を総合的に整えることによるべきである。

4 正当化の根拠とならない国選付添人制度の拡充

 国選付添人制度の拡大は、当然なされるべきものであるが、それと並行してあるいはそれを利用してこのような少年法の理念の根幹を揺るがす提起がなされることを無視することは許されない。今回の「改正」は、裁判官が、真実を少年との対話の中から発見するのではなく、検察官の立証に頼るシステムを全面的に導入することに他ならない。
 国連子どもの権利委員会は、わが国の 2000 年「改正」以来の一連の「改正」を繰り返し批判し、改善するよう勧告してきた、今回の「改正」は、これらの国連勧告に逆らってのものでもある。このような制度の下では、弁護士である付添人がどのように頑張っても、あるいは頑張れば頑張るほど、少年は保護手続の中で「お客様」として扱われるようになり、対話をとおして少年が立ち直る制度は失われる。

5 おわりに

検察官関与の拡大、不定期刑の上限の引上げの「改正」はそもそもなされてはならないものである。国選付添人制度の拡充とセットにしたとしても、検察官関与の拡大、不定期刑の上限の引上げには反対である。

2013年6月12日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議 長  原  和 良
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