律家会弁護士学者合同部会
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政府・各自治体・各政党に排外主義の批判と多文化共生社会の理解の
増進を求めるとともに、排外主義に抗することを宣言する決議
1 排外主義の選挙での利用
 2025年7月20日に投開票が行われた第27回参議院議員通常選挙では、参政党が「日本人ファースト」を掲げ排外主義に他ならない政策等を打ち出したのに追随して、自民党、公明党、国民民主党、維新の会といった政党も外国人・無国籍者(以下、単に「外国人」という。)への規制強化政策を打ち出した。在留外国人は、日本の総人口のわずか3%に過ぎないにもかかわらず、国政選挙において、外国人に対する規制が主要な争点となったのである。外国人排除を唱道する参政党は同選挙で14議席を獲得し、躍進することとなった。
 外国人排除政策が一定の支持を得たのは、政府が、保守勢力に配慮して移民の拡大を正面から認めずに、技能実習制度などを通じて、いわば“裏口”から移民を事実上増加させたものの、外国人との共生の理解の浸透を市民の間で図ってこなかったことが原因の一つである。
 しかし、そもそも、これらの政党が指摘するような外国人の増加による治安や経済状況の悪化、外国人による社会保険制度の濫用といった事実は確認されていない。質問主意書に対する政府答弁(内閣衆質218第2号、令和7年8月15日)においても、政府は、「ルールを守らない外国人」について「国民の間で不安が高まっている」ことの根拠として、報道の存在を漠然と言及するにとどまり、質問主意書にあった「具体的な世論調査、事件統計、報道分析」の存在について回答することはできなかった。事実、在留外国人は大きく増加してきているにもかかわらず、外国人の犯罪件数は2004〜2005年をピークに減少傾向にある(令和6年版犯罪白書 第4編/第9章/第2節/1)。
 クルド人が集住し在留外国人の人口比率が高い埼玉県の選挙区においては、日本保守党の石濱哲信候補、日本改革党の津村大作候補、石濱候補の応援演説を行った河合悠祐戸田市議が、演説の中であからさまなヘイトスピーチを行った。それが、現地に住むクルド人をはじめとする外国人の生活を脅かすものであったことは想像に難くない。市民の支持を集めるため、選挙運動の自由が濫用され、排外主義的な主張が堂々となされたのである。埼玉県で露骨なヘイトスピーチをした候補者は落選したものの、相当程度の票を獲得した。参院選後も、政治家による、排外主義を煽るSNS等での発信は後を絶たない。

2 排外主義的政策の氾濫
 政府は、2023年6月に入管法改定を行い、送還忌避罪を創設するとともに、難民申請に制限を課した。これは、生命や自由が脅かされる危険性のある人々を危険が及ぶ可能性のある国へ送還することを禁じるノン・ルフールマン原則に違反する。
 政府は、2024年6月に、永住資格の取消し事由を不当に拡大する、更なる入管法改定を行ったが、同改定は取り消されるべき原因となる行為と結果の重大性が不均衡であり比例原則に違反するものであった。
 2025年5月23日、出入国管理庁は、「ルールを守らない外国人を速やかに我が国から退去させるために」、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を発表した。これに呼応して、強制送還者が急激に増加しており、非正規滞在の外国人に対して、裁判中にもかかわらず、国外へ強制送還をするという動きもみられるようになっている。かかる行為は、裁判を受ける権利(憲法32条、世界人権宣言10条、自由権規約14条)を奪うものとして許されない。
 与党は、「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」において、留学生の支援を打ち切るという方針を決定したが、これは日本の研究水準の低下に直結するだけでなく、大学の方針に従って研究をする立場にある学生に対して、支援の有無を国籍に依存させるという点で外国人差別であり、学問の自由(憲法23条)の侵害にも当たる。
 小池百合子東京都知事は、関東大震災の朝鮮人・中国人等虐殺の追悼式典への追悼文送付を2017年に取り止め、今年も送付しなかった。かかる行為は、過去に行われた負の歴史を直視せず、現在における排外主義や外国人差別を助長するものといえる。
 2024年6月29日、川口市議会では、「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」が採択された。2025年8月4日には、大野元裕埼玉県知事が外務省に対して、日本とトルコの相互査証免除協定の一時停止を求めた。埼玉で外国人の犯罪が増加しているといった事実は存在していないにもかかわらず、一部の外国人批判にかこつけて、市議会・県知事がこのような行為を行ったことは、上記の各事例と同じく、「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動する(人種差別撤廃条約4条?」ものとして許されない。

3 外国人差別のない社会を目指して
 トランプ政権の発足により、アメリカ国内でヘイトクライムが増加したように、政府など権威ある機関や政治家など公人による排外主義の唱道は排外主義者に、差別を行うお墨付きを与える。過去の歴史が示すように、排外主義と権威主義は密接なかかわりがあり、政府、自治体、公人等こそが率先して排外主義を非難すべきである。そうすることで排外主義の流れを押しとどめることができる。
 経済的な苦境が人々を排外主義に走らせるという仮説は、近年の研究ではあまり支持されておらず、排外主義にコミットする者の属性は多様である。むしろ、排外主義者は、自分たちの文化・アイデンティティを脅かすものとして外国人をとらえる傾向があるのであるから、マジョリティに自らの特権性を気付かせ、他者の文化を尊重し、社会的感受性を涵養するという多文化共生の考え方を市民社会に定着させねばならない。
 日本国憲法の前文は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」としており、平和的生存権は日本国民だけでなく、外国籍の人々にも保障される。
 排外主義・外国人差別の蔓延は、外国人の自尊心を奪い、健康を損ない、生活を破壊するといったことで、外国人の平和的生存権を脅かすものである。排除された外国人は、日本に愛着を持とうとすることも少なくなる。排外主義は、更なる排外主義を呼び込み、排除される外国人を、同じ人間であるにも変わらず、マジョリティの下位に序列づけることになる。
 高まりつつある排外主義にわれわれは抗しなければならない。当部会は、外国人に対する排外主義の高まりや、外国人に現に行われているヘイトスピーチに対して断固抗議する。
 当部会は、政府・各自治体・各政党が、排外主義を批判し、多文化共生社会の理解の増進をすることを求め、当部会としても排外主義に抗していくことを、ここに決議する。
2025年9月6日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 2 回 常 任 委 員 会
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